Vol.981 19年10月19日 週刊あんばい一本勝負 No.973


ガサエビが好き!

10月12日 家、事務所、倉庫の火災保険更新日。「掛け金」がかなり上がっている。「自然災害が多く支払い額が増えているため」と保険会社側の人は言う。先日の関西の台風被害は入っていないので、またさらに値上がりする可能性大という。国のどこかで甚大な被害があれば何の被害も受けなかった人たちも、実は被災地の保険金を立て替えているのだ。もう70年も生きているのに死ぬような目に遭ったことは一度もない。これは幸運以外の何物でもない。あの3・11ですら「かすり傷程度」だったのだから、なにをかいわんや。

10月13日 大きな災害のあった次の日は注意して街の隅々を見て歩く。今回の台風19号はほとんど小さな傷跡も秋田には残していないようだ。そのいっぽうであいかわらず広面地区飲食店の栄華盛衰は激しい。若い経営者の飲食店らしきモダンな「真っ黒な店」が近所に3店オープンしていた。すし屋、居酒屋、カフェーで、それに倍するくらい潰れる店もある。水商売とはよく言ったもの。広面ラーメン戦争も相変わらずで今日は3店ともに行列ができていた。まずはめでたし。

10月14日 ラクビーの後半、追いつかれそうだったのでチェンネルを変えてしまった。NHKスペシャル『東京ブラックホールU破壊と創造の1964』を見てしまった。21世紀の若者が前回の東京オリンピック開催年にタイムスリップするという設定だ。未公開映像をふんだんに駆使、現代の俳優と合成したモノクロ画面が見事だ。大松監督率いるバレーボールチームは、もとはと言えば集団就職の女子工員たちの娯楽として導入されたもの。それがあまりに強くなってしまい、無理やり東京オリンピックの種目に日本側が「ねじ込んで正式種目にしたスポーツ」だったとは初耳だ。金メダルを取ってもさしてうれしそうでない大松監督の表情の裏には、こうした事情が隠されていたという。

10月15日 『東京ブラックホール』は1964年の東京オリンピックをテーマにしたドキュメント。膨大な未公開映像に現代の役者をタイムスリップさせ、秋田から集団就職した若い女性が、出稼ぎに来たまま行方不明になった父親をさがし歩く…というストーリー設定だった。これはあの奥田英朗の傑作『オリンピックの身代金』からヒントを得て換骨奪胎した物語ではないのか、と突然気が付いた。『オリンピックの身代金』は貧しい仙北の農家出身の若者が出稼ぎ飯場に身を潜めながら、国家に壮大なテロを仕掛けるという社会派ドラマだった貧困、出稼ぎ、若者に焦点を当て東京オリンピックの背景を描いている。今回のNHKの番組には確実に奥田のこの小説が関与している、ような気がする。

10月16日 何時間か集中して考え事をする必要のあるときは駅まで歩いて駅ナカにあるパン屋さんで仕事をする。店内は明るいし、うるさい高校生はいないし、雰囲気が落ち着いている。客層は圧倒的に高齢者のご婦人が多い。声の大きいオバちゃんが多いので、無視しようにも声が勝手に飛び込んでくる。訛りがきつく外国語のような会話に脳は危機を感じ、理解しようと集中し始めてしまう。困ったなあ。

10月17日 先日の3連休で毎日朝寝坊していた。このごろは午後になると疲れが出て、倒れ込むようにソファーで昼寝をする。このため夜眠られない。さらに暴飲暴食をしていないのに夜中に胃痛が襲ってくる。これは胃のピロリ菌退治をしたあたりから続いている症状だ。医者に「ピロリがいなくなると胃液の分泌が盛んになる」と言われていた通りだ。食べすぎないのが一番の良薬という人もいるが、この年になると好きなものを我慢するというのも、けっこうテイコ―がある。

10月18日 鶴岡市に関西の友人を案内してきた。庄内に行くと必ず食べたくなるのはガサエビだ。庄内名物と言うが、にかほ市でも採れるし、私のよくいく「和食みなみ」でも出してくれる。学名はクロザコエビと言い、あのシャコの仲間あ。これを素揚げで頭からしっぽまでカリカリ食べる。カラが甘くて身は食べなくてけっこうというぐらいおいしい。このガサエビ、今や高級食材になったようで、あのイタリアンの『アル・ケッチャーノ』でもコースの中に「がさエビの焼きリゾット」が出た。庄内の人たちは「ガサエビは庄内の特産品」と自慢するが、秋田沖でもたくさん採れる。食べる習慣が薄いだけだ。鮮度が落ちやすいので、どうしても市場に出回らず、地元消費が中心のため全国区にならないのだそうだ。

(あ)

No.973

晴れたら空に骨をまいて
(ポプラ社)
川内有緒

 「別れと死と散骨」をテーマにしたノンフィクションだ。親しい家族や友人を失い、それを見送った5組の人々の物語で、久しぶりに読みながら泣いてしまった本だ。登山家、CMディレクター、ロタ島に住む夫婦、チェコで死んだ画家、装丁家の友人……それぞれ味わい深い人生を歩んだ登場人物たちが主人公で、これらの人物たちは、ふとした偶然で著者の身近にいた人々でもある。物語に絶妙のリアリティと、ほどのいい距離感を生み出しているのは、この人物たちのセレクトが「作為的」でなかったのが一番の要因なのかもしれない。とにかく5組の登場人物たちがみんな魅力的だ。一人一人の物語を膨らませれば、5作の本ができてしまうほど内容に充実感がある。 生前は仲のいい夫婦だったことを確認しようとする著者に、「勝手に仲良くさせないでいいよ」と著者をいさめる登場人物も魅力的だ。一筋縄ではいかない登場人物たちの「生」を散骨という行為から浮き彫りにする、ユーモラスな「生と死」の物語でもあり、悲劇とコメディは紙一重であることを教えてくれる。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.977 9月21日号  ●vol.978 9月28日号  ●vol.979 10月5日号  ●vol.980 10月12日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ