Vol.1127 22年8月6日 週刊あんばい一本勝負 No.1119

いいものは無料ではない

7月30日 最近、出口治明さんの名前をきかないなあ、と思っていたら突然、新刊。その書名も『復活への底力』(講談社現代新書)だ。脳卒中を発症して1年半がたつという。コロナ禍と軌を同じく闘病中だったわけだ。新刊はそのリハビリ闘病記だ。車いすに乗った本人が表紙になっていて瘠せたようだ。でもAPU(立命館アジア太平洋大学)学長には完全復職したとある。歴史の知識はすべての学問の基礎と教えてくれたのは出口さんだ。早く新刊が読みたい。

7月31日 柏市に住む弟から梅干しが送られてきた。昨日7月30日は「梅干しの日」である。知ってた? 7は「難」、30は「さる」ことから「難が去る」。「梅はその日の難のがれ」という古くからの言い伝えからできた記念日なのだろう。旅館などの朝飯に必ず梅干しが付いているのは「旅の無事を願う」という風習があったためだ。昔の旅人は旅に梅干しを携帯する慣習があった。厄災を払う効果があるからだ。弟の梅は塩分15パーセント、ハチミツなど甘い物を使っていない。滋味深い、なかなかうまい梅干しだった。

8月1日 タルタルステーキはドイツあたりの発明品かと思っていたら、團伊久磨の本で「モンゴルである。彼等タルタル人が遠征時に生馬肉を兵糧として鞍の下に入れ戦っていたら、ちょうどうまくなって……」と書かれていた。納豆の発祥伝説とよく似ている。小説家をどうして「作家」というのだろうか。原稿料で家を建てる人だから、ではなく古代から狂言作者などを「作者」と呼びならわしてきた。明治以降、それと区別するために新たに登場してきた小説家たちを「作家」と名付けたのだそうだ。けっこう新しい名称だ。

8月2日 シャチョー室宴会の時、Sシェフから「スポンジの泡立ちが悪すぎる」と怒られた。食器洗い用の洗剤スポンジのことだ。言われてみれば確かに使い勝手は悪い。油を吸うとすぐギトギトになり、数回でヘタって、使い物にならない。100円5個の安物のやつだ。ちなみにシャチョー室宴会の後片付けは男性陣の役割で、洗い場担当がSシェフだ。次の日、言われるまま一個250円のスポンジに買い替えた。これがビックリするほどよく落ちる。使い勝手も良くて人生最大の気持ちよさだ。安ものは要するに「使い捨て」商品だったわけだ。

8月3日 湯沢市と増田町に行ってきた。湯沢では町中にやたら「ジオパーク関連」の宣伝が目立ち、市を挙げての大イベントの様相を呈していた。新しい駅の中はもちろん公共機関、町角のいたるところに「ジオパーク」の宣材があふれ、ほとんどお祭り騒ぎ。閑散とした町並みとまるでバランスが取れていない。このフィーバーの正体はすぐに分かった。ジオパークというより「地熱」だったのだ。国(独立行政法人)から「地熱資源の活用による地域の産業振興に関するモデル地域」に選ばれ、大きな調査予算などが付いたのだ。当分の間、湯沢市にはこの地熱開発調査事業で大きな額のお金が落ちる。町にとってはいいことに違いないが、時には歩を止めて、後ろを振り返る余裕もほしい。

8月4日 後半戦のナイターが始まったが、巨人があまりに弱くて画面に集中できない。届いたばかりの大宅賞作家・鈴木忠平の新刊『虚空の人』を読み始めたら、あまりの面白さにナイターどころではなくなった。巻を措く能わず、夜中1時過ぎに読了。今年のベストワン候補かも。あまり興味のない清原和博という人間の光と闇に追ったドキュメンタリーだが、さすが『嫌われた監督』で大宅賞を取っただけのことはある(といってもこの本はまだ読んでいない)。清原はあくまで桑田の添え物、劣等感の塊として描かれているのがおもしろい。

8月5日 県内各地の市町村を訪れると当地の宣伝パンフレットの類を集めてくるのが習い性になっている。先日、湯沢市役所のロビーに展示されていたパンフ類やフリーペーパーの類をいつものように持ち帰ったら、オールカラー50ページほどのりっぱな小冊子が混じっていた。「地熱とジオパーク侮るべからず」と思って、ありがたくいただいてきたのだが、よく見ると表紙に「持出厳禁」のシール。あわてて市役所に電話すると、「郵送で返却してください」とのこと。裏表紙にはちゃんと800円と領価が書かれてあった。同じように湯沢駅にB全判の湯沢市ジオパーク俯瞰図の見事なポスターもあった。こちらは「1000円で販売してます」とガイドにいわれた。良いものがタダ、ということは、やっぱりほとんどない。
(あ)

No.1118

溶ける再び
(幻冬舎)
井高意高

 話題の本である。あのバクチで会社の金106億円を「溶かした」大王製紙前会長の本だ。前作の『溶ける』は面白かった。一番印象に残ったのは、「密会中の中村勘三郎と宮沢りえ」にあるホテルで出会った場面だ。自分の会社のCMに出てもらっているので、気軽に声をかけたら完全無視をされた、というくだりだ。このへんは笑ってしまう。それから逮捕、入獄があり、4年弱の獄中生活を終えて書いた続編が本書だ。いきなりかなりショッキングな出だしから物語の2章は始まった。なんとシャバに出て、この男はすぐにまたバクチをやり出したのだ。懲りないどころの話ではない。本当のバカなのだ。韓国まで出かけては、3千万の元手で9億円を稼いだ武勇伝から本書は始まるのだ。で、その9億円もすぐに溶かしてしまう。一言でいえば「狂っている金銭感覚の持ち主」なのだが、本書の後半は、大王製紙を支配し続けてきた井川一族排除のクーデター批判になる。自分の一族を排除しようとする現会長らへの罵詈雑言なのだが、当然のことながらまるで説得力がない。こんな金銭感覚の持ち主が大手一流企業を独占支配するなどできるはずはない。本の最後はなぜか安倍元首相への熱い(暑い)エールと親密さをにおわせて本書は終わっている。安倍元首相とはウマが合うようなのである。

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