Vol.1174 2023年7月8日 週刊あんばい一本勝負 No.1167

暑い7月を乗り切るために

7月1日 春先、クマの写真を撮っているKさんと会ったら、「今年はうじゃうじゃ出そうですね」と言われた。去年、ブナやドングリが豊作で、クマは里までエサを探しにくる必要がなかったのだが、ブナの豊作は7年に一度しかないといわれている。今年は確実に不作なので、クマは里に出てくる、というわけだ。姉崎等『クマにあったらどうするか』(ちくま文庫)はサブタイトルに「アイヌ民族最後の狩人」とあるように、北海道のヒグマを60頭も仕留めたという伝説の狩人の聞き書きだ。Kさんは、山に入った人間をクマはそばでじっと観察しているんです、とよく言うが、この本でもやはり「クマは近くで人を見て、人と合わないように気を付けている」と書かれていた。やっぱり一人で山に入るのは怖い。

7月2日 6回目のコロナワクチン接種は受けないことにした。コロナ禍で習慣になったのは「うがい」だ。2年ほど前、Sシェフと山行の時、「口臭がする」と注意されたのがショックで、それ以降、口臭をかなり気にするようになった。気休めかもしれないが「うがい」は効いている。閑話休題。今年のサクランボは出来がいいようだ。何人かのお世話になった方にお送りしているのだが、「ものすごく美味かった」と返信をいただき、まずは一安心。

7月3日 ここ数年、痛風の症状がまったく出ていない。昨日、「夏場は痛風にご用心」というネットの記事を見て、「そういえば、とんとご無沙汰だ」と思い出した。それにしても昔はなぜあんなに容易く痛風になってしまったのか、逆に今、身体に問いただしたい気持ちだ。とは言っても油断は大敵。適度に水分補給を怠ると、てきめんに夜中に足がつる症状は変わっていない。痛風の代わりにけいれんが目下の敵だ。

7月4日 梅雨の合間の珍しい青空の月曜日だ。午前中で仕事を切り上げ、デイパックを背負って外へ。前から気になっていた散歩コース上にある「和食E」という店へ。一番人気だという海鮮丼(2000円)を食べたが、苦手なサーモンばかりでガッカリ。駅ナカコーヒー屋で、懸案のブラジルの原稿の構想を練るが、すぐに切り上げ、駅前ビルの大手書店へ。書店に行く機会はほとんどない。新鮮な体験だったので文庫10冊ほどまとめて買い。さらに同じビルの2階で、おもしろいインテリアの絵を見つけた。県出身の若い女性が描いたものだそうで、がぜん興味を持ち、事務所に帰って絵描きさんの居場所をネットで確認。「インスタグラム」しかつながる手段はないことがわかり、連絡を断念。まあいつか会うことができるだろう。外はやっぱり楽しい。

7月5日 NHK・BS『鷹を継ぐもの』を観る。山形の孤高の鷹匠・松原英俊さんを主人公にした最新のドキュメンタリーだ。松原さんには何度かお目にかかったことがある。頑固一徹、信念を曲げない人として有名で何度か出版のオファーをしたのだが、容易に首をタテに振ってはくれなかった。この気難しい人物をNHKはどう説得し、どんな料理法で、提供してくれるのか、実は興味津々だったのだが、弟子入り志望の都会の女子高校生との「交流日記」風にドキュメンタリーを仕上げていた。冒頭とラストに、松原さん自身が鷹に襲われ血を流すシーンが使われていた。これはもちろん松原さん自身が「あえてOK」を出したシーンだ。これが塩味のように番組全体を引きしめた。

7月6日 秋田県の人口は23年4月現在、91万6千人ほど。国の人口動態統計によると出生率は28年連続で全国最下位だ。高齢化率ももちろん全国最下位。もうりっぱに全国の少子高齢化のトップランナーである。秋田県の人口が100万人を割った、と県内メディアが大騒ぎしたのが2017年。この時の数字が忘れもしない「999636」。それからわずか5年で、10万人近い人口が足元から静かに物言わぬままに消えてしまった。この流れが続くと2045年には、県人口は60万と言われている。とりあえず現在の90万台という数字を割るのは今年中かもしれない。

7月7日 暑い日が続く。午前中はいい風が吹くから仕事場の窓を開け放っているが、午後からはもうダメ。熱気がこもり西日がガンガンと照りさして、40度近くまで仕事場を温めてしまう。この事務所を建てた時、この西日のことなどまったく考えず大きな窓を作った。作ってから夏は熱気のためまったく仕事にならないことがわかった。以後10年以上、2階は使用不可のままだった。20年前、窓を2重にして断熱、私専用のシャチョー室として、むりやり2階を使うようにした。でも以前よりはずいぶん楽になった。部屋が冷房になじんできたのかもしれない。午後から散歩に出る間も、蒸し風呂になることを恐れてクーラーは利かせたままだ。新入社員にそのことを注意されてしまった。十分そのへんは承知なのだが、ここの蒸し風呂状態を知らない人間に言われたくない、というのも本音だ。
(あ)

No.1167

カラスは飼えるか
(新潮文庫)
松原始
 散歩の途中のノースアジア大学横の道路で、カラスが電線からクルミを落として割ろうとしている姿を目撃した。3度ほど落としたが割れず、電柱に留まって思案していたが、私がじっと見ているのに気が付くと、あわてて遠くへ飛んで行った。けっこう車の往来のある場所で、車の来るタイミングでクルミを落としているようにも見えた。う〜ん、もうちょっと続きを見たかった。帰ってからカラス研究で有名な松原始の本書をひも解いてみると、クルミを「落として割る」と「車に轢かせる」の間には大きな溝があり、詳細な研究はまだなされていない、と書いてあった。カラスがクルミを車で轢かせることを学習していれば、もっと高頻度で目撃されているはずで、実際の目撃例はごく少ないのだそうだ。いやあ、その数少ない例を目撃できたかもしれなかったのに……。それにしても松原のカラス本はみんな面白くて好き。卒業研究でカラスをやり、大学院の修士過程で学位を取得し、オーバードクターの研究員で置いてもらったが、その身分も切れ、今は奇跡的に東京の博物館に拾ってもらい、その仕事の傍らカラスを観察しているのだという。カラス漬けの生活だが、それで食えているわけではない。学問の世界も厳しいのだ。

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