Vol.119 02年12月7日号 週刊あんばい一本勝負 No.116


久々の芝居見物

 東京の新国立劇場で久々にお芝居を見てきました。だしものは元転形劇場の太田省吾作・演出による『ヤジルシ―誘われて』(大杉漣・金久美子主演)。前々から転形劇場の『小町風伝』や『水の駅』を見逃していたことに忘れ物をしたような悔恨があったのですが、上京の予定と公演日程がぴったり合った今回はなにをさておいても、と憧れの人に何年ぶりかで会いに行くような心境でした。転形劇場は解散してしまったし、もう太田省吾の芝居は見られないかも、と諦めていたのですから。お芝居は期待通り(難解だけれど)楽しめました。やはり生で見る舞台装置や美術、役者の芝居は迫力があり、静かで断片的な詩的世界の一方で、それを裏切る言葉の情報の多さが、舞台に独特の緊張とドラマを作り出していました。

ポスターのデザイナーは菊地信義
 終わってから打上げにも参加させてもらい、太田さんや金さんとお酒を飲んだのですが、舞台の印象を訊かれて「カッコよすぎますねえ」と余計なことをいってしまいました。あまりにかっきりと世界が出来上がってしまっていて、外から想像力を働かせる余地がないほど、完成されている舞台に思えたからです。同じ芝居をもう一度見たい、という気持ちに駆られました。
(あ)

台湾からのメール

 突然差出人の名前が文字化けしたような奇妙なメールが送られてきました。恐る恐る開いてみたらその画像にびっくり仰天、写真に写っているちょび髭のペテン師のような人物は、なんと9月に社員旅行で行った台湾の居酒屋「九番坑」の主人ではありませんか。この居酒屋は首都台北の町外れにある店で、店内は台湾の普通の家庭を思わせるようなつくりです。薄暗くとても居心地のよい雰囲気は、これぞデュープな台湾の飲み屋と思わせるものでした。我々一向とすっかり意気投合した主人は、自家製という老酒のような酒をボコボコになったヤカンで振舞ってくれ、何度も何度も「乾杯」し酩酊の世界へと誘ってくれました。あまりに楽しい店だったので、帰ってきてから台湾のアルバムを見ながら「今回の旅行で一番楽しかった店だね。また行きたいね」と皆で話していたものです。
 酔って覚えていませんでしたが私が名刺を置いてきたようで、メールの宛名に鐙啓記さんとありました。たどたどしいひらがな中心の日本語でのメッセージと、彼の前に並んでいるおいしそうな料理を見て「また行きたい」がその日の話題の中心でした。これは最高に上手なお誘いのメールです。
(鐙)
これが「九番坑」からのメールです

ヨーロッパ旅行

 11月に1ヶ月間の休みをもらって、イギリスのケンブリッジに住んでいる母のところに遊びに行きました。最初の1週間はパリを旅行し、2週間ケンブリッジで過ごしたあと、1週間イタリアを旅行して帰ってきました。観光旅行のほかに、英語を少し話せるようになりたいという目的もあったので、ケンブリッジでの2週間はとても短期ですが語学学校に通いました。
 初めてヨーロッパの空気に触れ、いろいろな人と出会い、毎日私の中にたくさんのものが入ってきました。フランスとイタリアの旅で感動したのは、やはり「芸術」です。パリのルーブル美術館やベルサイユ宮殿、ローマのコロッセオやバチカンなどはもちろん、街を歩いているとあちこちに古い立派な建物や彫刻が達っていて、ただ散歩をしていても飽きることがありません。優美で繊細なものを作り出すセンスにもため息が出ましたが、芸術を維持・保存し、伝承していこうという積極的な気持ちに強く打たれました。
 ヨーロッパの雰囲気はあまりにアジアと違い、驚きと感動の連続でした。そして、イギリスで出来た友達は逆に、私が話す日本のことがとても新鮮だったようです。折り紙の鶴を折った時には「ちょうだい!織り方教えて!!」と、大喜びされて戸惑ってしまうほどでした。
 パリ、ローマ、ロンドンなどでヨーロッパの古い文化を垣間見ることが出来たこと。そして、ケンブリッジで出来た友達につたない英語力ではあったけれども日本のことを少しわかってもらえたこと。この貴重な1ヶ月間を過ごしたあと、私の中でどんどん大きくなっている気持ちは「もっと日本のことを、文化、歴史、自然などいろいろなことについてたくさん学びたい」という思いです。ヨーロッパの人々が自分の国の文化に誇りを持っているように、私も日本の文化に誇りを持ちたい。そして、また機会があったら世界のいろいろな国に行ってみたい、と思っています。
(柴)

モンマルトルカテドラル(パリ)

エッフェル塔

No.116

芸術立国論(集英社新書)
平田オリザ

 著者が16歳のときに書いた自転車での世界一周の記録を読み、著者の若さや行動力に驚いたが、彼を進んで旅に押し出した両親の存在にも感動した。その後、若者は劇作家になり「東京ノート」で岸田戯曲賞を受賞する。その「東京ノート」を小さな劇場で観たがあまり感動しなかった。私の感性が年とともにアバウトに摩滅していて、彼らの感性についていけなくなっている、という強い危機感に苛まれたことを覚えている。その著者が今度は「政治」の領域にまで踏み込んだ本を書いた。才能というのはうらやましい。日本で真の芸術文化政策を推し進めるには何が必要であり、何が欠けているかを提言した本である。 「日本はいま、世界の歴史上初めて、儒教社会が成熟社会へと向かう壮大な実験を行っている」から西洋の事例は先例とならないことを断って、巷間よく例に出されるフランスやヨーロッパの例を鵜呑みにしていない。「芸術文化行政」を地域や経済、教育といった角度から光を当てた労作で、「アートマネジメント」について認識を新たにした。何よりも学者ではなく現場からの発言なので説得力があるのがいい。

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