Vol.1157 2023年3月4日 週刊あんばい一本勝負 No.1149

北帰行の季節ですね

2月25日 「50年史」の原稿チェックは無事終了。次のやり残している仕事である「アマゾン移民」の方に取り掛かろうと、膨大な資料を書庫から仕事場に運び入れた。何度も脱稿寸前まで書き終えたのだが、どう考えてもレヴェルが低すぎで世にだせる代物ではない。途中放棄し、あきらめて、また復活して……を何十年も繰り返し、この年まで持ち越ししてしまった「いわくつきのヤッカイモノ」である。何とかこの原稿を死ぬまで完成させたい、というのがもっかの最大の願望である。

2月26日 お国柄か「米」や「雪」は話題に事欠かないが「木」となると主役になることはめったにない。コロナ禍とアメリカの住宅需要で世界的な木材不足が起き、国内の木材需要も絶好調というのが、昨今の「明るいニュース」だったはずだが、その需要のスピードは去年の後半から一挙に大減速しているのだそうだ。樹齢50年前後の杉の立ち木は1本2600円。日本国内最大の製材加工業者「中国木材」(広島)が能代市に工場建設を進めているさ中に建築需要の落ち込みというのだから悪夢だ。

2月27日 次のステップに進む途上にいるのだが、そちらに舵を切る勇気がない。いや気力がない。「前に進む」ためのエンジンの「かかり」がよくないのだ。視座をかえれば、まあ別にどうってこともない個人の能力問題に過ぎないのだが。

2月28日 空港までカミさんのアッシー。いつも止めている駐車場が冬場は雪のため閉鎖されていた。どこに車を停めていいのか右往左往してしまった。空港内を歩く人たちはみんな自信満々であか抜けていて、とても秋田の人とは思えない(ように見える)。自分だけが田舎の隅っこで逼塞して生きている気分になった。

3月1日 もう数十年も前に本を出した方から突然連絡をいただくことが多くなった。皆さんの年齢は80歳前後、そろそろ終活なのだろう。本というのはご自身が亡くなっても「生き続ける」。これが本の真骨頂だ。税務上の問題もあり長く売れない本は廃棄処分にしてしまう。だから売れ残りというのは基本的にほとんどなくなってしまう運命だ。著者から「1冊でもいいからほしい」などと懇願されると、残しておけばよかったなあ、と思ったりもするが、こればかりはどうしようもない。

3月2日 何度かトライしてみたのだが、これだけはなおらない。生活を朝型に切り替えること。簡単だと思っていたのだが、できないままこの年になってしまった。いつも就眠は12時前後で、起床は7時前後、というのが生活サイクルだ。その一方、徹夜というのはまったく苦手で、これまでの人生でも数度しか経験がない。朝早く起きて、散歩をして、重要な仕事を片付け、夜は酒でも飲みダラダラ、という理想的生活はもう不可能だな

3月3日 医学部横の田んぼに30羽ほどの白鳥が羽を休めていた。一心不乱に土の中にくちばしを突っ込んでいるのは、土中に落ちて発芽した籾を食べているのだそうだ。この一団は、たぶん南の方から北帰行する途中で羽を休めているのだろう。彼等にとって最大の敵はキツネなど山中にいる小動物だ。山や森からある程度離れている餌場(田んぼ)で、近くに夜の寝室(川や湖)のある場所が羽を休める条件のようだ。冬のシベリアから日本に渡ってくるのは、この寝室までが凍ってしまうことも理由の一つなのだろう。上空を白鳥がV字戦隊で飛んでいると北帰行だと単純に思ってしまうが、南に向かって飛ぶことも珍しくはない。北に向かったが、ちょっと判断ミスかな、と思えばいったん引き返すこともあるのだそうだ。
(あ)

No.1149

生れちゃった。
(ほぼ日ブックス)
糸井重里

 今年も糸井重里の「小さなことばシリーズ」の新刊を読むことができて、うれしい。糸井さんがほぼ日新聞(ネット)に毎日書いている原稿の「心に残る言葉」だけを選んで、社員の永田奏大さんという方が編集した本だ。07年度から毎年1冊出ていて(なぜか19年だけは出ていないのだが)、これまで14冊の既刊があり、今年の『生まれちゃった。』で15冊目。この全冊を丁寧に読んでいる。毎年楽しみだし、昔のシリーズも時たま引っ張り出して読むこともある。私たちの世代は沢木耕太郎や村上春樹といった誇るべき表現者を産みだしたが、糸井重里もその一人だと思う。私自身は糸井を「同世代の唯一の詩人」だと信じている。彼の言葉のファンなのである。このシリーズは専門的に見ても造本が素晴らしい。装丁はもちろんだが造本仕様そのものがいいのだ。カバーに使っている「タンクセレクト」という紙には驚いたが、背の部分を除いた3方(天・地・小口)にきれいな色が塗られていて天地の角が丸く手作業で削られている。これだけ手(金)をかけた本は珍しい。それを毎年淡々と続けているのが、かっこいい。今回の新刊は永田さんのセレクトが冴えわたっていてゾクゾクするほど。編集者って大事な仕事だ、ということを実感させてくれる1冊だ。

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