Vol.1176 2023年7月15日 週刊あんばい一本勝負 No.1168

海がないのに海苔も寒天も長野産?

7月8日 今年の9月から本の「送料無料」をやめ、一律250円(予定)の送料を読者に負担してもらおうと思っている。3千円以上は送料無料だ。もう2024年問題を他人事としてスルーするわけにはいかなくなった。すべての始まりは2013年、佐川急便がAmazonから撤退を決めたこと、ここから「問題」が鮮明化した。安くて手間がかかることを佐川が嫌ったためだが、今年6月にはヤマトが郵便局と協業、ヤマトが荷物を引き受け、郵便局が配達するという「クロネコゆうメール」が登場することになる。過去の対立は昔の話、ヤマトと郵便局が一体となったのである。佐川の年間売り上げは約1兆4千億、ヤマトは1兆8千億余りだが、利益率は実は佐川のほうがずっと高い。仕事を減らすほど利益は高くなる、というこの現実をどうとらえるのか。

7月9日 読む本がなくなった。こんな時は目黒孝二さんの本を取り出して、その書評された本を参考に見繕うことにしている。今回は未読だった『息子たちよ」』早川書房)から10冊程度をセレクト、これで一安心、ついでに本文の方も堪能した。目黒さんとは母親と祖母が同じところの出で、親戚だ。弘前に大正時代にあった北声社書店は、高松民蔵の息子である岩太郎が若いころ東京・神保町の一誠堂書店で修行し、開業した本屋だ。この岩太郎の娘が目黒さんの母テルで、岩太郎の父・民蔵の妹が私の祖母ゆき、なのだ。目黒さんは肺がんで今年の1月に永眠したが、父親について書かれた『昭和残影』(角川書店)は両親について書かれた本で、この『息子たち』は2人の子どもたちへのメッセージだ。「昭和残影」は目黒姓で書いているのに、「息子たち」は北上姓で書かれた本だ。目黒さんはもういないが、彼の書いた本は私の中でいまも生きている。

7月10日 ご近所で新築工事がハデに始まった。朝から工事作業の音がうるさい。振動がないのがまだ救いだが、朝は一番仕事に集中できる時間帯なのでガックリ。おまけになぜか今朝から腰が痛い。疲れがたまってくると腰にくる。大慌てで「気休め」のアリナミンと山用のアミノ酸粉末を飲む。なんだか今週は波乱の幕開けだ。

7月11日 先月2年ぶりに発行した愛読者のためのDMの「返り(注文)」がようやく一段落。あまり期待していなかったのだが、そこそこの注文数で、なんだか一安心というのが本音だ。注文カードを読み返しながら感じたのは、その年齢の高さだ。ほとんどの方が昔から本を買ってくださっている方で70代、80代だ。まあこれが現実で、あとは後継者に任せるしかないのだが、でもなんだか自分の尻拭いを無理にやらせているようでもあり、内心忸怩たる思いがある。

7月12日 50代あたりまで見る夢は、小中学時に飼っていた鳩のエサを忘れたり、体育着や授業時間割を紛失してあせりまくったり、大学の単位が取れずに、悩みまくり、不安に駆られる……といったネガティブなものばかり。最近は以前のような幼少期の夢は姿を消し、社会人として仕事をしていた時期に「夢」の時間が移行してきている。舎員の給料が払えなくなり、資金繰りに七転八倒する、という夢をよく見るようになった。夢というのはどうやら過去の、強く脳裏に刻まれた、辛い経験を整理済みのゴミ箱から拾い出し、しつように何度も夢として再現して、脅迫する悪魔の分身にも似ている。

7月13日 米映画「メジャーリーグ」を観ていたら、「112メートルの大ホームラン」とか「154キロの剛速球」といったセリフがポンポン飛び出した。あれッ大谷のホームランって、いつも130メートル級だし、投げる球は160キロが当たり前。「メジャーリーグ」はもう2,30年まえの映画だが、それにしても大谷が今やっていることの「偉大さ」を、この映画を観て改めて理解できた感じだ。でも同時に、天邪鬼としてはアメリカ南部の人種差別を描いた映画「グリーンブック」も思い出してしまった。世界的名声を得た黒人ピアニストの演奏会が開かれた南部の一流ホテルで、演奏を終え、トイレに入ろうとした黒人ピアニストにホテル側は一言、「黒人のトイレはホテルの外」と言い放つシーンがあり、これは衝撃だった。大谷に人種差別がないことを祈るばかりだ。

7月14日 お昼は事務所でめん類か寒天ランチが定番だ。寒天も、そばに散らすもみ海苔も偶然ながら「長野の特産品」である。あれっ、海のない長野がなぜ寒天と海苔なのだろう? と調べてみると江戸時代、寒さに強く忍耐強い長野からの出稼ぎ人たちが海のある他領で働き、その技術を自領に持ち込み、製造を始めたのが「きっかけ」のようだ。当時、出稼ぎは領内の労働力を低下させ、年貢を納めるものが逃げてしまう危険性があるので、積極的に奨励した藩はなかった。だが長野は貧しい藩財政のため、やむなく他領への出稼ぎを許可したもののようだ。そういえば長野県には小海町、海ノ口、海尻など「海」のつく地名が秋田などよりいっぱいあるのもヘンと言えば変な話だ。「山国信州」とはいうものの、元はと言えば「海」だった、ということなのだろうか。面白いなあ。  
(あ)

No.1168

今度生まれたら
(講談社文庫)
内館牧子
 久し振りに入った書店で本書が文庫本になって平積みされていた。彼女の高齢者小説は4冊あり、その全部を単行本で読んでいると思ったが、この文庫のストーリーだけが思い出せない。ビニール閉じなので中身が確認できないので思い切って買って読んだ。確かに昔、単行本で読んだ痕跡は確認できたが、本筋の流れをほとんど覚えていなかったので、最後まで楽しみながら読了できた。これまでの4冊の中で、この本が一番面白い、とまで思ってしまった。彼女の物語に共通しているのは「人間はすべてを手に入れることはできない。手に入れているように見える人は、必ずどこかにシワ寄せがきている」というテーマが貫かれているところだ。本書もみごとなどんでん返しの連続で、あらためて、そのすごい才能に驚いた。「命は地球より重い」「人は一人では生きられない」「お金で買えないものがある」「元気をもらう」「夢をありがとう」……美しすぎて突っ込めないこうしたフレーズや「つながる」「ぬくもり」「安らぎ」「さわやか」……といった言葉が大っ嫌いという70歳になった女性が主人公だ。この大嫌いなフレーズを 腹の中でゲッと思いながら、使いまくり、周囲とうまくやっていく。こんな女性が主人公の物語が面白くないはずがない。

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