Vol.1004 20年3月28日 週刊あんばい一本勝負 No.996


自粛は嫌いではない

3月21日 夜半から強風。我が家は風の通り道に建っている。数年前、事務所を大改造して耐震基準をクリアーしてからは揺れなくなったが、以前は大型車が通るたびプルンプルンと揺れ動いて、まるで遊園地にいるような気分だった。その昔の後遺症で今でも風の音を聞くたびに肝が冷えてしまう。

3月22日 コーヒー豆を挽いた後の器具の掃除をする刷毛が必要になった。駅前にあるコーヒー専門ショップに買いに行ったが、「専用のものはない。絵画用刷毛でいいのでは」と言われた。そばの100円ショップで買う。この100円ショップで買って10年近く使い続けているものもある。1枚ものの日本地図と世界地図だ。使うたびに「こんな便利で使い勝手のいいものが100円でいいのだろうか」と思ってしまう。100円という金額の意味や価値をいつもこの地図が教えてくれる。

3月23日 事務所の台所からキュルキュルと水の漏れているような音。水道管の漏水だ。すぐに民間業者に修理を依頼。今日がその工事日。面白いことに同じ建物の2階のシャチョー室は普通に出た。定かな理由は忘れたが2階の水道管は隣の自宅から引いていたのだ。昨日と同じ今日はないし明日は何が起きても不思議ではない。

3月24日 午前中、仕事をさぼって駅中映画館へ。アカデミー賞の韓国映画『パラサイト』を観てきた。「貧乏人の匂い」が映画の重要なキーワードになっていて、その匂いが大スクリーンに立ち込めていた。若いころ劇作家・つかこうへいの「熱海殺人事件」を舞台で観た時と同じような衝撃と笑いがあった。社会派コメディの傑作映画で、ちょっとやりすぎ感もあるが、日本の三谷幸喜のやりすぎよりはずっと抑制的。『万引き家族』よりはスリリングだ。仕事をサボって観る価値のある映画だった。

3月25日 毎朝、起きるときに身体のどこかに不調がないか確認する。幸いなことに、ここ数か月医者にかかるような症状はどこにもない。とはいえ何もかも万全とはいかない。特に耳の老化は本人も自覚のないまま着実に進行中のようだ。テレビCMは早口で何を言っているのかわからない。これはタレントのせいにしていたが、どうやらこちらの聴覚のほうに問題があるとわかった。アマゾンプライムのPCで観ている映画音声もよく聞き取れない。ボリュームを最大に上げているの、ささやいているようにしか聞き取れない。音楽を聴きながら仕事をしているのだが、これも微妙な音は聴こえない。目や鼻に比べれば耳くらい、と思って油断していた。でもいまさら騒いでもどうにかなるものでもない。

3月26日 『地図でスッと頭に入る世界史』(昭文社)が実に面白い(ためになる)本だったのでビニールボールの地球儀も調子に乗って買ってしまった。「ほぼ日のアースボール」という商品で、スマホやタブレットを地球儀にかざすと世界各国の動画や写真、テキストなどにアクセスすることができる。これまでは100円ショップで買った世界地図で十分に間に合っていたのだが、各国の背景にある歴史や文化を知ると、地図を見るのがもっと楽しくなった。アースボールは6000円ほどするのだが、これからずっとそばにおいて使えそうだ。

3月27日 3.11の翌朝にはもう「屋根を修理する補償が国から出る。口座番号を教えてくれ」という詐欺電話があったという。それ以外にもわけのわからない訪問販売をする詐欺集団が被災地に跋扈した。この手の(コロナウイルス)国家的災害こそ「最高のビジネスチャンス」と前向きにとらえる犯罪集団が日本にもちゃんと存在する。赤松利市著『下級国民A』は、福島の除染作業員などの自身の経験を描いたドキュメントだが、原発事故のすぐあと、できるだけ事故原発に近い場所の土地を買いあさろうとする業者たちが描かれている。いずれ政府は除染作業のため巨費を投じて、その場所に作業員たちの宿舎をつくらなければならない。そのとき政府に高額で売りつけるのが目的の投機なのだ。頭がいいのか、悪知恵が発達しているのか、よくこんな発想が生まれるものだ。このさき首都封鎖にでもなれば詐欺集団はどんなビジネスを考えるのだろうか。たぶんもうすごいことを考えついて東京に侵入しているのだろうな。
(あ)

No.996

地図でスッと頭に入る世界史
(昭文社)
祝田秀全

 方向オンチだ。自分で言うのもなんだが筋金入りの方向オンチだ。だから山登りも一人で行くのは無理、グループでの山行専門だ。地図を読めないのが基本的原因なのだが東西南北がよくわからないのだから世話はない。これでは読書でも困ることが多い。「地勢」を理解できないと筋書きが分からなくなる。ゲルマン民族とノルマン民族の地勢的差が分からないと、ヨーロッパとはなにかすら理解できない。
 本書はその悩みをスッキリと解決してくれた。最近の大事な座右の書だ。サブテキストとして、いつもそばに置き別の本を読んでいる。例えば苦手だった中国ものも、「秦」「漢」「隋」「唐」「明」「清」の王朝名や時代背景、地勢などを本書で確認すると実に面白く読める。読書の守備範囲がググっと広がった感じなのだ。これまでヨーロッパや中国を舞台にした歴史小説や物語は敬遠する傾向だった。複雑極まりない地中海周辺の小国や中東周辺の話題の国々の位置や地勢が明確になると物語の理解が見事にスムースになった。ちなみに本書には『地図でスッと頭に入る日本史』もあるのだが、こちらはあまり役に立たなかった。本書の編者は予備校の先生だ。痒いところに手の届く構成、簡潔な編集の技術的見事さは、予備校の先生でなければ無理だ。

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