Vol.1131 22年9月3日 週刊あんばい一本勝負 No.1123

古代史のなかの「秋田」を勉強中!

8月27日 ナイターを観ていたら選手プロフィールの出身高校の後に「(甲)」という文字が入っている。これはいったい何の記号なのだろうか。調べたら何のことはない。甲子園出場の有無を示す記号だった。大げさで迷惑で格差社会そのもののような話だ。同じ日、ニュースで「チョルノービリ原発」なる字幕にも。「チェルノブイリ」のウクライナ読みだそうだ。好きな山に東鳥海山(湯沢市)がある。鳥海山に「東」があるなら「南」もあるのでは、とうっすら思っていたのだが、新野直吉著『古代史上の秋田』を読んでいたら、その「南鳥海山」がはっきりと文中に出てきた。御本尊の鳥海山の南に位置する「神室山」のことだ。修験者たちはこんなふうに呼んでいたのだそうだ。

8月28日 バラバラに起きたことが繋がってしまう。朝早く、神戸の友人から電話。日テレ系で放映される「無言館」という番組に、知り合いの檀ふみが出演するので観てほしい、という。無言館といえば窪島誠一郎さんだ。窪島さんとは一度、私の友人の小さな会でご一緒したことがあった。窪島さんは私の友人と高校で同級生だったのだ。午後から、今度はなんとその「私の友人」から電話をいただいた。この奇遇には驚いた。友人といっても先輩編集者で、10月に秋田市で開催される「種まく人・誕生100周年」に出席するのでアテンドを頼む、という連絡だ。昨夜読んだ田中小実昌の本に「家族オペレッタ」という文章があった。小実昌氏の妻の兄である画家・野見山暁治のことが描かれていて小説だった。あれっ、窪島さんが無言館をつくるきっかけは、この野見山暁治だったはず……と、いろんなことがつながった。

8月29日 高校時代の1年後輩で、大学も一緒だった(彼は鉱山学部)T君が突然事務所を訪ねてきた。大学の同窓会が市内の温泉であったそうで、50年ぶりの再会だ。T君は、何もかも私とは正反対の性格で、質実剛健、寡黙で実直、石部金吉を絵にかいたような人物で高校時代は生徒会長だった。T君とはなぜかウマが合い,大学時代よくつるんで遊んだ。T君は50年たっても、ぜい肉をそぎ落とした精悍な肉体と、生真面目な意志の強い性格はそのままだった。東京の一流企業に就職し、定年まで勤めあげ、今も嘱託として週に1回出勤しているという。意外だったのは「趣味がゴルフ」だという。農業青年そのままの彼に一番似合わない趣味のような気もするが、車の運転をしないので電車でゴルフ場に通っているという。今回の里帰りの往復もなんと深夜バス。このへんはいかにもT君らしい。

8月30日 小さなころ身近なところには「古四王神社」がいくつもあった。長じて県内各地を歩くようになると県南部以外、古四王神社はほとんど見かけないことに気が付いた。これはどうしたことなのか。和銅元年(708)、越後国があらたに「出羽郡」を建てたいと申し出て朝廷に認められ、出羽という地域名が史上に初めて登場する。この当時、横手盆地周辺が出羽北部ではもっとも大きな集落だったので、ここに宗主である「越の王」の神社が建ったのだ。その5年後、越後国は独立し、出羽国が決まると、陸奥国最上・置賜2郡を陸奥から割いて出羽に編入されることになる。「越の王」の神社だから「古四王」だ。古四王神社の残る場所は限定的なのはこうした歴史的背景があった……ということを新野直吉著『古代史上の秋田』で知った。

8月31日 ここ2,3カ月、映画はほとんど外れナシ。特に邦画は過去の「キネ旬」のベストテンからセレクトしているから、いい映画なのは当然か。洋画はその点あたりはずれが激しい。そんななかデンマーク映画「アナザーラウンド」がエがった。2020年制作だから最近だ。「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなる」というノルウエイの哲学者の理論を実践で試そうとした4人の高校教師のコメディだ。いやコメディというにはちょっと毒がありすぎ。「毒のある人生讃歌」という感じかな。デンマークは16歳からアルコールOK。だから高校の卒業式では大っぴらに酒盛り大宴会がある。映画でも人前で緊張する高校生に教師がしきりにアルコールを勧めるシーンがあった。基本的にアルコールの年齢制限はなく違法でもないのだからすごい。このへんをうまくテーマに盛り込んで、知性豊かな40男たちが酒をめぐってドタバタを繰り広げる。タイトルがちょっとひどい(英語圏用の題名だ)が、デンマーク語の原題は「Druk」だ。こちらのほうがよかったのでは。

9月1日 しかしよく降る雨だ。この夏は蒸し暑い日が多かった。朝夕の風はもう秋が濃厚に幅を利かせている。今年の夏を振り返ると、短パンにTシャツといったラフな格好を一度もすることがなかった。いや、これはこの10年以上気を付けていることでもあるから、当たり前か。散歩に出ると人目もあるので、ラフな、だらしない格好はしない。職住接近で、ほぼ自由業だ。どんな格好をしてもかまわない。だからこそ逆に、襟のあるシャツと長ズボンを「休日」でも身に着ける習慣ができてしまったのだ。だらしなく見えなければなんでもいい。毎日の服選びに苦労することはない。

9月2日 ポーランドの右派与党党首がドイツに第2次世界大戦の戦後賠償請求(180兆円)をする方針を表明、というネットニュースにはびっくり。第2次世界大戦は、独ソ不可侵条約を一方的にナチス・ドイツが無視してポーランド侵略をしたのがはじまりだ。もうとっくにその戦後賠償処理はすんでいると思っていたのだが、そうではなかった。ようするに賠償請求国が当時は同じ社会主義国東ドイツなので遠慮や同情もあり、ポーランドは「賠償放棄」をしていたのだ。ポーランドは人口の2割に当たる600万人が殺され、首都ワルシャワも徹底的に破壊された。その賠償を今の統一したドイツに対して改めて請求した、ということのようだ。80年以上たったいまも戦後は終わっていない。  
(あ)

No.1123

東京四次元紀行
(イースト・プレス)
小田嶋隆

 このところ有名人の死去の報が少なく「いい傾向だ」などとほざいていたが、ネットニュースで「コラムニスト小田島隆、65歳で死去」(6月24日)の報が流れた。実は最近、彼の本を最初から読んでみようと思いたち古い年代順(1冊目は88年の「我が心はICにあらず」)から読み出したところだった。アル中で苦しんだり、脳梗塞で病床にあるという情報は知っていたが、死因は脳梗塞だった。コロナ禍で入退院を繰り返していたようだ。自らのアル中体験について書いた本をリアルタイムで読んでいたので、これじゃ長生きはできないな、と感じてはいた。新刊が出ると必ず本を買う作家のひとりだったので、その死は無念だ。「事の大小を問わず、そこにある差異や隙間に食らいつき、分析を企む人」(武田砂鉄)という評がすべてを言い表しているが、本書は著者初めての小説集だ。いつものコラムのキレやユーモアが影を潜めている。正直なところ「東京の街の記憶」をショートストーリーで描くという「企み」が成功しているとは言いがたい。世の中に忖度なしで批判のパンチを繰り出せる数少ない言論人のひとりがいなくなった。この不在は大きい。

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