Vol.1155 2023年2月18日 週刊あんばい一本勝負 No.1147

それでも腰痛は続く

2月11日 春のような陽気だ。原稿を書くために夜の映画鑑賞を一時的にやめた。これで「時間貧乏」から解放された。そうか映画を見なければいいんだ、とわかっただけで大収穫。50年史の下書きは完成、あとは微調整の段階だ。不完全で荒っぽい原稿だが、まあこれはこれでしょうがない。それにしてもこんな天気のいい日は何をしたらいいんだろう。久しぶりにカレーでも作ろうかな。

2月12日 国際教養大の学生たちと高尾山スノーハイクの予定だったが腰痛がひどくキャンセル。お正月以来2度目の腰痛だ。原因は不明だが、自分の身体がこんなに重いものだとは、動くたびにショックで世をはかなみたくなる。今日は一日、事務所でラジオを聴きながら本を読んでいるしかなさそうだ。昨日で阿部牧郎『静かなる凱旋』を読了し今日は熊谷達也『邂逅の森』でも読もうか。前著は戊辰戦争から日露戦争までの38年間の歴史を鹿角の男を主人公に描いたもの。後著は秋田のマタギの物語だ。先日亡くなった目黒孝二さんの本も候補だが、なんとなく「虚構」の物語世界のほうが腰痛の痛め止めには効果がありそうだ。

2月13日 HP写真は説明が必要だ。よく出かける酒田のリッツ&ガーデンホテルの朝食である。美味しくてヘルシーでセンスがいい。これで値段は1400円くらい。昨日は事務所のソファーで一日中動かず(腰痛)、熊谷達也『邂逅の森』(文春文庫)読了。阿仁マタギの物語だが舞台は山形の山奥だ。直木賞をとって話題になった本だが、秋田ではそれほどスポットライトが当たらなかったのは、舞台が山形で、秋田に関わる記述が少なかったせいだろう。

2月14日 いっこうに腰痛が快方に向かわない。これはちょっと長期戦かな。そういえばそろそろ歯医者にも行く時期だ。とりたてて悪いところはないのだが、歯がゆるんできたな、というタイミングがわかるようになった。歯がゆるんでくると、食い物が詰まり、歯がグラつき、口臭がひどくなり、といった口中問題が噴出してくる。

2月15日 近所の整骨院で見てもらうと案の定、身体はずいぶん軽くなった。でもこれは一過性。朝起きるとまだ下半身は重怠いまま。しょうがない。昨夜は千葉の専門業者から仕入れた「マガモ」が手に入ったのでSシェフと二人で小鍋仕立てのカモ鍋。鴨ロースと煙突ネギ、豆腐だけのシンプルなやつで、これがめっぽううまかった。Sシェフと料理宴会をすると台所がピカピカになるのもうれしい。「来た時よりもきれいに」が合言葉なので、汚れたままだった鍋釜が、食事後はピカピカになる「仕組み」だ。

2月16日 腰痛歴20年という知人に「腰と背骨」についてレクチャーを受けた。身体的な痛みや医学的所見はともかく具体的な対処法となると、自身でインナーマッスルや姿勢といった肉体的なトレーニングで矯正していくしかないのが腰痛の厄介なところ。70歳を超えるこれまで、座業なのにまったくと言っていいほど腰痛とは無縁だった。その自分が年末から2回目の腰痛に苦しんでいる。その理由を「肉体的変化」という側面から細部にわたって反芻(反省)してみると、ある要因に思い至った。ほぼ「これ」が原因だ。自分の身体なので、これは間違いないな、とわかるが、少し時間をおいて、結果はちゃんと報告するつもり。もうちょっとお待ちを。

2月17日 今年も糸井重里の「小さなことばシリーズ」の新刊を読むことができて、よかった。07年度から毎年1冊出ていて(なぜか19年だけは出ていないのだが)、これまで14冊の既刊があり、今年の『生まれちゃった。』で15冊目。この全冊を丁寧に読んでいる私を誰も褒めてくれない。造本が素晴らしい。装丁はもちろんだが、カバーに使っている「タンクセレクト」という紙には驚いた。背の部分を除いた3方(天・地・小口)にきれいな色が塗られていて、天地の角が丸く手作業で削られている。これだけ手(金)をかけた本は珍しい。
(あ)

No.1147

地図と拳
(集英社)
小川哲

 2022年最後の本が本書だった。第13回山田風太郎賞受賞の630ページの歴史空想小説だ。満州に架空の街を置き、その消滅を核にして物語が進行する。日露戦争前夜から始まり、第2次世界大戦までの半世紀を、地図に描かれた存在しない島を探し、満州という幻の都市で繰り広げられる知略と殺戮の物語だ。苦手な「SF小説」のジャンルなので、どこまでが架空で史実なのか、よくわからない。しかし日本が泥沼の世界戦争に踏み込んでいく過程が、これ以上ないリアルさで描かれている。満州に関しての知識は高校生程度だ。でもこの本のおかげで一挙に詳しくなった。日本の近代史にとって「最も重要なキーワード」である「満州」とは何か。表題の「地図」とは国家であり領土であり建築物のことだ。「拳」とはそこで行使される暴力、戦争のことだ。この関係を整理することで「なぜ日本は中国とアメリカと戦争をしたのか」がよく理解できた。石炭・石油の資源問題、南下をもくろむ日露戦争からのソ連との関係、日本軍部の陰湿な暴力体質、国民世論……作家の仕事は「災害」の中に隠喩を見つけること、と著者はあるインタビューで語っていた。隠喩とはすなわち普遍のことである。

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