Vol.1181 2023年8月19日 週刊あんばい一本勝負 No.1173

ようやくクーラー設置で人心地

8月12日 慈雨の、と言いかけて岩手県内陸部にまたもや線状降水帯が発生していることをネットニュースで知った。昔は雨が続きそうだと言われれば「お米は大丈夫かなあ」などと流ちょうなことを心配していたが、もはや雨は命にかかわる災害をもたらし、それは確実に繰り返される自然現象であることを、私たちは知ってしまった。そんなことも知らずに事務所の役立たずクーラーは今朝、久しぶりに冷気を感じさせる風を吐き出している。雨で地面が冷えたためだ。この間ずっと20度に設定しても室内温度が30度を切ることはなかったのだが、今日は何と27度。これでも涼しいだけありがたい。

8月13日 スタローンの出世作『ランボー』を観た。アメリカ人にとってベトナム戦争というのがどれだけ歴史の深い傷だったのか、エンタメの映画として、実にわかりやすく描かれている。そして「本」の方は、もっぱら桜木紫乃の小説から「向田邦子」のエッセイに方向が変わり、そのまままっしぐら、だ。いま4本目の向田のエッセイ集を読んでいる最中だ。これも昔読んだものが多いのだが時代の古さを感じさせない。名作というものは時を超える力を持ったものを言うのだろう。

8月14日 いちおう盆休みは15日までだが、私も新入舎員も似たもの親子で毎日決まったように事務所に出てきてダラダラ。もうすっかり「生きていることが仕事」のような感じが身についてしまった。昔はよく「お盆を過ぎれば、もう冬の準備だ」と冗談めかして言われたものだが、今年の経験したことのない猛暑は、9月下旬あたりまで続く、と恐ろしい予想をする人まで現れた。お盆期間中は、あいもかわらず30度を越す事務所で、汗だくで本を読んだり、映画を観たり、原稿を書いてすごす予定。家の寝室にもクーラーはあるのだが、やっぱりあそこは寝にだけ帰るところ。仕事場は私の隠居部屋であり、戦場でもある。

8月15日 ディケイドというのは10年間といった意味だ。いつのころからか自分の来し方をふりかえるとき、この10年単位で事の善し悪しを判断するようになった。これは生まれた年が1949年なので、西暦で50年代が一桁代、60年代が10代、70年代が血気盛んなころが20代で、80年代が仕事に邁進していた30代、といった具合に自分の年代と時代(西暦)がうまく重なっていたせいだろう。このところ来るべき80代を迎えるための心身の「貯蓄」を70代に何もしていないことに不安を感じるようになった。

8月16日 今日から仕事です。朝から新しいエアコン設置のミニ工事が始まる。昔と違って電源発火の問題があり、電源をプラグからではなく直接電源元からひく工事が必要になるため、もうひと手間、工事に時間がかかるようになってしまった。この費用も加算されるから、どんなエアコンも15万以上はかかってしまうことになる。でもまあお金のことは目をつむろう。生まれて初めてといっても過言ではない今夏の猛暑に、快適な仕事場が戻ってくるなら、どんな犠牲も払おうというものだ。ナンチャッテ。


8月17日 ついにクーラーが設置。前のものは07年製だったというから、なんと15年ぶりに新しいものに変わったわけだ。心晴れやかに夜の散歩に出かけたら、ずっと悩まされていた腰下の痛みもほとんどとれていた。クーラーと腰痛の2つの難問が一度に解決。これまでの経験上、こうもいいことが続くと、あとにはろくなことしか待っていない。今日の夜は久しぶりにモモヒキーズの宴会がある。山にさっぱり登らなくなった6人が、久しぶりに顔を合わせる。いいことは長く続かない。調子に乗ってつかみ合いのケンカになったりしないよう、発言には気を付けよう……などと朝からキリリと冷えた、気持ちのいい仕事場で妄想にふけっている。

8月18日 お盆中はNHK衛星放送で3日間連続「ゴッドファーザー」。もう5,6回観ているのだが、やっぱり感動で最後はウルウル。もしかしてこの映画はビートルズと同じように、私たちの時代が後世に残すことのできる歴史的文化遺産なのかもしれない。ラストシーンは主人公のマイケルが、故郷シチリアの自宅庭先で、2匹の犬に挟まれて、老いさらばへ、ゆっくりサングラスをかけるシーンで終わる。でもこのラストシーンにはいくつかの別バージョンがある。最も感動的なラストは、椅子からずり落ちそうになって死んでいるマイケルの顔を、犬がぴちゃぴちゃ舐めたり嗅いだりする長まわしシーンで、これがエンドロールに変わっていく。このラストシーンが大好きなのだが、NHKのものはそっけなく終わってしまう。どっちがオリジナルに近いものなのだろうか。 
(あ)

No.1173

起終点駅ターミナル
(小学館文庫)
桜木紫乃
 映画を観て感動して原作者の小説を読む、というパターンが最近は多くなった。先日、録画しておいた映画、佐藤浩市主演の『起終点駅ターミナル』が面白かった。すぐに原作の本書を読んだのだが、映画では圧倒的に感動したラストシーンが、活字では全く違う展開になっていて、驚いた。原作に大幅な映画的演出を施しているのだがガッカリしたわけではない。原作の終わり方も映画に劣らず素晴らしかったからだ。でもこの活字の終わり方では映画は物足らなさがのこる、というのはよくわかった。本書は、北海道の小さな町を舞台にした男と女の清冽な愛や、悲しみと希望、哀歓を圧倒的な迫力で描き出している6篇の短編からなる作品集だ。書名はその6篇のうちの一篇だ。短編を長丁場の映画にするのだからいろんな工夫が必要だ。映画も短編集もよかったので、彼女のデビュー作品集である『水平線』(文春文庫)も読了した。これもよかった。彼女が直木賞をとった『ホテルローヤル』も実は映画で観ているのだが、本は読んでいない。昔は映画を観れば本は読まないし、本を読んでいれば映画は観なかった。でも映画と本はまったく違う、ということを本書は教えてくれた。今年の猛暑は「桜木紫乃」に賭けてみよう。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.1177 7月22日号  ●vol.1178 7月29日号  ●vol.1179 8月5日号  ●vol.1180 8月12日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ