Vol.1151 2023年1月21日 週刊あんばい一本勝負 No.1143

朝はコーヒーと羊羹

1月14日 昨日の週日山行は良かったなあ。今日は朝から雨だが、昨日は少し風があり曇天だが山日和。1カ月ぶりの山なので体力不足が心配だったが、汗は大量にかいたものの往復3時間半を無事歩き通すことができた。筋肉痛もない、心地よい目覚めで、この翌日の目覚めまでが山歩きの醍醐味だ。この週末から月末まで毎日いろんな予定が入っている。どうやって時間を埋めようか、と考えなくてもいい日々が続くのは幸せなことなのかもしれない。でもやっぱり毎週のように近くの山を歩き自然と触れ合う喜びに勝るものはない。

1月15日 更新されたHPの写真は解説が必要だ。これは13日に男鹿真山で撮影した「首のない仏像」。明治維新の廃仏毀釈で、王政復古の時代が到来、無残にも仏教由来のものはこのような形で迫害され、首をはねられてしまった。それが当時のまま何体か残っているのだ。雪がちょうどいい具合に周りの景色を消し、首のない仏像だけがすっきりと浮かび上がったところにシャッターを押したもの。そういえば若い人に「神社と寺院はどちらが偉いの」と訊かれたことがあった。明治維新の前、日本では圧倒的に寺院が上で神社は格下の存在だった、と言うと意外な顔をする人が多いのだが、王政復古というのは、そうした神社側の積年の怨念の爆発だったわけだ。

1月16日 大きな段ボールの荷物が玄関に積まれていたが、あえてそのままに。がんばって運ぶとまた腰を痛めるのは確実だ。白鳥の鳴く声で空を見上げると編隊から遅れてしまった2羽が「置いてかないで」とギャーギャー泣き喚いている声だった。23歳の新卒女性タクシードライバーの青春お仕事小説『タクジョ!』(小野寺史宜)は面白かった。なのに映画『ミスターロンリー』はまるでチンプンカンプン、理解できない。物まね芸人の住む村と修道院の尼たちの空中ダイビングの話が、うまく結びつかない。韓国映画『自由が丘で』も時系列を乱した凝った構成にまるでついて行けない。「本高映低」(私の造語)の日々だ。

1月17日 今日は近所にある太平山三吉神社の梵天祭り。秋田県特有の神事で神社の初縁日である17日に行われる。派手に飾りあげられた大きな依り代(梵天)を振りかざし、競い合って奉納するケンカ祭りだ。梵天を乱暴に振りかざすのは神様の目に止めてほしいから、と言われている。Sシェフが教養大の学生たち数人を引き連れ、わざわざ広面まで祭りを見に来るので、帰りに事務所に寄り一休みしたいという。うちは喫茶店か。仕事場の窓からは三吉神社の森がくっきり見える。

1月18日 学生時代の先輩が亡くなった。2歳年上だが突然の訃報に愕然。先輩とは70安保のデモで一緒に逮捕された。その年、彼の青森の実家に遊びに行った。ねぶた祭りに誘われたのだ。彼の実家にはオジサンだという風変わりな老人がいた。なぜかこの老人と私は気が合い、トウモロコシの早食い競争をしたり、2人で盛り上がった。青森の夏はこのヒマそうな老人の話し相手になって、ずっと笑っていた思い出がある。私は20歳だった。ねぶた祭にはハネット(踊り手)として参加したが、老人は我々を見つけると、声の限りの大声でコーフンしていた。老人はその年の秋、文化勲章を受章した。テレビで見た顔写真は、まぎれもなくあの老人だった。棟方志功という版画家だった。そういえば先輩のアパートのトイレには極彩色の女性が描かれた彼の版画が飾られていた。先輩は棟方の甥っ子であることを一度も自慢したことはなかった。そんなところも好きなところだった。合掌。

1月19日 逆流性食道炎と判明してから朝ごはんを食べない。いまは一日二食で別に何の支障もないのだが、朝飲むコーヒーの時に羊羹をひと切れ食べる。昨日いただいた新潟柏崎市の「くろ羊かん」はおいしかった。水ようかんのような滑らかさと黒蜜の上品な甘さが溶け合っている。「新野屋」というお菓子屋さんのものだが、日持ちのしない羊羹というのにも驚いた。毎朝ほんのちょっぴり食すだけだが朝の羊羹がないともう頭がうまく回らなくなった。

1月20日 今日の新聞に直木賞受賞作が発表されていた。今回は珍しく既読の小川哲『地図と拳』(集英社)が受賞していた。バリバリ硬派の歴史空想小説で630ページの大長編作品だ。満州にある架空都市を舞台にした物語なのだが、こんな分厚い、難しいテーマの本が、賞をとったからと言って売れるものだろうか。私自身、読み通すのに大変で読み終わったときはヘロヘロだった。受賞によって難しい本が売れるのはうれしいのだが、書店員も「こりゃ一般的ではないかも」と苦笑しているのでは。こんなハードルの高い本が軽々とベストセラーになる国というのもかっこいいのは間違いない。ちなみに定価は2200円。安くて、これにも驚いてしまう。
(あ)

No.1143

尚、赫々たれ
(早川書房)
羽鳥好之

 年末に入って完全に「読書スイッチ」が入ってしまった。暮れに発表される雑誌の「今年のバストワン本」の影響だ。本書もその情報で読みだした一冊だ。主人公は西国無双の名将と言われ、関ヶ原の戦いで西軍に与して改易されるも、徳川家からその能力を買われ旧領を回復した立花宗茂。サブタイトルに「立花宗茂残照」とある。もちろん実在の人物である。その宗茂が将軍家光の「御伽衆」となって語る関ヶ原の舞台裏から物語はスタートする。三章の構成になっていて、一章は家光との緊張感がヒシヒシと伝わってくる関ケ原の舞台裏をめぐるやりとりだ。二章は、家光の姉である天寿院との鎌倉行が描かれている。三章は、将軍側近の、ある謀反が持ち上がり、その事件に自分の立場を決められず、右往左往する立花が描かれている。そして、すべての章を通底するのが、天寿院に対する立花の淡い恋心だ。刀を抜くこともなければ、血が流れることもない。ひとりの老将を主人公にした硬質な歴史エンターテイメントで、文章の緊張感というか「気迫」が読む者にストレートに伝わる密度の濃さがある。徳川の世で外様大名として生きる重苦しさが重低音のように鳴り続けるが、読後にはさわやかな清涼感が残る。著者略歴には、文藝春秋に入社し、一貫して小説畑の編集者で定年を迎え、この作品が作家デビューとある。

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