Vol.1170 2023年6月3日 週刊あんばい一本勝負 No.1162

サーカスの本を読む

5月27日 稲泉連『サーカスの子』(講談社)が面白い。「サーカスの子」というのは自分のこと。小学4年生の頃に母と一緒にいたサーカス時代の思い出を聞き書きで構成したもの。母親の、同じく大宅賞受賞作家(親子で受賞というのも珍しい)である久田恵にも『サーカス村裏通り』という本があった。母がサーカスのまかない人として働き始めたのは当時、写真集『サーカスの時代』を出版したカメラマン・本橋成一がきっかけだったそうだ。この本橋さんの写真集も愛読書のひとつだった。本橋さんの拠点である東京のライブスポット(喫茶店?)「ポレポレ」に伺って一緒にお酒を呑んだこともあったなあ。ちなみにお母さんの久田の最新小説である『ここが終の住処かもね』(潮出版)も、ほのぼのとしていい本だった。

5月28日 毎日使うおサイフと散歩用肩掛けポシェットは、どちらもアウトドア用品・モンベル製で、ともに千円以下。安くてシンプルで長持ちするというのは最強だ。毎朝、新聞の切り抜きに使う一枚切りカッターと、クリップペンシルといわれる使い捨て鉛筆が、わが必需品の文具アイテムだ。特にクリップペンは重宝している。夏場が近くなるとポケットのない衣類を身に着ける機会が多くなる。軽くて小さい文具が活躍してくれる季節である。

5月29日 ずっと雨だが夜の散歩に出た。案の定、シャツもズボンもびしょぬれ。寒くて身体が震え出した。熱いお茶を飲んで、おにぎり一個を食べたらひとごこち付いた。寝る前に腰が重いことに気が付いた。また腰痛だろうか。散歩はするがストレッチはご無沙汰だ。奇跡的に腰痛と無縁で半生を過ごしてきたのに、昨年あたりから腰のあたりに鈍痛を感じるようになった。疲れやストレスと関係がありそうだが、「高齢」の一言を理由に、深く考えないようにしている。

5月30日 昨日の朝日新聞秋田県版には目を疑った。県版一面全部が「秋田以外」の記事や広告で埋まっていたからだ。福島の土偶の話、宮古での将棋叡王戦、つがる市の「ねぶた名人」のインタビュー……広告は山形・月山の旅館観光企画と山梨県(!)の「山梨の古城」という出版広告だ。「おくやみ」欄だけはさすが秋田県「のみ」だが、ここに他県の人が登場する未来も遠くないのかもしれない。購読者数の減少など紙面の広域化(ブロック化)が進んでいるのは知っているが、この日の紙面はちょっとひどい。一つぐらい秋田の自前の話題はなかったのだろうか。広告が他県のものだけ、というのも論外だ。新聞社側の経営事情もあるのだろうが、なんだか薄気味悪い。

5月31日 先週、欠かさず観ているTV「月曜から夜ふかし」が放映されなかったが、今週はちゃんと流れていたので一安心。この番組は本当に面白い。これは現代の落語なのではないか。この番組に登場する人物たちは全員が落語の主人公たちとそっくりだ。立川談志の名言「落語は人間の業を肯定する」という言葉そのものだ。「人間の業」とは、赤穂浪士の47人に選ばれなかった人、逃げてしまった人、あるいはヒーローになれなかった普通の人を意味する。番組を仕切るマツコ・デラックスは、登場人物たちを無下に切り捨てたり、小ばかにしない。擁護するか、笑って見過ごすか、拍手をして応援する。これが「業を肯定」するということだ。

6月1日 16世紀の大航海時代のことはともかく、その後の18世紀に雪崩うって起きるヨーロッパの地殻変動――アメリカ独立戦争からフランス革命、ナポレオンの登場とウィーン体制、小ドイツ主義といったあたりの歴史を勉強中だ。ヨーロッパの歴史で一番訳の分からないのは神聖ローマ帝国やウィーン体制といった「帝国」や「王国」に関すること。大航海時代のスペイン・ポルトガルから、イギリス・オランダに権力が移り、フランスが台頭しナポレオンがヨーロッパをぐちゃぐちゃにかき回し、プロシアが小ドイツ主義(オーストリアを無視)で歴史の舞台を駆けあがってくるあたりを、ボンクラ頭に畳み込むように整理中だ。

6月2日 今週のHP写真は「マキノスミレ」こと「シハイスミレ」。場所は山形庄内の荒倉山。この三角錐の葉っぱの裏が紫色なので「紫背」というのだそうだ。マキノという俗称は牧野富太郎の命名によるスミレだから。このところ山のリーダーの体調不良もあり山歩きはすっかりご無沙汰だ。友人たちの話によると、真昼山や神室山ではもうキヌガサソウが咲き始めているという。でも、ひとりで山に行くにはかなり勇気がいる。クマが怖いからだ。よく一人で山歩きをしているのを見かけるが、いつも勇気があるなあと感心する。
(あ)

No.1162

インタビューズ
(河出書房新社)
堂場瞬一
 この人気作家の本を読むのは初めてだ。2020年に出した小説『インタビューズ』が文庫本になり、その新聞広告の惹句からあえて単行本を買った。こっちの方が安いからだ。1989年から2019年まで、毎年年末に渋谷で「その年の一番印象的なことを聞いた」100人のインタビュー集といった体裁をとった「フィクション」である。これでまるごと「平成のすべて」を描こうという試みなのだが、実に面白い。小説としては異論のある人もあるだろうが、こちらはほとんど「ノンフィクションのつもり」で読んでいるから、何の問題もない。ちょっとその年毎のテーマが定番に寄りすぎるが、こっちの方は「小説だから仕方ないか」とあきらめる。寄り道や意外な事件や出来事が少ないのだ。それにしてもノンフィクションの手法を使って書く虚構というスタイルは予想外で十分楽しめた。ノンフィクションノベルともまた違った風合があり、その虚構と現実のグレーゾーンにすっかりはまり込んでしまう。昔インタビューに応じた人の子どもが、ひょっこり別の年に登場して、その奇遇を驚いたりするのも、おかしい。まったく関係のない100人の物語でつながる平成の物語だ。

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