Vol.1152 2023年1月28日 週刊あんばい一本勝負 No.1144

大寒波で風呂に入れない!

1月21日 嵐だったが一夜明けると青空。寝室の暖房を利かせて「布団干し」。家と事務所の雪かきをして冬物衣類の整理をした。昨夜は嵐の前に飛び散りそうなものを家の中に収納したが、吹き飛ぶほどのひどさでもなかった。昨夜観た邦画『さよなら歌舞伎町』はいい映画だった。でもここに描かれたハードな現実は秋田でノーテンギに暮らす自分とはあまりにかけ離れすぎていて、中東やアジアの小国のミニシアターを見ているような錯覚に陥ってしまった。どんどん現代のスピードからは置いていかれるばかりだ。

1月22日 大寒波襲来の予報だが穏やかな、ふつうの荒れ模様だ。それにしても雪が降らない。ドカンと大雪になるのだけが怖い。ちょうど1年前、散歩の途中に地下歩道ではでに転倒した。両手首の痛みは今も残っている。来週は健康診断や取材がある。まずは体調管理が一番だ。慢心が怖い。

1月23日 やっぱり寒波はちゃんとやってきた。雪は積もっていないが道はカチカチ、アイスバーン。車での外出は控えよう。そういえばタクシーに乗らなくなったなあ。小野寺史宜『タクジョ!』(実業之日本社)は面白いタクシー小説だった。いまは続編である『タクジョ!みんなのみち』を読んでいる最中だ。

1月24日 トイレの水の流れがよくない。寒さのせいかなと思ったが気温は零下になっていない。パイプの不具合の可能性のほうが高いようだ。外は吹雪、一夜にして銀世界だ。この雪のおかげで北国は二毛作や二期作が不可能だ。二期作は同じ耕地に2回稲を植えること。二毛作は稲の後に麦を作付けすることだ。似たような言葉だが意味は違う。昔はこの二回目に収穫する作物に年貢(税)が課せられなかったため、雪の降る土地の農家と降らない土地の農家では、収益に大きな格差が出ることになった。雪さえ降らなければ農家には年二回大きな収入が可能になるのだ。

1月25日 朝から暴風雪警報。見事に家の温水器がダウン。水道は大丈夫なのだが温水器の管だけが凍ったようだ。幸い我が家は隣が事務所なので、不具合が生じても事務所のトイレやガス湯沸かし器を使える。今日のお風呂はあきらめなければならない。

1月26日 朝5時起床。何十年ぶりかの尿瓶で用を足した。昨日は午前中にタウン誌の取材を受けているさ中、「本の雑誌」創業者の目黒孝二さん死去の報が入った。取材は上の空、なにをどう答えたものやら憶えていない。その数時間後、地元の魁紙記者から「目黒さんの追悼原稿を書いてほしい」と電話があった。引き受けたのは、目黒さんと私は母方の家系が同じ弘前の高松家にルーツのある親戚同士でもあるからだ。何度か手紙をやりとりし、お互いの著書でもそのことを書き合ってきた。目黒さんのほうが3歳年上で、だから享年は76、誕生日も同じ10月9日だ。追悼文を書き終われば、たぶんかなり大きな喪失感がやってくるような気がしている。

1月27日 2日間風呂に入っていない。今日も早起き。年1回の健康診断だ。この日に備えて健康管理(といっても暴飲暴食しないことぐらいだが)はしてきた。体重も2キロぐらい落とし、運動も欠かさなかった。でもやっぱり健診は不安の方が大きい。つくづく小心者の自分がいやになる、年一回の恒例行事である。
(あ)

No.1144

八月の母
(角川書店)
早見和真

 70年代の母の時代から2010年代のひ孫の世代まで、連綿とつながる女たちの、狂気に満ちた「鎖」の物語だ。衝撃の連続だが、個人的には最も不得手な「家庭崩壊」と「女たち」と「暴力」の物語だ。愛媛県の片田舎で「いつかここから出ていきたい」と願いながらも、そこには母という巨大な壁がいつも立ちふさがっていた。その閉塞感の中で繰り広げられる親子4代の女たちの執着、怒り、憎しみ、そして愛が執拗に描かれている。この物語を書いているのが男性作家というのもおどろきだが、男が描いた女たちの物語だから、この手のジャンルが苦手な私にもほとんど抵抗なく読み通せたのかもしれない。愛憎むき出しの母と娘、児童虐待やレイプ、育児放棄に売春、暴力と貧困、田舎と閉塞感……知ってはいたが、できれば知らないで済ませたい、と思い続けていた「底辺の女たちの物語」だ。それにしても、親子4代にわたる壮絶で悲惨な人生を描いた物語なのに、ずっと曇天の中に小さな青空がのぞいているような、さわやかさもまた残る物語だ。絶望を描いているのに否応なくその先にかすかな希望が見える。この本を今年(22年)のベストワンに推す識者たちが多かったが、「直木賞」にノミネートすらされなかったことへの不可解さを指摘する書評氏もいた。本は狭くなった自分の世界を広げてくれる。

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