Vol.1204 2024年1月27日 週刊あんばい一本勝負 No.1196

半日ドックでうなだれて

1月20日 奥歯の差し歯がとれた。舌の具合が悪くなった。歯のふちに当たるのだろう。そのうちのどの調子も悪くなってきた。口内の異変で唾を飲み込む回数が多くなったためだろうか。舌とのどの次は、自由に口を動かせない不快感からくるストレスで食欲がなくなった。口の中に異物が入ると咀嚼するのが難しい。食べ物を受け付けなくなっただけでなく、息苦しさまで感じる様になった。朝一番で歯医者に窮状を訴えると、夕方、30分ほどで「口内工事」完了。同時に何事もなかったように痛みが消えた。ひとつの歯車が狂うと、徐々に身体全体がおかしくなる年齢になってしまった。

1月21日 陽が長くなった。4時半になっても暗くならない。でもそう簡単に「雪への備え」は解除できないことは体験上わかっている。昨日は事務所の真上をいつものように白鳥の群が飛んでいた。大学病院裏の田んぼで羽を休めているのだろう。今度のぞきに行ってみようか。白鳥にとっても暖冬はうれしいに違いない。とにかく自然災害の備えだけは最優先でやっておく必要がある。雪が降らないから、逆に大雪が怖い。

1月22日 また月曜日が来てしまった。今週はなんだかいろいろと予定が入っている。恐れているのは雪だ。そろそろドカンと来そうな予感がする。雪が降ると狂ってしまう予定もある。このへんの兼ね合いが難しくなるから雪はいやなのだが、雪のない冬というのも不気味な後味の悪さがある。降るなら降って、とっとと春にその席を譲ってほしい。

1月23日 県北のある村で会った人は、「嫁が台湾人で」と会うなり教えてくれた。農村ではもうすっかり外国の花嫁が定着した。もう国籍などわからないほど過疎の村では外国の花嫁が「普通」になっている。楊逸(ヤン・イー)の『ワンちゃん』(文春)という小説を読んだ。楊は芥川賞候補になった中国人作家だ。四国の独身男たちを中国に連れて行きお見合いツアーを仕切る、たくましい中国人女性を描いたもの。物語の核心は花嫁探しをする日本人ではなく、彼女自身の来日の経緯のほうにあるところがミソの物語だ。楊にとれば外国の言葉で書いた小説なので、ちょっとぎこちない文体もあるのだが、07年に文学界の新人賞を受賞している。知らない世界を教えてくれる小説は、田舎者の世界を広げてくれる妙薬である。

1月24日 大雪の覚悟をして朝起きたのだが、雪はショボショボ。少し安心したが、明日あたりが本番なのかもしれない。せっせと雪かきしても、すぐ後からは好天が続き、自然に雪は消えてしまう。あの雪かきの労力と時間と無力感を返してくれ、と泣きたくなる。アイスバーンで転倒するのも怖い。3年前に転倒して打撲した両手首の痛みは今も残っている。

1月25日 学生の頃に古本屋で買った本を書庫で見つけた。最後のページに鉛筆で売価が書いてあり、「150、00」とあった。一瞬、1万5千円? と驚いたのだが、すぐに「銭単位」で、150円のこと、と気が付いた。古本では最近も銭単位の値付け表記をみた覚えがある。さすがに実際の「銭札」は使ったことがない(見たことはある)。硬貨の1円貨が発行されたのは昭和30年。私が6歳の頃だ。50銭以下の少額貨幣が廃止されたのは昭和28年末だ。それでも古本の値付けには「銭単位」が残っていた。そういえば手書き原稿をワープロ印字してくれる方の1字の値段は50銭だ。現在の話である。2字打ってもらえば1円なのである。身近に生きている単位だった。

1月26日 年1回の健康診断の日。食道炎の治療でタケキャブという薬を飲んでいるので、食欲が旺盛になり、体重が去年よりも3キロも増えていた。ドックを終えて無料食券をもらい食堂へ。毎年ここでラーメンを食べるのが楽しみなのだ。どこにでもある普通のラーメンで、この手の大食堂の普通ラーメンが無性に好きだ。ところがショック、器から盛りつけ、麺までがすっかりリニューアルされていた。たぶん食堂の請負業者が変ったのだろう。どこかで「食い直し」でもしようかと思ったが、ダメダメ、今日から体重を落とす「大事業」に挑まなければならなかった。
(あ)

No.1196

店長がバカすぎて
(角川春樹事務所)
早見和真
 本を出す以外の仕事をしたことがないので、出版以外の仕事の話や本を読むのが好きだ。仕事本といえば三五館シンシャの「汗と涙のドキュメント日記」シリーズが有名だ。その最新刊、『大学教授こそこそ日記』を読んだが、このシリーズは内容が薄っぺらで満足のいくものがほとんどない。大学教授はよかった方だが、これが書店員を主人公にした本書クラスの「仕事の本」になると、まるでレベルが違う。プロの小説書きでおまけに人気作家、読ませるどころか泣かせてまでくれる。「本屋ってこんなに面白い仕事なの」とその沼から抜け出せなくなるほどだ。しょせんプロ作家と素人ドキュメントを比べるのは無理があるのだ。武蔵野書房の吉祥寺本店に勤める独身の谷原京子が主人公だ。バカな店長は「本当にバカなのか、超切れ者なのか」最後まで分からない物語だ。父親は神楽坂で小料理屋を開いていて、女好き、というのも絶妙で、舞台にかかせない重要な役割を帯びている。この情景設定から「出版」をめぐるドラマがいくつも湧き出すように生まれてくる。読み終わってからも、谷原の、武蔵野書房の、父親の、その後の動向が気になったしょうがない。幸いなことに『新!店長がバカすぎて』が出ていた。さっそくそちらを読み出したところだ。

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