Vol.876 17年9月23日 週刊あんばい一本勝負 No.868


球場に置かれた財布

9月16日 ICレコーダーを使った取材をしているのだが、慣れないせいか昨夜はまったく録音されていなかった。恐れていたことだが、かろうじて取材内容は覚えている。思い出しながら取材メモを作るしかない。場所は東京ステーションホテル2階のバー、混みあっていた。そのためICレコーダーの準備がおろそかになった。使い慣れるしか方法がないのだが、こうしたケースはこれからも何度かありそうで不安だ。というわけで東京3日目、一雨来そうな曇天だが、土曜なのでホテルから見える道路はガラガラだ。外には出ず、おとなしく昨夜の取材メモの再現作業に集中しよう。

9月17日 今日は秋田に帰る。定食屋の大戸屋では「サンマはありません」の張り紙、本の町とはいうものの神保町はもうどこにでもある商店街や飲食店街だ。東京駅付近はビルだらけでまるで映画のセット、未来の廃墟を待っている不気味さすら感じてしまう。ホテルではよく眠られたし暴飲暴食にも走らなかった。早く秋田に帰っていつもの生活に戻りたい。エアロビと静寂と小さな変化のある日常が一番だ。

9月18日 車中でICレコーダーのテープを聴きながら帰ってきた。相手より自分のほうが多くがしゃべっているのにあきれる。本当に取材がヘタで我ながら呆れる。ペラペラ自分のことばかりを自慢げに披歴している。それをまた自分で聴かねばならないの。初対面の人に自分が何者かをわかってもらおうとする意識が強すぎるのだ。このへんを少しトレーニングして、やるしかないだろうな。日々勉強だ。

9月19日 出張すると体重が1キロ増える。元に戻すのに1週間かかる。最近はエアロビがあるので2日連続トレーニングで、一キロ減る。男鹿でクマが出たというニュースには少し動揺。先日は大潟村にも出た。いや、これは誤報だろう、どうして元湖であった場所にクマがいるのか、と思ったが「残存湖を泳いで他地域から個体が移動」してきたのだそうだ。男鹿はどこから移動してきたのか。男鹿も大潟村もクマはいないというのが定説だ。普通の住宅街の秋田市内でクマが現れるのも近い。

9月20日 朝日新聞「天声人語」と言えば「コラムの教科書」のようなものだが、この10年、あのコラムは読んだことがない。最もリアリティない言説のように感じてしまうからだ。逆に地元紙一面下コラムをよく読むようになった。よく勉強している記者が、秋田の歴史や文化の博識を武器にテーマを深く丁寧に掘り下げている姿勢が伝わってくる。その地元紙のコラム執筆者が定年退職で社を去ることになった、といううわさを聞いた。親しい人はどんどん故人になり、慣れ親しんだモノや文化は消えていく。寂しい限りだが、これが人生なのか。

9月21日 朝から車を飛ばして平泉へ。2時間弱でついてしまった。古代から峠(仙北街道)を越せば岩手と秋田は交流も盛んだった。平泉の取材を終え、これから仙台へ楽天対オリックスを観戦に出かける。実は東成瀬小学校の修学旅行にノコノコ付いてきてしまった。明日は八木山ベニーランドを楽しんで帰る予定だが、自家用車なので帰りはちょっと面倒くさい。1泊2日の小学校の修学旅行だ。仙台での野球観戦は小生も初めて。晴れてよかった。3塁側内野席の後ろの席で子供たちと楽天を応援してきます。

9月22日 コボスタジアムで楽天VSオリックス戦を見ているときのこと。私と通路ひとつへだてた隣席の東成瀬小の男子生徒がおしっこに立った。その時、さりげなく尻ポケットから財布を出し席に置いていった。ここは自分の席である、ということを示すサインのつもりなのだ。ええええっ、と思ったが、あまりに自然でさりげない行為だったため、じっと財布を見ているしか私になす術はない。数分後、隣の生徒が財布に気づき先生に報告、あわてて先生は席の財布を回収した。トイレから帰った生徒に「財布置いてったの?」と訊くと「はい」と屈託のない返事。何か問題があるの、と逆に怪訝な顔をされた。ちなみに財布には6千円以上のお金が入っていたそうだ。「盗まれる」という不安は彼にはみじんもなかったらしい。いやはや、なんだかすごいものを見てしまった。昨夜のコボスタジアムは楽天人気で満杯、球場はものすごい熱気に包まれていた。
(あ)

No.868

社会人大学人見知り学部卒業見込
(角川文庫)
若林正恭

 オードリーという漫才コンビの若林正恭の本を立て続けに読んだ。最初は新刊のキューバ旅行の本。わずか1週間ほどの旅を1冊の本に編んでしまう「力量」というかクソ度胸というか居直りに驚いた。なによりも『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』という書名の構え方に、漫才キャラ(人見知りで口下手)とのギャップを感じて戸惑った。この書名はないだろう、いくら編集者側の主張だとしても。内容もなんとなく消化不良だったのだが、どこかセンスの片鱗が光っていて、そこが引っかかった。そこで処女作である本書にも手を出してしまったのだ。なるほど、こちらは実にこなれた真摯なコラムで、本が売れた理由(評価された)がよく分かった。しかし人格的にこれだけ「偏頗」な人も珍しい。スタバで「グランデ」を頼めないし、芸人仲間の飲み会で酒を酌み交わ、嘘笑いは絶対にできない。何をやっても楽しくないし、人と会えば誤解されるだけ。そんな自分がけっこう好きなのだから度し難い。よくこれで芸能界を生き抜いていけるなあ、と同情を禁じえない。でもこの著者は将来的に又吉さんよりも作家として大成するかもしれないね。

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