Vol.1055 21年3月20日 週刊あんばい一本勝負 No.1047

「決算!忠臣蔵」は面白い映画だった

3月13日 中世の出羽の武将・安東愛季の足跡をたどる古城めぐりは予想以上の収穫。特に男鹿の脇本城は広大さとよく整備されている環境に驚いた。檜山城のほうは城跡全体が松くい虫被害で業者らによる駆除作業の真っただ中、本丸に立ってもあまり感慨は湧いてこなかった。

3月14日 今日は仙岩峠の貝吹岳に行く予定だったが雨で中止。そこで今日は周辺の「古城めぐり」に行動予定を変更。角館の戸沢城跡、協和の唐松城跡などを見学。先日の脇本、檜山が予想以上にすばらしかったので、今日も引き続き安東愛季の当時の歴史を振り返りながら、その安東と攻防を繰り広げた城跡を見てこよう、というツアーになった。

3月15日 出版の世界の片隅で禄を食んでいるのだが中央で起きている業界の出来事にはとんと疎い。アウトドア関係の本や雑誌を出していた「エイ出版」が倒産したことも知らなかった。毎月、新聞に大きな広告を売っている「親鸞」関係の本の出版社が実はカルト宗教系というのも最近知ったばかり。なかなかいい本を出すなあと感心していた「デスカヴァ・トゥエンティワン」というヘンな名前の出版社も出発点は自己啓発セミナー大手だそうだ。藤倉善郎『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)はもう8年も前に出た本だが、知らないことばかりで驚いた。

3月16日 明日からDM通信発送が始まる。不定期にしてから半年ぶりの通信だ。新刊が5本以上溜まったら通信を出そうと決めていてギリギリその5本に達した。半年で5冊というのは、この紙文化斜陽時代とはいえ、ちょっぴり情けない。もう元に戻ることはないのだろうが、こうなれば「紙と活字」の断末魔をしっかりとこの目で見届けたいと思っている。

3月17日 「本を読む」のは仕事の一部だ。だから、いくら本を読んでも自慢にはならないが、読書は無上の楽しみだ。いま三島由紀夫『金閣寺』を読んでいる。これをいまの若い人に読ませても「面白い」と感じる若者は多くないのではないのだろうか。スゥイフトの『ガリバー旅行記』も夏目漱石の『吾輩は猫である』も読むとわかるのだが、かなりの読書経験(リテラシー)がないと読みこなせない「難解な日本語」だ。難解なものを理解するには助走としての基礎知識がいる。その基礎知識が出来上がるのは私の場合は50歳過ぎ。いま70歳になって古典や名作の一部を少し理解できるようになった。本を読むのは長い時間の伴奏が必要なのだ。

3月18日 テレビでもラジオでもジャニーズ系の若いタレントが出てくるとすぐに消す。番組制作側から言えば「これはあなた方(老人)を対象とした番組ではありません」と宣言しているものだからだ。すぐにクラシックのCDに切り替えるのだが、最近はピアノやヴァイオリンのソロから交響曲や協奏曲の壮大な演奏が好きになった。年齢と関係あるのかもしれない。音楽を聴いているとき電話で話す声が自然と大声になっていることも今日発見。注意しなければ。

3月19日 「決算!忠臣蔵」という映画を観た。これがドンピシャり。実に興味深いコメディに仕上がっていた。当時の「そば」の代金は16文、これを480円として一文30円を基準に、赤穂浪士の討ち入りまでの経済収支を実にわかりやすく数字で解読する。お家断絶の段階で1億円近くあったお金が討ち入り寸前でマイナスに転じるまで、お金を軸に語られる忠臣蔵は新鮮で驚くことばかり。当時の赤穂から江戸までは13日かかり、一人当たりの旅費は36万円(3両)。吉本芸人が総出演なので「期待薄」だったが大外れだ。芸人たちがいい演技をしていたのが意外だった。こんなユニークな視点の歴史ドラマをもっと見たい。
(あ)

No.1047

午後の曳航
(新潮文庫)
三島由紀夫

 コロナ禍に翻弄され、出版界もこのところ話題作は少ない。新作に一喜一憂するよりも、そろそろ過去の名作をじっくり読む時期かもしれない。と、枕元に夏目漱石や三島由紀夫のうんこ本を積み重ねている。三島由紀夫は日本を代表する作家と言われているのに食わず嫌いで全く読んでいない(エッセイは読んだ)。いい機会なので三島を集中的に読んでみようと突然思いついた。最もとっつきやすそうなのが本書だった。面白ければ「金閣寺」「仮面の告白」「「宴の後」と読み続ける予定で、それらの文庫本はもう買ってある。読み始めてちょっとショックだったのは「意外と読みにくい文体」に気が付いたこと。こちらが現代作家ばかり読んでいるから、一昔前の作家への免疫ができていないせいもある。13歳の少年グループが大人社会の「薄汚さ」を清算するため悪魔的計画を立て、それを実行する話なのだが、まるで自分の人生とクロスする接点がない。そのせいでおとぎ話を読んでいるような浮遊感だけが先行する。三島の文学世界の入り口が見つからないまま読了。この作品は三島が横浜港で船員らに取材して一気に書き上げたもので著者38歳のときの作品だ。少年たちの「英雄像」が理解できなかったのが問題なのだろうが、引き続き別の三島作品を読むのか迷っている。

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