Vol.1171 2023年6月10日 週刊あんばい一本勝負 No.1163

すっかり煮詰まってしまった

6月3日 GWからこのかた、ずっと机にへばりついていて、原稿を書いているのだが、うまくいかない。煮詰まってしまったのだ。ブラジルの40年間の旅紀行を書いているのだが、やればやるほど「下手で、安易で、うわべだけ」という芯がみえてきて、いたたまれなくなる。何度も構成をやり直してみたのだが、結果は同じ。今日は起きたのが昼過ぎ。12時間以上寝ている。70を超えたジジイが12時間も寝ていられることにも驚くが、目覚めにまるで爽快感がない。完全に煮詰まっている。誰かこの苦境を救ってくれないか。

6月4日 「弘前劇場」を主催していた長谷川孝治さんが今年1月に亡くなっていた。享年68だから私より6つ年下だ。青森の元高校教師で、併せて県立美術館での舞台芸術総監督という珍しい肩書をもち、数々の面白い舞台を提供してくれた。94年、彼の代表作でもある『家には高い木があった』を観劇、ショックを受けた。09年、彼が地元ミニコミ紙『弘前』に連載しているコラムを小舎から『さまよえる演劇人』という書名で出版させてもらった。月刊『弘前』へのコラム連載は去年まで途切れることなく21年間続いた。このミニコミ誌は今月号で通巻527号、これも称賛に値する。才能のある人は、はやく死ぬなあ。合掌。

6月5日 とりあえず原稿書きは「煮詰まった」ままで、このまま放って置くことにした。今月中旬、久しぶりに愛読者のDM(ダイレクトメール)通信を一回だけ復活させることにした。季刊舎内報兼販促通信誌で、数年前、紙からデジタルに切り替えた。紙は1回出すのに印刷・通信費で数十万の経費が必要だ。そのため休刊していたのだが、紙での新刊情報が欲しい、という方々が後を絶たない。そこで臨時特別限定版として発行することにしたのである。

6月6日 今週のHP写真も説明が必要だ。これは近所の家の解体作業の現場を写したもの。あの地震並みの振動で仕事にならなかった日々の事件現場である。その悪夢の記念に撮ったものだが、今日、その更地になった場所にまた大きなショベルカーが入っていた。どうやら今度は基礎工事をやるようでガックリ。

6月7日 会社用と個人用のメールアドレスを2つ持っている。個人用の「anbai@ーー」の方の送受信がうまくできていなかった。不具合に気が付かぬまま数カ月が過ぎてしまった。大切な友人からの返信がないなあ、と首をかしげて、受信ボックスを確認してみて、ボックスカラなのに愕然。ほぼ今日で問題は解決したようなので「anbai@」で、もう大丈夫かな、と思います。この間、個人アドレスに送信くださった方、悪いのは全部私でした。許してください。

6月8日 吉野ヶ里の石棺墓発掘は期待できそうだが、「発掘」と言えば「ついに土偶の正体を解明!」とうたった竹倉史人著『土偶を読む』(晶文社)という本にも驚いた。土偶とは縄文人たちが主食にしていた食物をかたどったもの、というのが結論なのだが、読んでいて「こりゃ、トンデモ本だな」と途中で本を閉じてしまった。最近その反証本が出た。『土偶を読むを読む』(文学通信社)で編者は「縄文ZINE」という雑誌編集長の望月昭秀だ。土偶の編年(歴史のようなもの)や類例を無視して自説に合うように考古学的事実を改変する手口は悪質だ、と著者は訴えている。こちらに説得力があるのは間違いない。

6月9日 スマホは持っていないが、けっこう新しいもの好きだ。iPhoneが出はじめのころは、すぐに買い求めて、皆に見せびらかしていた。そのiPhoneには大量の手持ちのCDアルバムを入れていた。そのときのiPhoneは今も持っていて、音楽を聴くデバイスとして現役で毎日役立っている。そういえば40年ほど昔、舎員だったオペレーターのKさんは音楽好きでよくLP レコードを買っていた。でもLPレコードはすぐにカセット・テープに録音し、そのテープのほうを擦り切れるまで聴いていた。LPレコードに針を落とすのは録音のための「一度きり」で、あとは大切に棚に収めているという。音楽に敬意をもって接し、大切な宝物のように扱っていた時代がある。iPhoneに入れていた昔の音楽を聴きながら、そんなことを思い出してしまった。
(あ)

No.1163

アマゾンの歌
(中公文庫)
角田房子
 トメアスーというブラジル・アマゾンの日本人入植地から84歳のSさんが来日、弘前城の桜を見た帰り、事務所に寄ってくださった。私がトメアスーに行くといつもアテンドしてくださる村の僧侶だ。
 45年前、初めてブラジル・アマゾンの日本人移住地を訪ねたのが、そのきっかけになったのが本書だった。Sさんと会って、この本を再読したくなった。南米アマゾンに昭和初期、初めて移住したある日本人家族の挫折と成功を克明に描いたノンフィクション・ノベルである。著者は昭和40年、現地取材をし、翌41年には毎日新聞から本書の単行本が出版、10年後の昭和51年に文庫化された。私が渡伯したのが77年(昭和52)だから、たぶん出たばかりのこの文庫を読んだのだろう。角田の作品の中では地味で、さして話題にならなかった本だが、80年代にはフジテレビ創立20周年記念でドラマ化され、こちらは仲代達也、香山美子主演で大きな話題になった。この本の舞台となったトメアスーという日本人入植地を、いつか本に書こうと思い、いつのまにか半世紀という年月が経ってしまった。本書を再読して、自分が新たに書き加えることはあるのだろうか、とまた途方に暮れている。

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