Vol.1183 2023年9月2日 | 週刊あんばい一本勝負 No.1175 |
猛暑はまだ続くのか | |
8月26日 昨日、登頂(?)した山形県遊佐町の「二ノ滝」の標高は約500メートル。登山家の平出和也と中島健郎の2人が先日、パキスタンのティリチミール北壁の未踏峰に登頂した。その標高は7708メートルだ。私と比べるのはシャレだが、このプロの2人にはまったく悲壮感がなく、いつも楽しそうに登っている。ネットでは2人の所属が「ヨドバシ傘下石井スポーツ」と報道されていることに不快感を示す人が多い。でもこれはしょうがない。マスコミ用に配布されたプレスシートに2人の所属は「ヨドバシ傘下」と明記されているからだ。それ以上の他意はない。親会社から見ればヒーローが子会社の所属では「筋が違う」ということなのだ。 8月27日 HP写真はブドウ畑。フランス・デジョン市から国道74号線上にあるコート・ドールの、あのロマネ・コンティの超特級畑だ。この写真で見える範囲1ヘクタールあるかないかの畑で、年間600本ほどのワインしか取れない。先日、ちょうど開高健『ロマネ・コンティ1935年』(文春文庫)を再読したばかり。全6篇の名作短編集だが、表題作はこのワインを飲んだ体験グルメ小説、ではない。作家はサントリーの社長らしき人物と、この1935年物ロマネを飲むことになったのだが、何と中身は、すっかりくたびれ果て、年老いて、オリだらけの老婆になっていて、とても飲める代物ではない。そこで作家はそこからイメージを膨らませ、パリの街角で娼婦(?)と過ごした一夜へと、物語を飛翔させる。ちなみに書名の「1935年」は「いちきゅうさんごねん」と読むのが正しいようだ。 8月28日 猛暑はまだ続いている。クーラーに感謝の日々である。先日TVで「シャウエッセンの値札を見ずに買えるかどうかが貧富のさかいめ」という話題で盛り上がっていた。シャウエッセン(ソーセージ?)そのものを食べたことはないから、このテーマを論じる資格はないが、ソーセージは大好きだ。子供の頃はマルハの魚肉、いまは近所にある八幡平ポークを食べている。小さなころからの習慣で輪切りにしたものを一度フライパンで焦げ目がつくくらい焼いてから、しょうゆをかけまわして食べる。小中学校時代の弁当のおかずの定番だった(給食はまだなかった)。 8月29日 左奥歯が痛む。歯医者に予約を入れると、「いまキャンセルが出たので、来れますか?」とのこと。「行けます!」と二つ返事で、ものの1時間で終了。ものすごく得をした気分だ。いっぽう右足付け根の痛みは、今ひとつ難しい局面だ。散歩しても痛まない時もあれば、しびれが数日続くこともある。先日の二ノ滝登山は全く大丈夫だったのに、近所を散歩するのに難渋する、というのはどんな身体のメカニズムによるものなのか。もしこのまま痛みが去らないようなら、腰から内視鏡を入れて手術することに決めている。 8月30日 夜に読む本は気宇壮大、世界を股にかけた、意表を突く大冒険譚ばかりを選んで読んでいる。しばしこの猛暑と、どうしようもない不誠実で不可解な現実世界から逃避したいためだ。角幡唯介『犬橇事始』はグリーンランドで冒険行のための犬を訓練するだけの話だが、一気に北極の極寒の世界に誘ってくれる。彼はコロナ過と全く無縁だった世界で唯一の人間だった、とこの本で自慢している。黒田未來雄はNHK「ダーウィンが来た!」のディレクターで、そこをやめ猟師になった人物だ。初の著作である『獲る食べる生きる』は哲学的ともいえる思索の深さで、北米先住民の叡智を伝えてくれる。最後は高野秀行『イラク水滸伝』。未知の世界を知る楽しさと民俗誌的価値の高い本だ。イラクにある巨大な湿地帯を探検する話なのだが、読み始めると止まらなくなる。 8月31日 一滴の雨も降っていない。水不足は現実的な問題になってきた。猛暑によって否応なく自分の年齢を意識させられることが多くなった。自己規制がすっかり板について、身体を動かすことに消極的になる一方だ。「もう年なんだから」というフレーズは「魔法の言葉」で、この言葉が楽な方へと自分を誘導する。なんだかよくない循環が出来つつあるなあ。 9月1日 なんだかいつの間にか9月。8月はただひたすら猛暑との戦いという一言に尽きるのだが、スケジュール表をよくよく見ると、外に食事に出かけたり、来客がやたらと多かったり、原稿もちゃんと書いている。それなりに充実した1カ月間だった。やはり7月が大問題だ。大雨、腰痛(脊柱管狭窄症)、猛暑……これが「長さ」の元凶を形作っている。7月の痛めつけられた記憶や後遺症が、実は今も大きな影を落とし、その後の時間が過ぎるのが遅く感じているのだ。 (あ)
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