Vol.964 19年6月8日 週刊あんばい一本勝負 No.956


歯医者・新刊・太平山

6月1日 6時起床。町内の公園除草。6時半集合なのだが、その時間に正確に出ると作業は終わっている。20分前に出たが、それでも15分ほどで作業は終了。これは町内会の慣例のようで「時間通りに」というのは難しい。早く来て黙々と作業をする人を「早すぎる」と批判できない。定時に来た人はなんだか悪いことをしたような気分になる。

6月2日 太平山奥岳へ。3時間半くらいで山頂にたつ予定。先週の八塩山矢島口がブラジル旅行前の最後の山などと口走ってしまったが、これが正真正銘、最後の山。秋田市にあるので登山者が多く、事故が起きてもいろんな対応が取れるので、ここなら問題はないだろう。

6月3日 昨日の太平山奥岳はすばらしかった。「疲れをとりながらゆっくり歩く」という、ある人の教えを胸に登ったのだが、その言葉通りだった。疲れやしんどさをまったく感じることなく登ることができた。旅前に山に行くのをためらったのは「クマとあう」可能性が消えなかったため。その予想は的中。中間地点にある御手洗の水飲み場でクマが出た、と登山客に知らされた。すでにそこを通過して下山中のことだったがタイムラグはわずか数分。子クマだったらしい。今日から本格的に旅の準備。ブラジルは何度も行っいる国だが治安が悪い国だ。ベレンというアマゾン河口の街から目的地アマゾンのトメアスーという村に入るためのタクシーを予約。バスは雨が降ると運休するしセスナは値段が高い。タクシーが一番無難なのだ。

6月4日 事務所の玄関階段は二段になっている。もともと農地で盛り土して嵩上げしている立地のため段差がかなりある。この段差に家人からクレーム。年とともに昇降が大変になったというのだ。たしかに高齢者の歩幅では「よっこらしょ」と声を出さなければ無理かもしれない。20代の体力的にバリバリのときに作った階段だから、70代になろうとする今だと、少々無定見のそしりをまぬかれない。思い切って玄関階段大改造をすることにした。設計は山仲間の1級建築士A長老。業者もすべて長老に丸投げだ。

6月5日 海外に行くために一番重要なのは「健康」だ。遊びに行くわけではないので身体に不具合があると仕事そのものがうまくいかない。何度かそういう体験をしているので旅行前は健康第一がすべてに優先。ちょっと心配なのは「歯」だ。昔、サンパウロで食事中、前歯の差し歯がポロリと取れてしまったことがあった。そのときは友人に歯医者さんがいて事なきを得た。鏡で見てみると歯茎が後退して歯との間に隙間ができている。不安になって歯医者さんに診てもらうことにした。

6月6日 予約なしで歯医者へ。行って良かった。やはり前歯がかなりグラつき始めていて間一髪だった。サンパウロで前歯が取れた話の続きだが、治してくれた友人の日系人歯医者さんは、その後、歯医者をやめ日本に出稼ぎにきた。歯医者は「金(ゴールド)」を扱うので泥棒に入られるリスクがきわめて高い。個人で歯科医院を開くのはエリート(高収入)だが、同時にリスクも同じくらいある悩ましい選択である。友人はリスク回避をしてあっさりと医院を閉じた。これがサンパウロという巨大都市のリアルだ。

6月7日 新刊が一挙に3冊。大きな印刷所なので、うちのように初版部数の少ない版元の本は、まとめて刷ってしまうのだ。無明舎用に2,3時間だけ印刷機を確保して、その時間内で3冊すべてを一挙に刷ってしまう。3冊の本の流通を一緒にやらなければならないこちらはいい面の皮だ。けっきょく配本や献本、著者対応などで数日間のみ集中的にてんてこ舞いになる。そしてその嵐のような数日が終わると今度は何もすることがない。
(あ)

No.956

それぞれの終楽章
(講談社)
阿部牧郎

 阿部牧郎が亡くなった。面識はなかったが、好きな作家だった。『遥かなる凱旋』や『小説・秋田音頭』はどちらも2回読んでいる。なのに肝心の代表作、直木賞受賞作の本書は読んでいなかった。
 亡くなったと聞いてから大あわてで読んだのだが、いい作品だ。なんで早く読まなかった悔やんだほど。大館や鹿角で過ごした少年時代を描いた「阿部版スタンバイミー」なのだが、仲間の少年たちはみんな実在の人物たち(もうほとんど物故したが)。書店主や時計屋、料亭亭主たちは、実は私自身も面識のある方たちだった。そんなこともあり88年にこの作品が直木賞を受賞した時、あまりにも生々しく感じたのだろう、本を買わなかった。物語は、作者が50歳の時、同級生だった郷里の税理士の葬儀に訪れるところから始まる。通夜の席で再会した同級生たちとの会話から、作者は40年前の時間の中にもどっていく……のだが主人公の名前は「矢部宏」。どこかで聞いた名前だなあ、とおもったらベストセラー『知ってはいけない』の著者、矢部宏治さんと一字違いだった。矢部さんは友人だ。こんな些細なことでも物語に没入するときは障害になることもある。

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