Vol.1057 21年4月3日 週刊あんばい一本勝負 No.1049

「自舎保存本」集めに奔走した1週間

3月27日 書庫から『湯沢高等学校50年史』という立派な函入りの本が出てきた。私の卒業した高校である。こんなちゃんとした本をいつの間につくったの、やるじゃない。と素直に思った。しばらく食い入るように読んで気が付いた。これオレが作った本だ。奥付を確かめると「制作 無明舎出版」の文字。自分が精魂込めて一所懸命つくった本をまったく覚えていないほど、長くこの仕事を続けてきてしまった。このまま現役で仕事を続けていっていいのだおるか。

3月28日 久しぶりの山行。この1カ月間に5キロほど体重が落ちている。どのくらい山行が変化するか、興味津々だったが、疲れは少ないし身体が軽い。今日が最後になるかもしれないスノーシューの雪山ハイクだったが、ほとんど雪なしで「ツボ足」で最後まで登り切った。山はやっぱりいい。みんな忘れてスッキリ。夜はこれまた久しぶりに「ひとり晩酌」。

3月29日 今日は七十二候では「桜始開(さくらはじめてひらく)」。大潮の満月とカレンダーにある。そういえば昨日の保呂羽山でも、登りにはイワウチワが可憐だったし、下りにはミスミソウがいたるところで白いきれいな花を咲かせていた。もう三月も終わり。近年にないハードなスケジュールの一か月間だったが、過ぎてしまえばいつもの月日と同じ。四月は穏やかな日々になりそうだ。

3月30日 シャチョー室隣の書庫が「書庫でなく食糧庫」になりつつある。これはまずいので極力食べ物類を整理、さらに雑然と積んでるだけの本もジャンル別に整頓することに。そこで気が付いたのだが、自分のところで出した本がちゃんと保管保存されていない。1階の事務所には「全出版物の保存本」専用書架があるが西日があたってカバーの色落ちがひどい。倉庫を探したり、汚れ本(返品)の中から拾いだしたりして、もうワンセット自宅に保存本棚をつくろうと思う。

3月31日 自舎本の保存ストックを書斎につくりだしたら止まらなくなった。倉庫をあさったり、古本屋をはしごしたり、友人たちに連絡を取ったり、本集めに歯止めがきかなくなってしまった。あまりにも「ない本」が多すぎる。手元に読んだ本を「溜めておく」癖はまったくない。だから書斎の書架は空っぽだったが、ある日突然、自分の作った本でここを埋めてみたら気分がいいかも、と思いついた。それが間違いだった。本は集めだすと欲が出る。ない本がわかると夢中で探し始める。

4月1日 4月である。お役所ではないから「新年度」という感覚はゼロだが少しは影響がある。やることは普段と変らない。来し方を振り返れば、サラリーマンとはまるで真逆の人生を選んでしまったが、毎日、事務所で規則正しく出舎して、夕方家に帰って寝る繰り返しは基本的にはサラリーマン生活と変わるところはない。ときたま「ボーナスって一度もらいたかったなあ」なんて思わないでもないが、いつの日か自分に「特大なボーナス」をなんて夢見て、今まで頑張ってきたが、それも夢に終わりそうだ。ほどほどの人生は、まだまだ続く。

4月2日 毎日のように「自舎保存本」蒐集のために走り回っただけの1週間だった。横町にある古書店に何度か通い詰め、結果100冊ほどの自舎本を集めた。持ち帰ってみるとダブりもかなりあり、それをまた取り換えてもらうため店に戻り、といったことを繰り返した。使ったお金は7万円ほど。一番高いのが私自身が書いた無明舎の処女出版の『中島のてっちゃ』で4000円。定価800円のものだ。10冊に1冊の割合で定価の2倍以上したりするから買うのに勇気がいる。定価1万2千円の豪華写真集に2200円の値付けがされていた時は逆に小躍りするほど喜んでしまった。
(あ)

No.1049

バラカ
(集英社)
桐野夏生

 コロナ禍の自粛で閉塞感でいら立ってきた。面白い本が読みたい。4,5年前に読んだ桐野夏生『夜の谷を行く』を思い出し再読。再読なのに巻おくを能わずの面白さだった。もっと読みたいと思い本書を手に取った。ドバイのスークに売られたブラジル日系人の赤ちゃんをめぐる物語だ。物語がけっこう輻輳して、丁寧に読み進んでいかなければ筋がこんがらがってしまう。あとでここに東日本大震災までが絡まり、壮大というか時間をかけた物語が紡ぎさされる。でも『夜の谷』ほどに面白くないのは、簡単に物語の中の人が死んでしまう(殺される)からだろう。殺人事件が起こりすぎなのだ。軽々と人が死ぬ物語は昔から好きになれない。この本を読みながら、もう1冊、昔読んだ本を思い出し、これまた再読した。垣根涼介『ワイルド・ソウル』(幻冬舎)で戦後のブラジル(アマゾン)移民が日本政府に復讐を仕掛ける冒険小説だ。日本にやってきた移民が暴れまわる大スペクタクル活劇でテロリストを描いた物騒な物語なのに人は一人も死なない。最後はヒーローとヒロインがアマゾンの村で劇的な再会を果たす大団円の物語だ。本書とは偶然だがどちらも「ブラジル移民」が関わっていることだった。

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