Vol.968 19年7月20日 週刊あんばい一本勝負 No.960


徐々に元の生活に戻って

7月13日 外は雨。明日も山行予定も入れてない。ひと仕事が昨夜で終わったので、今日は完全なオフ。雨で外に出るのもかなわない。本も今ひとつ面白そうなものが手元にない。こうなればやることはひとつ。そう料理だ。まずは買い出しに行き、ランチ用のカンテン、夕食用のローストビーフ、ギョーザを作ることに。料理は頭を空っぽにしてくれる。いや待てよ。料理の前に包丁を研いでおく必要があった。包丁研ぎは料理と同じくらい重要だ。切れる包丁あってこその楽しい料理なのだ。

7月14日 今日も完全オフなので朝4時半に起き、飛島に行くことに。フェリー乗り場に着いたら「本日チケットすべて売り切れ」。フェリー乗り場の朝市食堂も長蛇の列。10時まで車中で仮眠をとる。山居倉庫も行列で入れないし、鶴岡のソバ屋・大松庵もテーブル待ちの人たちが並んでいた。「道の駅」の日帰り温泉に行くが、なんとここも行列だ。日曜日に行楽地に行くという経験をしてないので行列とは無縁の人生を送ってきた。せめて道の駅で名物の焼き魚を買って帰ろうと店に入ったら、ここも二重の行列。もう、やめた。

7月15日 トイレの「置き本」は遠藤周作編『友を偲ぶ』(知恵の森文庫)。これが実に面白い。いや弔辞や追悼文を面白いというのは不謹慎か。戦後史を代表する有名人たちを、それと同等の友人や親族、ライバルたちが「死を悼んで」書いたものだから。書くほうも書かれるほうも超一流。弔辞の紋切り型である「僕もそのうちそっちに行くから」や「いつかそちらで飲みかわそう」なんて甘ちゃんな言辞はひとつもない。死者を語ることで「自分の意味が問われる」ことを百も承知の、まさに「闘う珠玉の文章」が並んでいる。今東光は大友人だった川端の自殺を「自殺の理由はない。彼の心以外にはだれ一人わからない」と断じているし、三島の死に対する武田泰淳の追悼文も見事だ。深沢七郎の「楢山節考」を評価して右翼に狙われてしまった三島のおかしさなんて普通の人には書けないようなあ。

7月16日 今日から事務所入り口の改修工事。8時半、業者が来て工事を開始。最初にいろいろ基本的な質問(確認)をされるが、当方まったく答えられない。実は設計施行を山仲間の1級建築士・A長老に丸投げしているからだ。私は何の役にも立たないクソオヤジである。

7月17日 サンパウロ滞在の最終日、パウリスタ大通りで美術館やショッピングセンターを冷かして歩き、最後に「ジャパン・ハウス」という日本の文化を紹介する建物へ。ここでは「47人のアーチスト」(だったけかな)という特別展示。日本の各都道府県を代表する芸術家の作品を「一人一県一点」で紹介する試み。秋田県の代表は陶芸家の田村一さん。なかなかのインパクトがあるアブストラクトな作品で印象に残った。彼の作品を見て窯場を訪ねてみたいと思った。どなたか田村さんのお知り合いはいらっしゃいませんか。

7月18日 月に一、二度だが遠方の読者の方から「語源を教えてほしい」とか「根拠になる文献はどこ?」といった問い合わせが入る。「文書で送ってくれば著者に届けます」とか「県立図書館のほうにお尋ねください」といった返事をするのだが、まるっきり見当違いな質問者も多い。「それを調べるのはあなたの仕事でしょう」と言いたくなる類だ。「そんなことぐらい自分で調べろよ、うちは調べ物相談室じゃないんだから」と、のどまで出かかった言葉を飲み込む日々だ。

7月19日 昨日は一日「隠れていた」。誰からも何からも干渉されない空間と時間を作る必要があった。5時間、本当に真剣にその課題と向き合って「そこそこの成果」をあげ、夜8時こと事務所に戻ってきた。今日は朝起きたら、あまりに疲れてて、会社に行く気が起きず「二度寝」。そんなわけで今日はお昼出社です。外は雨で玄関工事も中止。コンクリート打ちっぱなしの新しい玄関が雨に濡れそぼっています。
(あ)

No.960

悪人正機
(新潮文庫)
吉本隆明・糸井重里

 この本も、捨てようとして、なんとなくもう一度読んでみようと再読したものだ。10数年前、読んでいるのだが、ほとんどピンと来なかった。丸で印象に残っていない本だった。でもこの10数年の間にこちらの事情はすっかり変わっている。「ほぼ日」の糸井氏の言動に大きな影響を受け続けていることもあるので、たぶん、今読めば印象は随分変わっているはず。それが再読の理由だ。昔から吉本隆明のいい読者ではない。逆に「ほぼ日」をはじめた糸井氏の本は、ずっと読んでいる大ファンだ。そのファンの目でもう一度読んでみようと思ったわけである。なるほど初読の印象とはずいぶん違った。読んでよかった。難解な逆説も今回はよく理解できたような気がする。やはり糸井氏の質問テーマの選択が素晴らしいのだろう。「いきる」「ともだち」「挫折」「殺意」「仕事」「教育」「憲法」……といった言葉の意味を、吉本は子供にいい聞かせるように丁寧にかみ砕いて、質問に答えていく。その吉本の答えにも質問者である糸井の細かい気配りの効いた「意訳」が仕込まれている可能性は高い。子供から大人まで、まったく差別なく読み通せる本というのは珍しい。

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