ネパール
ヒマラヤ
 1996年4月、世界最高峰のエベレストをはじめ、8000メートル級の山々に囲まれたネパールへ。いくつもの民族が、それぞれの宗教を信じ、厳しい自然の中で生きている、驚きと感動の山旅であった。眼前に高く迫りくる白銀のヒマラヤ。石を敷き詰めた階段状の山道は上へ上へと果てしなく続く。幾度となくすれ違う重い荷を背負ったロバたちの隊商。ロバやヤクは唯一の交通手段なのであろう。「耕して天に至る」という言葉さながら、はた目には一枚の美しい絵に見える棚田。しかし、急斜面の耕地にへばりついて生活をする彼らにとっては過酷な労働の場所でもある。電気、水道も、風呂もトイレもない生活。しかし、子供たちは裸足で元気に遊んでいる。彼らの大きな澄んだ瞳が、とりわけ印象的であった。

 1997年10月、ネパール再訪。チベット仏教とヒンドウ教の聖地ムクチナートへの山旅である。ポカラから山岳専用小型機でジョムソン空港へ向かい、予約していた現地スタッフ・シェルパと合流、ジョムソンの街をあとに厳しいトレッキングとなる。ヒマラヤの白い峰々、ニルギリ北峰(7061メートル)を仰ぎながら、カリ ガンダキ川渓谷をつめる。
 ムスタン大国の入り口の村カグベニを経て、荒涼とした山岳砂漠(標高約3800メートル)を、高度障害に悩ませられながらムクチナートへ。この時季を選んだ理由の一つは、ヒマラヤを越えるツルたちとの出会いを期待してのことである。幸運にも、10月7日、カリ ガンダギ渓谷のマルファにて、ツルたちと遭遇。V字型に編隊を組んだ約200羽のツルが幾度となく旋回を繰り返しヒマラヤを越えていく。夢にまでみたアネハズルの渡りを、言葉もなく、唯々感激して見続けた。
 ネパール王国の首都・カトマンズでは、「生と死」の融合する光景に出会った。大河ガンジス川の上流部にあたるカトマンズのバグマティ川の川辺にヒンドウ教の聖地があり、亡くなった人をそこで荼毘に付し、灰を川に流す。一方、その同じ川辺には、沐浴して体を清め、黒い髪を洗い、歯を磨き、ヒゲを剃り、水遊びを楽しむ子どもたちがいた。「生」と「死」が日常に融合し一体の物として織り成される世界であった。


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