Vol.1169 2023年5月27日 週刊あんばい一本勝負 No.1161

「広面近隣公園」という名前がいい

5月20日 太平方面に車を走らせたら田植えの真っ最中。異常気象が言われて久しいが、毎年少しずつ遅くなっている印象が強い。ちなみに県南部山奥の東成瀬村の田植えは6月に入ってからだ。5月では雪解け水があまりに冷たくて苗が死んでしまうので、水がぬるむ6月まで田植えができないのだ。豪雪地帯ではこうしたケースもある。厳しい自然条件で田植えが遅れているのなら話は分かるが、秋田県の田植え時期は年々全体が遅くなっている。この10年で農家の高齢化が進み、米づくりを担っているのは企業や農業法人といわれる人たちだ。もしかすると、この法人の「やり方」で遅くなっている可能性もあるね。

5月21日 昔書いたブログに父親のことに触れた記述があった。2002年(平成14年)のことだ。「久しぶりに湯沢の実家へ。親父はあいかわらずイスに座ったまま、ほとんど一日中動かない。それでも頭も耳もクリアーだ。足の悪いのはどうしようもない。別に歩かなくても(運動しなくても)、薬を飲まなくても、食欲旺盛でも(一日1400キロカロリーに母から制限されている)、「人は惚けない」と言う見本のような存在だ。〈介護保険にも入らない、介護そのものを拒否する〉ともかたく信じ込んでいて、糞尿はおしめに垂れ流し、5メートル先のトイレまで自力で5分もかけて歩く。大正7年生まれだから数えで85歳。40代で脳溢血、糖尿病、白内障に腰痛手術とほとんどの病気を体験した。なのに今は肝臓もきれいで、何の病気もないと言うのだから恐れ入る。会いに行くたび頭はクリアーになり、元気にさえなっている」――この日から父は3年生き、89歳で亡くなっている。

5月22日 漢方便秘薬を毎日2錠飲んでいる。便秘なわけではないのだが便通がよくなるので服用している。一粒の薬の真ん中に切れ目があり、飲む量を半粒単位で調整できる。2錠ではなくて1錠半に薬を減らそうと、薬をハサミで切ったら粉々に砕けてしまった。うまく二つに割れない。先日、この薬のCMを見ていたら、薬の背後に「スプーンの背中」のようなものが映り込んでいた。あれッスプーンの背中の曲面に押し付けて薬を半分に割るのか。これって、もしかして、私だけが知らなかったこと。

5月23日 散歩コースにカレー屋さんがあって、看板に「ハラール」を謳っている。ハラールということは豚肉がダメ、ということか。ユダヤ教やイスラム教で豚肉がダメなのには科学的な根拠があって迷信や俗信が理由ではない。要するに豚は生理機能が人間と似ているため、あえて食べないという宗教的禁忌が生まれたのだ。豚の病原体や寄生虫は人間にも移りやすい。さらに豚は排泄物を食べる雑食性。残飯や排泄物を食べるということは人間と「餌」が競合することを意味する。乾燥に強くないので水も大量に飲む。これも人間とシェアが必要だ。牛は人間の食べない草を食べ、肉を提供してくれる。だから牛は何の問題もない。ヒンドゥー教が牛を食べないのは神聖な動物だからだ。そうなると世界で禁忌とされていない動物はニワトリだけ、ということになるわけだ。

5月24日 HP連載の「安倍五郎兵衛伊勢参道中記」が久々に更新。著者の体調が思わしくなく開店休業状態でしたが本格的に蘇ることになった。実は安倍五郎兵衛は私の先祖です。現在の横手市増田の出身で、原本の翻刻版も旧増田町から刊行されている。これに解説や訳注を多くつけ、現代文で読み下した江戸お伊勢参り道中記だ。増田から伊勢までの記録は残っているのだが帰途がない。帰路は「歌集紀行」として別に編まれている。今回の連載はこの歌集も併せて往復の旅紀行になる。こうご期待。

5月25日 近所の公園に散歩の途中立ち寄ってボーっとしている時間が多くなった。ベンチに座って、コンビニで買ったコーヒーとパンで1時間は楽に時間を潰せる。公園の名前を知りたくて周辺を回ってみたが、どこにも表記がない。帰ってグーグルで調べると「広面近隣公園」という名前だ。まるでそっけなくて、やる気のない感じが、逆に好感が持てる。草が生えて使われなくなった昔のグランドという感じが名前とマッチしている。横に太平川が流れ、そこに棲むアオサギ・ペアーの縄張りでもあるようでひっきりなしに飛んでくる。川向うにはノースアジア大学があり、その側を秋田中央道が走っている。ちょっとした隠れ家気分だ。

5月26日 歴史ものの本や史料を読んでいると「殿様と鷹狩り」というのが、必ずと言っていいほど登場する。なぜ殿様はこうも鷹狩りに夢中になるのか、よくわからない。鷹狩りは王侯貴族のたしなみとして日本だけでなく広く世界中にあった。鷹を飼い続けるだけで莫大な経費や関係人員が必要になるし、獲物は換金できるわけでもない。要するに大名階級の儀式や娯楽として発達した特権意識が背後にあるのだろう。天皇家に将軍の獲ったツルを献上する慣例もあったというから、武家の棟梁の「決まりごと」のひとつ、と割り切って考えた方がいいのかもしれない。日本に入ってきた当時の「ゴルフ」のイメージともちょっと似ている。西洋では鷹で狩ったアオサギの羽を貴婦人に贈る習慣もあったそうだ。
(あ)

No.1161

週刊東洋経済
(東洋経済新聞社)
 半日かけてこの雑誌を丸読みした。週刊誌を赤線引きながら一冊丸ごと読んでしまうなどというのはきわめて珍しい。いや、週刊誌を読むこと自体がほとんどないし、この欄に登場すること自体が異例だ。あの話題の「ChatGPT」の特集号である。誰でも使えるAI時代の仕事術革命を徹底取材したものだ。文系のボンクラ頭には半分も理解できないものだったが、それでも必死に食らいつき、どうやら3分の一ぐらいは理解できた。iPhoneと同じくらいの衝撃的な革命と紙面では持ち上げているが本当のところはまだ誰にもその影響は不明、というところだ。もしかすれば私たち出版業界に相当大きな影響を与えるツールになる可能性は高い。私個人は環境的に(事務所に常駐しているので)スマホがなくてもパソコンで充分だ。しかしこれからの編集者にはChatGPTを実装するかしないかで、仕事上大きな格差が出てくるのは間違いない。いや編集者そのものが半分以下に減ってしまう可能性すらあるか。大学生の「卒論」というのは何の意味もなくなったのも事実だ。その対策にはファクトの出典を明記させること以外、ないだろう。すごい時代になってしまった。

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