Vol.1126 22年7月30日 週刊あんばい一本勝負 No.1118

「死亡欄」より「クマ目撃情報」

7月23日 県立図書館通い。文献を何冊か探しているのだが、すぐに見つかるものもあればないものもある。「歴史読本」という新人物往来社から出ている雑誌(昭和53年5月号の特集「原日本人100の謎」)を読みたいのだが県図にはバックナンバーがない。昭和61年度からのものしか保存していないのだそうだ。家に帰ってやけくそでヤフオク検索すると、1冊1000円で売っていた! ちょっと拍子抜け。県図の帰りになじみの古本屋へ寄り、いつものように「自舎本」を物色するが収穫なし。「倉庫に弾丸はいっぱいあるけど、肝心の鉄砲がない」と主人。買い付けはしたが人手がなく倉庫に眠ったまま、という状態だそうだ。その倉庫にオレを入れてくれ。

7月24日 ひとり前岳登山。前回と同じく山頂まで2時間近くかかってしまった。A長老がよく言う「知らぬ間に山が高くなっていた」感じだ。水は1・5リットル持ったがすべて飲み干した。体力が落ちているので、とても同じ山を登っているとは思えないほど。前岳はキツイ。ここをスイスイ登れるようになれば言うことがない。この真夏の前岳を「修行」だと思ってやり抜くしかない。

7月25日 いつのまにか日常生活に浸透して「なくてはならなくなった」ものがある。ひとつは900ミリリットルの「おいしい牛乳」。これは毎日食べるヨーグルトを作るので週に3本は必ず買う。梅干しも「山用おにぎり」をつくるのに欠かせない。無添加の塩のみの南高梅をネットで買っているが、けっこう高い。塩分(20パーセント)も高い。NHK高校講座をチェックして録画するのも、すっかり定着した。観るたびに若いころの不勉強を恨みたくなる。先日は珍しく文系の「美術」講座を録画。「建築と美術」というテーマで「ゴルビュジエ」を取り上げていた。こんなことを高校時代に知っていたら、もっとまともな大人になっていただろうな。

7月26日 このところ本も映画も「はずれなし」。本はもっぱら花家圭太郎の時代小説だ。スーパーヒーロー戸沢小次郎シリーズはすべて読み終わり、「竹光半兵衛」「永井新兵衛」ものにはいったところ。寡作な作家だったが、まだまだ読む本が文庫本で残されているのがありがたい。映画もフランス映画「最高の花婿」、ドキュメンタリー「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」と、どちらも面白かった。フランス人はレイシズム(人種差別)もユーモアで映画にしてしまう。乳母の仕事をしながら歴史に残る写真を残した女性写真家の不思議な生涯をたどったドキュメンタリー映画も実に興味深かった。

7月27日昨日、梅雨が明けた。近所のコンビニも再開したが、県内コロナ感染者は1200人越え。駅前に突然カモシカが現れた。大騒ぎのニュースになっていたが、このカモシカ、ずっと千秋公園を根城にしているやつにちがいない。札幌市街に現れたヒグマは、郊外の緑地公園を伝わりながら山から札幌市街まで降りてきたという。秋田市のカモシカは、千秋公園から個人家庭の庭や菜園を伝わり歩きながら駅前まで出てきてしまったものだろうか。

7月28日 外でトイレに入ると「きれいにつかっていただき感謝します」といった肯定的な文言のコピーが目立つ。心に届くやさしい言葉を使うほうが、説得や教訓や命令などの文言よりも効果的、と知っての傾向なのだろう。たしかに威圧的な命令口調や役所的お決まり文句には時に苛立ちや反発を覚える。先日、たまたま読んだ天声人語が、尾瀬の山小屋のトイレ寄付願いの「ポスター効果」について書いていた。お願い文書から「女児のつぶらな瞳を大写しにしたポスター」に替えたところ、寄付額が上がったのだそうだ。こういった「やさしく相手に訴えかける手法」を英語では「ナッジ(そっと突く)」というのだそうだ。強制や対価に寄らず行動を促す、という手法だ。なるほど、そうだったのか。時代はナッジへと大きく舵を切りつつあるようだ。

7月29日 地元新聞を購読しているのは「死亡欄」を見るため、というのはよく聞く話だ。この年になるとその気持ちはよくわかる。私は死亡欄よりも冬季間以外に毎日掲載されている「クマの目撃」(県警調べ)という記事に必ず目を通す。ちなみに27日の目撃情報は5件。秋田市河辺が1件あるが、それ以外はほとんどが県北部に集中している。とくに鹿角周辺は毎日の常連地区だ。目撃情報では必ず「民家からの距離」が書いてある。民家まで50mから300mといったあたりが多い目撃地点だ。50mといえばほぼ目前に出没したのと同じではないか。山でクマに遭うことはめったにない。でも里で彼らに出会遭う確率は、実はかなり高い。  
(あ)

No.1117

青き剣舞
(集英社)
花家圭太郎

 花家圭太郎の「花の小十郎シリーズ」は面白い。「暴れ影法師」から始まって「荒舞」「乱舞」「鬼しぐれ」と続いたが、この4巻でシリーズは終了した。12年に著者が肺がんのため66歳で亡くなったからだ。50石取りの佐竹藩の元かぶきもの(いまの半グレですね)小十郎が実在の歴史上の人物たちと丁々発止でやり合う荒唐無稽な冒険活劇時代劇だが、大久保彦左衛門や宮本武蔵、沢庵和尚や柳生一族、徳川家光や時の天子様まで登場し、ホラ吹きの問題児・小十郎とやりあう。実在の人物や歴史的事件は綿密に史実に照らし「徳川実記」や「梅津政景日記」など読み込んで舞台設定がなされている。この背景描写がリアルなので、小十郎のスーパーマンぶりが不自然に見えないのだ。本書はその冒険活劇から一転、3人の貧乏な若者武士たちのそれぞれの境遇の中での生き方を描いた青春群像時代劇だ。佐竹藩に婿入りした主人公が、親友に義父を殺められる。敵となった友を追い求めて江戸へ出立、義理と友情に揺れながら、宿命の対決を迎える……本書もやはり舞台背景には「生類憐みの令」や「赤穂浪士の討ち入り」などが使われ、激動する当時の時代背景がリアルに描かれている。著者の真骨頂はこの時代背景の臨場感だ。

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