Vol.914 18年6月23日 週刊あんばい一本勝負 No.906


左目の手術は成功でした

6月16日 そういえば「うめる」という言葉を久しく使っていない。風呂を沸かすと「熱いのでうめてくれ」と少年時代はよく母親に言われていた。意味は「薄くすること」だが、ずっと方言だと思い込んでいた。ある本を読んでいたら出てきたので、方言ではないことをはじめて知った。その本には「定年後に必要なのは教育と教養」という言葉も出てきた。教育は「今日行くところ」で、教養は「今日やる用事」のことだそうだ。

6月17日 今日1日頑張れば、「壁」を乗り越えることができる。だから頑張ろうと昨日から体調を整えていたのだが、だらしなく朝寝。昼に起きてきて腹いっぱいご飯を食べ、どんよりした気分が抜けないまま。来週は白内障の手術があるし、DM注文の発送作業もある。昔よく経験した二日酔いの後の自己嫌悪が蘇える。

6月18日 夜遅くまで粘って、どうにか原稿をやっつけた。むのたけじの週刊新聞「たいまつ」全780号の完全復刻本が不二出版から刊行される。その解説を書いていたのだが、400字詰めで25枚なのでけっこうな力仕事だ。これから少しずつ手直しをして完成させていくのだが、彫刻に似ている作業だ。でもラフが終わると仕事の半分は終わった気になる。関西で大きな地震が起きたようだ。関西にはたくさん友人がいるので心配だ。

6月19日 いまお気に入りのTV番組は「セブンルール」。昨日もワールドカップが終わるとすぐにチャンネルを切り替えた。制作は関西テレビで、フジテレビ系列で流されているドキュメンタリー・バラエティ番組だ。いま最も見たい女性の日々に密着、その生き方の7つのルールを紹介する。ここに登場する女性たちが実に魅力的だ。昨日はなんと校閲者。校正者はいくらでも知っているが校閲者の友達は一人もいない。いや校閲者というのは大出版社お抱えの特殊な職種だとばかり思っていた。ところが登場した女性校閲者はフリーで、しかも仕事の現場として晶文社が何度も登場する。晶文社は私が昔本を出した版元で、最近は新入社員が研修させてもらった親しい出版社だ。中堅どころの出版社でもちゃんと校閲者を使って仕事をするんだ、とヘンなところで感心してしまった。

6月20日 ずいぶん「寒がり」になった。この時期になっても半そでにちょっと抵抗がある。昔は大の汗っかきで真冬でも半そでTシャツ1枚で大丈夫だったのに。カミさんに言わせると、運動(ストレッチや筋トレ)をしないせい、と一刀両断。かに山行回数は減ったし、筋トレはゼロ。新陳代謝がすっかり落ちてしまった。昨日から筋トレを始めている。散歩のときは必ずストレッチ。筋トレといってもスクワット中心のシンプルのものだが、1年後は「エベレスト街道をトレッキングする」ぐらいの大言壮語したい。

6月21日 無事、左目の手術終了。眼帯も外して普通通り仕事をしてます。手術を終え、タクシーに乗ると運転手に「白内障の手術ですか」と話しかけられた。病院が駅ビル中なので毎週水曜日は同じような眼帯患者をいっぱい乗せるのだそうだ。「私も実は白内障なんですが、ブルーベリーのサプリを飲んでいるんで大丈夫」と言う。オイオイ、運転手なんだから手術を受けてください。通販のサプリメントで済むなら医者はいらない。そんなに効くなら国だって医療費削減のため、「ブルーベリーを飲もう」と大々的に宣伝支援するはず。と当方は思うのだが、まあ好き好きですね。

6月22日 明治維新150周年という言い方を東北ではしない。ほとんどが戊辰戦争150周年。あの革命は薩長のテロだ、と苦々しく思っているからだ。わが秋田だけは薩長側。でも周りに気を使い威風堂々と「明治維新」とは言わない後ろめたさもある。徳川の崩壊は薩長の武力だけでなく幕府の経済的無知に付け込まれた「通貨の流出」にあった、という佐藤雅美『大君の通貨』(文春文庫)を今読んでいる。実に面白い。米外交官ハリスの守銭奴ぶりがこれでもかと描かれていて、英国のオールコックもしたたか。なにせ金銀比価が国内は1対5、外国では1対16なんだから、日本の小判を外国に持ちだして還流させれば億万長者になれるのだ。こんな国際情勢すら知らなかった幕府というのは、やはり滅びるよりなかったのかもしれない。
(あ)

No.906

本のエンドロール
(講談社)
安藤祐介

 印刷所をテーマにした本である。これはちょっとめずらしい。出版業界の本と言えばたいていは編集者や作家、営業マンや本屋さんが主人公だ。なのに本書はバリバリの印刷業界物語で、印刷営業の浦本君が主役だ。その印刷業界からみえる作家や編集者、デザイナーたちの生態だ。彼らの理不尽さやでたらめさも、ちゃんと描かれているからリアリティ満点だ。いきなり誤植がテーマで、個人的にはもうこの段階で「切なくなり」読むのをやめようと思ったほどだ。本文と目次の見出しが違っている誤植問題は、編集者なら誰でも一度は経験する凡ミスだ。身につまされる。読み続けるのがしんどくなったが、そこをクリアーしたらスイスイと読み進めた。実に面白いし、実によく調べている。私自身、本を作る仕事は「印刷所との戦い」でもあった。印刷所に何千万もの借金を肩代わりしてもらって仕事を続けている罪悪感や、彼らの給料のために本を作っている、と感じていた時期もあった。しかしまさか「印刷」が面白い小説のテーマになるとは思わなかったなあ。

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