Vol.1008 20年4月25日 週刊あんばい一本勝負 No.1000


一番の難読は「甲」だ。

4月18日 NHK・TV「アナザーストーリ」は面白いテーマが多い。先日は「ベルリンの壁」がテーマ。この壁を壊した原動力にデビット・ボーイというロック歌手が深く関与していたという番組だ。興味深く見ているうちボーイからいきなりブルース・スプリングステインに主役が変わった。西のボーイに対抗するため、東側ではニカラグア反政府軍支援をうたい同じロック歌手ブルース・スプリングステインのコンサートを開いたのだ。西の熱狂のガス抜きである。ロックで若者をつなぎとめる東西戦争の勃発である。壁崩壊の1年前の出来事だ。スプリングステンは政治利用されていることに危機を覚え「ニカラグア」の文字を撤去させる。コンサートはどちらも大成功を収めた。こういう裏話、大好き。

4月19日 手帳を見ると「毎日ブラジルの原稿をちゃんと書こう」と決めたのが3月29日。もう3週間が経過しているわけだ。時間の割に作業ははかどっていないがゴールに向かって進んでいるのは間違いない。昨晩、首下に発疹。あっ、いつものやつだ。強いストレスがあったり体が疲れてくると出てくる、一種の蕁麻疹のようなもの。これがひどくなるとかゆみが全身(腰回り)にきて帯状疱疹状態になる。

4月20日 もう15年以上前の話。秋田大学医学部公衆衛生学の先生で島田彰夫さんという人物がいた。帰宅途中、うちの事務所によっては雑談していくのだが、その話が実に面白かった。そんな縁で彼の本を2冊(『身土不二を考える』と『あきた民間療法の言い伝え』)つくった。世界中のトイレの話や、せんべいを食べないから子供の視力が落ちている、と突拍子ない話が実は入念にデータを積み上げた緻密な研究によるもので学界でも高く評価されていた。秋田大学時代は講師のまま助教授にもなれなかったが、のちに九州大学に転任し、いきなり教授になった。そして60代の若さでなくなってしまうのだが、いま生きていたら、たぶん新型コロナに関してビックリするような知見を聞かせてくれたはずだ。医学における公衆衛生というジャンルの大事さを改めて感じている。

4月21日 15日に鳥海山鉾立登山口にある稲倉山荘がオープン、例年通り本を納品してきた。ところが昨日になって山荘側から、町からの要請で店は開けないことになったとのこと。「鳥海山のような大自然の中でも自粛ですか?」と訊いたら、その答えに驚いた。道路開通の日、例年の数倍の人間がドット押しかけてきたのだそうだ。これを見て店の人は、これはダメだ、と思ったという。一番の稼ぎ時であるGW中に山荘を閉めなければならないのはつらいにちがいない。

4月22日 3・11のあと自家発電機を買った。けっこう高額な買い物だった。今回は衝動的に「尿瓶」を買ってしまった。ずっとコロナ騒動で事務所や自宅で仕事をしていると、階段を昇降してトイレに行くのが面倒くさくなった。ネットで調べると、やはり需要があるのか、バリエーション豊かな尿瓶が出てきたので、3千円くらいの病院で使う男女兼用のものを買った。まだ手元には届いていない。小さいころ、病気をすると尿瓶に用を足していた。若いころは酒を呑んで尿意をもよおすと、尿瓶があればなあと何度も思った。ようやく念願がかなったが、たぶん使わないだろうな。

4月23日 公表される企業倒産数は100社に満たない。私的整理、公的整理といわれるものは負債金額が1000万円以上でなければ「倒産」にカウントされないのだそうだ。広告収入の途絶えた情報誌やスポーツイベントが消えたスポーツ新聞など、たぶん活字の世界も暗澹たる現状だろうが何とか持ちこたえているようだ。7,8年前、一人でできる規模に仕事を縮小しようと思い、銀行にも印刷所にも取引先にも貸し借りをいっさいつくらないと決めた。あの決断は間違っていなかった。どうにか今日も生き残っている。

4月24日 TVのモーニングショーで女性アナウンサーがパネルの「棺」という字を読めず、2度も苦し紛れのスルーをしていた。いや人のことは言えないな。ネットで「狡はいけない」と書いていた女優がいた。「ずる」と読む。こんな使い方があったんだ。昔の小説には度々「己に」と出てくる。「すでに」と読むのだが、読めなかった。「小池都知事は自粛厨」という書き込みもはてな(?)だ。てっきり誤字だと思ったが「じしゅくちゅう」と読むのだろうか。厨は台所や女中といった意味があるので、これでいいのだろうか。TVに千葉県の「匝瑳市」とテロップが出てきた。アナウンサーの音声を聞き逃すまいと身構えたら「そうさし」と読んだ。兵庫県の「宍粟市」(しそうし)並みの難読地名だ。まあ一番の難読は自分の名前「甲」だ。これまで初見でこれを「はじめ」と読んだ人にまだ会っていない。
(あ)

No.1000

下級国民A
(CCCメディアハウス)
赤松利市

 学生時代の友人から電話で、息子さんが北九州で刑事をやっているという。荒っぽい気性の街で「人を見たら泥棒と思え」を地で行く刑事暮らしをしているのだそうだ。もう少し具体的に言えば、3.11やコロナウイルスと言った災害があると、その街の悪たちは被災地にすぐさま「出張」し、あらん限りの詐欺を働いて、街に帰ってくるのだそうだ。その話が興味深くて、本書に触手が伸びた。著者は近年、大藪春彦賞を受賞するなど話題のバイオレンス系の小説家。関西の大学を出て、起業し成功するも、仕事も家庭も破綻、以後は東日本大震災を機に宮城県や福島で土木作業員や除染作業員として食いついだ。そして住所不定、無職のままマンガ喫茶などで小説を書き上げ、何と文壇にデビューした変わり種である。本書は小説ではない。大藪賞受賞後初の随筆集なのである。オビ文は「美しい国? 日本が? この話、すべて真実。」というもの。カバー写真も凄みの効いた本人の顔で、こちらをにらみつけている。書名も見事だ。文字組みがスカスカで三時間もあれば読み通せてしまうのが欠点と言えば欠点か。随筆なので最下層に生きる人々の喜怒哀楽がストレートに伝わってくる。原発事故が起きた途端、その現場のできるだけ近くに不動産を買って一儲けをたくらむ怪しい人々の生態がよく分かった。

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