Vol.1141 22年11月12日 週刊あんばい一本勝負 No.1133

秋元順子はいいなあ

11月5日 手形陸橋からまっすぐわが広面に向かってくる1キロほどの直線道路に飲食店がびっしり並んでいる。散歩でここを通ったとき、コロナ禍で消えてしまった(空き家)店舗の数を数えてみたら9店舗あった。ほとんどが飲食店だ。家賃が格安なこともあるのかもしれないが、やめて他に移った店もあるのだろう。学生の多い街なので、若者設定の安い値段でないと店ははやらない。学生にそっぽを向かれると店はすぐにつぶれる。飲食店は難しい商売だ。

11月6日 森吉山登山。ブナ帯キャンプ場から出発し水飲場を過ぎ、スキー場のゴンドラ山頂駅あたりから急に雪が深くなった。雪目用のゴーグルもスパッツもかんじきも用意していない。とにかく石森あたりまで行こう、と進んだが、雪はひざ下まで深くなり、あきらめて引き返してきた。石森手前には新雪に大きなクマの足跡もくっきり。彼等も冬眠を前にあせっている。

11月7日 定年退職後の生き方、働き方は人それぞれ。もう半世紀(!)前、東京の出版社営業職だったKさんは出版のイロハを教えてくれた恩人でもある。そのKさん、70歳まで勤め上げリタイアして郷里の金沢市に帰ったという。そして始めたのがなんと「図書室のある焼き芋屋」。いろんな職業を見てきたが、リタイア後に「焼き芋屋」を始めた人は初めてだ。すぐにでも金沢まで駆け付けたいところだが、いまはお祝いのお酒でも贈って彼の前途を祝したい。

11月8日 少しでも金銭的余裕ができると、迷わず事務所の改修工事をする。まずは傷んだ事務所のリフォームが最優先だ。昨日も業者とその打ち合わせがあった。今回は事務所一階の床の張替えをする予定だ。なにせ築40年以上になる物件だ。痛みは想像以上にひどい。事務所がこれから何年、このまま建ち続けていられるのかわからない。でも生きているうちは目いっぱいメンテナンスをしてやりたい。

11月9日 昨日が鳥海山・稲倉山荘に季節限定オープンしている無明舎書店の「棚卸」の日だった。この時期になると、うちではこの本の回収のため車にスパイクタイヤを装着することになる。市内にまったく雪の気配はないのだが、鳥海山の山道はもう冬でスリップの危険がある。今年ももうそんな季節になったわけである。山小屋の書店が再オープンするのは来年のゴールデンウィークである。長い冬が始まった。

11月10日 いやなことが起きて落ち込むと、周りからは「早く引退したら…」と助言される。確かに現役で働くことは「いいことよりもいやなこと」が多い世界に身を置くことだ。仕事と山歩きはなんとなく似ている。山に行く前日はきまってユーウツになり後悔する。そして寝不足と空腹のままいやいや登山口へ。しかしそれらのユーウツや不快感は、山に登った後の達成感できれいに払しょくされる。身体全体の空気が入れ替わり生まれ変わったような爽快感まで手にすることができる。仕事も似たようなものなのだ。いやなことの方が多いが、それをクリアーした時の達成感や爽快感は何ものにも代えがたい。

11月11日 山行のときはSリーダーの車で登山口まで行く。Sリーダーは運転がうまいし道路事情も熟知している。まかせて安心なのだが、重大な欠点がある。眠くなると大音量で演歌をカーステレオで流しだすのだ。車は一転、アウトドア気分から夜のスナック空間に替わる。これがいやだったのだが、毎回聴いているうち、こちらにも変化が出てきた。その演歌シリーズの中で気になる歌手が出てきてしまったのだ。訊けば秋元順子という歌手だという。彼女の歌は明らかに他の歌手とは違った。軽やかで、さわやかで、ほとんどブルースやボサノバの心地よさがある歌声だ。これはいい歌手だなあ、と惚れ込んで、昨日ついに彼女のアルバムを買ってしまった。
(あ)

No.1133

老害の人
(講談社)
内館牧子

 映画は他人の評価で選ぶから、そうはずれはない。本は新刊が主なので自分の主観で選ぶしかない。書名や著者名から「これは大丈夫」と経験的に決め打ちするのだが、これが外れるケースが多くなった。でも本書は当たりだ。著者の高齢者シリーズ4作目だが、『終わった人』は面白かったが、以後2作『すぐ死ぬんだから』と『今度生れたら』はあまり入り込めなかった。理由は女性が主人公だったから、感情移入が難しかったためのようだ。とは言いながら全作品を読んでいるのだから、このシリーズは大好きだ。本書は85歳の老害オヤジが主人公だ。ふてぶてしい感じが魅力なのだが一筋縄ではいかない。面倒見がよく、やさしい気持ちと気配りもある。単純ではない。多様性を持ったキャラクターを作りあげるのが著者の魅力であり力量なのだ。昔話に説教、病気自慢に孫自慢、素人俳句にヘタな絵……絵にかいたような老害五重奏が、これでもかとドタバタ喜劇風に進行するのだが、世間もそうたやすく彼らの言いなりにはならない。その軋轢をうまく物語の「節(ふし)」に使って、物語は紆余曲折しながら思わぬ方向に迷い込んでいく。

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