Vol.1222 2024年6月1日 週刊あんばい一本勝負 No.1214

週末の山歩きが待ち遠しい!

5月25日 上京するカミさんを飛行場まで送り、そのまま金山滝登山口へ。9時半から登り始めて、2時間ぴったしに前岳山頂に。登り始めてすぐ、最近、友人になったSさんとばったり。Sさんはまだ50代初めだが、太平山の歴史や文化に造詣が深く、いろいろ教えてもらっている。4番石像のあたりから道の両脇にヒメシャガがびっしり咲き誇っていた。オーパスコースはもう終わりかけていたから、こちらが遅く咲き出すのだろう。ひとりで自分のペースでブツブツ独り言を言いながら山に登るのが好きだ。

5月26日 前岳に引き続き今日は中岳へ。すぐに足腰に疲れが残っていることがわかり、中岳を断念、前岳までに変更。前岳まではゆっくり1時間10分。前岳山頂で、奥岳まで大雨後に3回も中岳から登ってきたという人と会った。中岳から2時間半で、そう難しいこともなく、踏破できたそうだ。「中岳に行くよりずっと楽だ」とまで言うではないか。下山中、20名ぐらいの団体登山者と遭遇。若い女性も多く、山でこんな大人数と巡り合うのは珍しい。

5月27日 昔からの習慣で本を読みながら、「えんぴつ」で心に残った文言に線を引く。えんぴつを使うのは古本屋に売るときに消せるからだ。でも実際に古本屋に売ったことはない。傍線部分を印字し、いつでも読めるようにパソコン上の「備忘録」にとって置く。書き写すぐらいの価値のある言葉の数々なので、辛抱強く、読むよりも時間をかけて丁寧に書き写す。でも転記したその言葉を、ふたたび読み返すことが最近はほとんどない。

5月28日 小島俊一という人の書いた『2028年街から書店が消える日』(プレジデント社)という本を読んだ。書店について知りたいと思ったからだが、なによりも扇情的な書名に心動かされてしまった。著者は大手取次トーハン出身の方で、関係識者28人からのメッセージを、架空の甥っ子との会話という形で取りまとめたもの。取材はたぶんネットで済ませたな、と推測できる内容で、目新しい情報も、驚くような提言も、斬新な切り口も、まったくない、きわめて凡庸な本で、正直なところガッカリした。トーハンOBなのに、その肝心要の日販とトーハンのキーマンから取材を拒否されているのだから、なにをかいわんや、である。「あとがき」に「本当は決算書入門の本を書きたかったが、いろんな出版社に打診して断られ、本屋に特化した内容にした」という本音を記している。

5月29日 雨予想だったので午前中に散歩。その散歩中、自転車に乗り、両手をハンドルから放して、スマホを読んでいる若者がいた。かなりのスピードで200mぐらいそのまま走り続けたのにはビックリ。数年前、同じ場所でスカートからトイレットペーパーを尾っぽのように長く垂れ流している若い女性に出会った時と同じような衝撃だ。毎週のように前岳・中岳に登っているが、山で出会う人のほとんどは「常連さん」で、ストックで登っている人が皆無なのに気がついた。もうベテランのような顔をして彼ら常連さんとあいさつを交わすのだが、相手には「初心者だな」とストックでバレていたわけだ。

5月30日 『2028年街から書店が消える日』の読後感について、もう一言だけ。いま書店で起きている現状を経営分析し、ビジネスモデルとして破綻していること、再生には書店正味を30パーセントにするしか生き残る道はないこと、を著者は繰り返し書いている。いわば常識の範疇のことなので、こんな大げさな書名で訴える必要はない。この本に決定的に欠けているのは、「人はなぜ本を読まなくなったのか?」「街から本屋がなくなっても誰も困らないのはなぜ?」「現代にとって本の持つ意味は?」といった根本的な「哲学」がないことだ。タイトルに踊らされて手に取ったこちらも悪いが、まさかこの書名で「ノウハウ本」とは思いもしなかった、という弁解をさせてほしかった次第。

5月31日 ビンの蓋が、ある日突然、開けられなくなった。ランチに食べるヨーグルトに入れるママレードの蓋だ。明らかに握力が落ちている。当たり前の生活が老化とともにかなわなくなる。いよいよそんなときが来たのか。ということで、急きょハンドクリップを購入した。あの少年時代によくやってやつだ。5段階ぐらいに負荷のメモリがあり、まずは一番楽な負荷からシャカシャカ、ニギニギ。普段からストレッチや筋トレを「軽く」やっている。それでも山歩きでは充分な効力がある。だからニギニギも「間違いなく効果がある」と確信できる。問題は長くやり続けることができるか否かだけだ。 
(あ)

No.1214

キッチン
(新潮文庫)
吉本ばなな
 80年代後半、バブルの真っ盛りに登場したこの本は、瞬く間にバストセラーになった。勝手に本の内容を「バブル」と重ねて、読む気が起きなかった。30年ぶりに偏見なしに読んでみたのはブックオフで100円均一で売っていたからだ。読んで、著者の新鮮な感性に驚き、今も国境を越えて読み継がれている理由がわかった。バブルで浮かれる世間の中で、感受性の強さからくる苦悩と孤独に苦しむ人々の内面を、鮮やかに描き出し物語だ。著者はそのあとがきで「自殺しようとする人が、たとえ数時間でも、踏みとどまってくれるかもしれない。様々に微妙な感じ方で、この世の美しさをただただ書き留めていきたい」と書いている。友人の母が実は父だったこと。恋人の弟がある日突然亡くなったガールフレンドのセーラー服を着て通学し始める……「どちらがいいかなんて、人は選べない。その人はその人を生きるようにできている。幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ」と著者は言う。そのため甘えをなくし、傲慢さを自覚して、冷静さを身につけたほうがいい。多少の工夫で人は自分の思うように生きることができるに違いない。もっと早く読んでおけばよかったな、と思うと同時に、仕事が最も忙しかったあの時代にこの本を読んでいても、感動していたかは疑問だ。

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