Vol.1177 2023年7月22日 週刊あんばい一本勝負 No.1169

「内水氾濫」という言葉を初めて知った

7月15日 秋田県は観測史上、過去最多の雨量だとNHK全国ニュースが伝えていた。近所に氾濫しそうな川・太平川が流れている。家から200メートルほど東側だ。山用のレインウエアーや長靴など出してきて点検中だ。こんな時、山登りのノウハウがいろいろと役立ってくれるのが、ありがたい。避難指示までは出ないと思うのだが太平川の水量次第だろう。

7月16日 「秋田県がメディアのトップ」と書いたが、いやはや「広面」がトップニュースだった。ニュース映像の水没した車や、ボートで救助される映像はすべて近所の広面のもの。家も事務所も玄関に四段の階段があるのだが、その三段目直前まで水が上がった。目の前の道路は川になった。Sシェフのアドバイスで、まずは自家用車を高台(千秋公園)に移動させ、1階の事務機器の電源プラグを抜き、大事な書類は2階に運び込む。家と事務所は10メートルも離れていないのに道路が川になり通行不能に。どうにか裏庭から建物沿いに壁に張り付きながら伝い行き来し夜を迎えた。夜8時ころに水位が心配で事務所まで行くと、わずかだが水位が下がっていた。これで夜中に床下浸水はない、と判断、ふだん通り寝床に入った。朝起きると川は消え、道路が出現していた。なつかしさすら感じるほど感動した。千秋公園まで車を取りに行き、氾濫した川のすぐ横に家があるKさん宅を慰問。家族総出で家周りの清掃中で「こんな雨は初めてだ」と怒っている。昨晩は息子夫婦の家に避難していたという。

7月17日 多くの方からお見舞いの連絡をいただき、ありがとうございます。いまのところ当方に被害らしきものはなく、普段通り仕事や生活をしていますので、ご安心ください。今回の豪雨で「内水氾濫」という言葉をはじめて知りました。短期間に激しい雨が降ると下水道や水路が排水能力を超えてしまい、家や道路を浸水してしまう危険な状態をいうのだそうです。そういえば太平川が氾濫した当日の夜、風呂に入っていたら、水も流していないのに排水菅から絶え間なくゴボゴボ、チュルチュルと水が吹き上げてきそうな音がして、その不気味さにかなり不安を覚えました。いま考えればこれが内水氾濫の予兆だったのかもしれません。さらに、この広面地区にはどこにあるのか知らないのですが、秋田市の「汚水処理中継所」という施設があり、そこの処理能力が今回の雨で限界を超えた、という報道もありました。

7月18日 16日の深夜、30秒ほど停電になった。瞬時にあの3・11の悪夢が頭をよぎった。「風呂、トイレ、冷蔵庫、クーラー」がつかえない生活に身震いを覚えた。幸い、被害の中心地に住まいながら断水も停電も床下浸水もないまま過ごせている。今週前半にはまた似たような大雨があるかもしれないから、まだ油断はできないが、すでに被害を受けている方々には、なんともやるせない1週間になりそうだ。

7月19日 よく行く近所のスーパーは二軒とも「臨時休業」。コンビニも同じく二軒が休んでいる。買い物ができるのは「ツルハドラッグ」のみで、店内はごった返していた。散歩の途中にくぐる地下道はもちろん水が溜まって通行不能。このところお気に入りの「広面近隣公園」は「災害ゴミ指定の仮捨て場」になっていた。表現は悪いが、代々木公園のフリーマーケット会場のような「賑わい」だ。いつも私一人で独占しているのんびり穏やか緑にあふれた公園は、一夜にしてゴミとかした家具類を積む軽トラックが長蛇の列をなしていた。新入舎員は午後から、近所の浸水した友人の家に救助ボランティアへ。今日も雨は降り続ける。

7月20日 朝から青空。晴れた空を見たのはかなり昔だったような気がする。内水氾濫という、氾濫した場所から遠く離れたところで洪水が起きる、という意味のよくわからない現象を言葉よりも先に身体で体験した。行きつけの酒場も近所の老舗の時計屋さんも甚大な被害を受けた。でも今日の朝からは、一軒隣の新築工事の槌音が高く響き、屋根の上を動き回る職人たちの動きが仕事場から見える。心ざわつかせる救急車のサイレンも聞こえない。また新しい一日がはじまった。

7月21日 今週のトップ写真はメキシコ・シティの国際空港内の光景です。撮影したのはコロナ禍前の19年6月。確か去年には新しい国際空港が少し離れた場所に開港したと思います。安いビジネス便でブラジルまでのチケットを買ったのですが、なんとここで10時間近くトランジットした、最悪の思い出があります。ラウンジもごった返していて、軽食もろくなものがなく、時間を潰すのに苦労した思い出がよみがえります。天井はみんな穴が開いた斬新なデザインで、最初はおおおっと驚きましたが、すぐに見飽きてしまいました。飛行機もメヒコ航空だったのですが、ビジネスといっても4人掛けと6人掛けの2機種があって、6人掛けだとほとんどエコノミーと変わらずガックリ。ビジネスとは言ってもいろいろあることを学んだ次第。
(あ)

No.1169

クマにあったらどうするか
(ちくま文庫)
姉崎等
 春先にクマの写真を撮っているKさんと会ったら、「今年はうじゃうじゃ出そうですね」と言われた。去年、ブナやドングリは豊作でクマは里までエサを探しにくる必要がなかった。しかしブナの豊作は7年に一度しかない。Kさんの言うとおり、例年になく目撃情報は多いようだ。本書は北海道のヒグマの話だが、クマ狩猟の「テキスト」のような本だ。サブタイトルが「アイヌ民族最後の狩人」とある通り、北海道のヒグマを60頭仕留めたという伝説の狩人の聞き書きなのだが、もうクマ本では「古典」の域に入っている。雪中を3頭の家族で歩いても、クマは1頭分の足跡しかつけない。冬眠前のクマはもうほとんど食欲はなく、掌の蜜を舐めるなんてありえないし糞も出さない。山に入るとカラスと仲良くなり、そのカラスがクマの居場所を教えてくれた……といった刺激的な話が続く。驚くような事実が現場にいる人間にしかわからない言葉で語られている。山に入った人間をクマはじっと観察している、というのはKさんの持論だが、この本でもやはり「クマはかなり近くで人を見て合わないように気を付けている」ことが書かれていた。

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