Vol.1002 20年3月14日 週刊あんばい一本勝負 No.994


ぬか漬けにハマる日々

3月7日 散歩歩数は2万歩。コロナウイルスの影響で飲食店はガラガラというのが本当か、自分の目で確かめに町をほっつき歩いた。金曜日の夜にしてはいつもの3,4割程度の入りといったところか。これが長く続けば資金ショートする飲食店はかなり多く出そうだ。行きつけの料理屋のおやじに訊くと、「もう銀行さんが金を借りてくれって、さっそく来ました」とのこと。夜8時、Sシェフから電話があり、「秋田にも感染者が出た」との連絡、情報早いなあ。

3月8日 右膝が痛い。歩きすぎだ。ということで散歩を避け事務所でカクテルなんぞ作って時間つぶし。乙川優三郎著『二十五年後の読書』の主人公がカクテル好きで、微細にその造り方を書いている。国際的なコンペに出す独創的なカクテルは「143(ワンフォースリー」といい、ジン1、ビール4、コーク3をロックグラスに注ぐだけ。これなら自分でもできる。ビールの分量に合わせて他の分量も決めたので3杯も飲む。

3月9日 外に出るなと言われれば何週間でも家や事務所にいられる。事務所には冷蔵庫も緊急用ベッドもある。風呂と着替えは歩いて30秒の家へ。PCのアマゾンプライム「映画見放題」も時間つぶしには最適だ。アルゼンチン映画『人生スイッチ』が抜群に面白い。スウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』もなかなか皮肉が効いている。映画を通してアルゼンチンやスウェーデンの国民性のようなものが、しみとおるようにこちらに伝わってくる。映画一本見ただけで、その国のことを理解できたような気分になってしまう。

3月10日 暇つぶしには「料理」も効果的だ。コロナ騒動以来、ほぼ毎日のように料理をしている。レシピ通りのカレーライスからカクテル、甜面醤たっぷりのジャージャー麺ソースにギョーザ、肉じゃがといった具合。昨日からは「ぬか漬け」に挑戦。しばらくは「ぬか漬け」にハマりそう。

3月11日 やはり「ぬか漬け」にハマりそうだ。今日、初めて自分で漬けた野菜を食べた。あっさりシンプル、でも滋味ふかい。キュウリやキャベツの芯、ニンジンにゆでたまごなど、冷蔵庫のあまりものばかりだが、なんだか人生が楽しくなってきた。

3月12日 今週に入ってからずっと右膝に痛み。2,3日、散歩を中止すれば治るはずと簡単に考えていたが痛みは去らない。週末、岩手の人たちと貝吹岳登山の予定がある。モモヒキーズの山行であれば途中リタイアで迷惑をかけても問題はないのだが、はじめて会う人たちにわがままは通用しない。早めにキャンセルするしかない。散歩の途中、銀行に「コロナ緊急融資の相談について」の貼り紙があった。飲食店関係の人は深刻な問題だろうな。

3月13日 家や仕事場にこもるのは苦痛ではない。本と料理と映画に、ちょっぴりの仕事があれば一日はあっという間に過ぎていく。アメリカでコロナ差別うけるアジア人のニュースが流れていた。差別する側にはなぜか黒人が多い。先日、エディ・マーフィ主演のコメディ映画を観てビックリしたのだが、登場人物はほぼ黒人、巨大な広告代理店の主要な役職は黒人ばかりで、当然ヒロインも黒人ばかりの映画だ。ここまでやられると映画のリアリティがほぼない。アメリカにおける黒人差別のこれが裏返しの闘争的表現なのだろ。考えてしまった。
(あ)

No.994

脊梁山脈
(新潮社)
乙川優三郎

 著者は時代小説の名手として高名だが、本書は初めての現代もの。戦争から引き揚げてくる復員列車で知り合った男を探し、深山をめぐるうち木工に魅せられ、木地師の源流とこの国の成り立ちをたどっていく。木地師の物語というのもありそうでなかなかない。単行本が出た2013年には購読しているのだが、読む機会がないまま本棚にツンドク状態だった。それが新型コロナウイルスのおかげで、東京のホテルでじっくり読んだ。すごい本だ。感動した。その感銘の正体を今も考え続けている。あの奥田英朗『オリンピックの身代金』に匹敵する驚きと言っていいかもしれない。しかし著者はどのような動機から「木地師の物語」を発想したのだろうか。初版単行本には「あとがき」も「解説」もないから、そのあたりをうかがい知るには文庫本を買うしかない。一度単行本で読んだ本を、失くしたわけでもないのにまた文庫本で買うという経験は初めてだが、そんな気にさせるほど、感銘を受けた小説だ。もうこの著者の大ファンになってしまいそうで怖いほどだ。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.998 2月15日号  ●vol.999 2月22日号  ●vol.1000 2月29号  ●vol.1001 3月7日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ