Vol.1199 2023年12月23日 週刊あんばい一本勝負 No.1191

タクシーも郵便も大変だ

12月16日 近所のスーパーには宝くじ売り場が併設されていて、連日長蛇の列ができている。それをみて「自分はなんで宝くじに興味がないのだろう」と考えた。答えは決まっていて、「宝くじより出版のほうが当たる確率が高い」からだ。でも半世紀たった今も、その出版で「当たった」ことはない。出版で当たらないのに宝くじが当たるはずがない……と、いつもの結論にかえってくるのだが、宝くじの列を見ても、だから何も感じない。

12月17日 リマスター版の小津安二郎『東京物語』を観た。改めて分かったのは老夫婦の母が亡くなる年齢が68歳だったこと。「団扇」の出番がやたらと多かったこと。封切りされたのが1953年。私は4,5歳の頃だが、なんとなく時代の空気感は理解できた。それにしても団扇の出番の多さは意外だった。女性が印刷されている同じデザインの団扇が、まるでロケーションの違う場面で何度も使われていた。あれは小道具の使い回し、ってことはないだろうから、当時流行っていた団扇なのだろう。老夫婦と同じぐらいの年齢になって観た「東京物語」は一味違った。

12月18日 昨夜はモーレツな風(吹雪)で、そのすさまじい咆哮が怖かくて寝付けなかった。ちょうど読んでいた本もそれに輪をかけて怖い本だった。『死に山――世界一不気味な遭難事故の真相』(河出文庫)というノンフィクションだ。半世紀前のソビエトの若い登山チーム9名の、謎の遭難死を追ったアメリカ人のルポだ。氷点下の雪山でテントから一キロも離れた場所で裸で見つかった死体もあれば、遺体からは異常な濃度の放射能が検出されたり、舌のない死体まであった。しかし最終報告書には「未知の不可抗力によって死亡」とあるのみで、謎が謎を呼ぶ展開で衝撃の連続だ。舞台は厳冬下の雪山なので、読んでいるこちらも震え上がってしまった。そこに荒れ狂う咆哮がわが寝床を襲う。

12月19日 郵便料金の値上げは来年秋からというが、はがき63円が85円というのは値上がり幅が大きすぎる。そういえば先日、普通の封書に1万円をいれて本を申し込んできた人がいた。その本はもう絶版で、お金もろとも封書に入れて返した。それもまた法律的には問題があるのだが、勝手に(違法に)お金を普通郵便で同封してきた注文者に対して、つい怒りに駆られてやってしまった。郵送事情はどんどん悪くなる一方だ。国内に1週間もかかって届かないハガキが、常識になっていくのだろうか。

12月20日 28年のロス五輪から採用が決まった「フラッグフットボール」という競技は面白そうだ。フットボールと言っても、腰にヒモをつけてそれを取り合うタックルのないアメフトのようなものだ。ドッジボールともちょっと似ている。この「ドッジ」という英語は、あの大谷翔平の所属するドジャースという名前の由来でもある。ニューヨークのスラングのような言葉で、人ゴミや交通渋滞をヒョコヒョコ「避ける」人たちのことを指す言葉だそうだ。なるほど、それでボールを「避ける」ゲームがドッジボールなのか。

12月21日 1種間前に送った荷物が、昨日届いたという連絡を受けショック。郵便も宅配便も送れば翌日には着いた時代は遠くなるばかりだ。今日は大荒れの予報だったが、なんと朝から青空ののぞく好天気。そのため朝からバタバタ予定が入っていた。昼からはNHKの取材があり、夜は友人と忘年会。この合間に雑用を片付ける。「忙しい」という久しく忘れていた感覚が、ちょっぴり蘇ってきた。あご下にはやしてた無精ひげを今日すっきりと剃った。なんだか生まれ変ったような新鮮な気分だ。

12月22日 30代からの友人であるFさんと駅前で忘年会。川反まで出かけるのはタクシーの手配が難しいので駅前の店に変更したのだが、飛び込みで入った店がなかなか良かった。回らない、しかしそう高くはないお寿司屋さんで握っているのは女性である。威勢が良く、職人肌で、酒も魚も彼女に任せれば大丈夫、とすぐにわかったので全てお任せにした。昨日午後は、遠方からNHK取材スタッフが来舎していて、彼らは行きも帰りもタクシーで移動していた。スマホに「タクシーゴー」というアプリを入れているので、どこでも数分以内にタクシーが呼べる、という。そうか、こういう抜け道もちゃんとあったのか。
(あ)

No.1191

ハムレット
(松岡和子訳・ちくま文庫)
シェイクスピア
 恥ずかしいのだが、初めてシェイクスピアを読んだ。それも苦手な戯曲だが、登場人物さえ押さえればスラスラ読めた。そうかこんな物語だったのか。本書の舞台はデンマークだ。中身にも出てくるのだが、ノルウエイやイギリスとの複雑な微妙な関係まではよくわからない。この本が書かれたのは1601年、まずはこの事実に驚きだ。関ケ原の徳川家康の時代が始まったばかりのころだ。昔からスカンジナビアには「ハムレット伝説」のようなものが存在し、それをシェイクスピアが脚色した作品、とも言われている。まあ「日本むかし話」の系譜と言っていいかもしれない。戯曲の印象派、言葉によって世界を切り分ける「言葉のオリンピックだな」という読後感だった。語彙の豊富な人には世界が色彩豊かに美しく見えている。世界中の人が読み継いで、いまも残っている世界というのが、本書なのだ。ちなみに有名な「to be or not to be」は「生きてとどまるべきか、消えてなくなるか、それが問題だ」と訳されている。しかしこれだけの膨大なセリフを憶えて、舞台でハムレット役を務めた俳優というのはすさまじい。日本でハムレットを演じた役者を列挙すると、芥川比呂志、仲代達也、平幹二朗、山本圭、江守徹、市川染五郎、日下武、橋爪功、片岡孝夫といった面々だ。

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