Vol.1256 2025年1月25日 週刊あんばい一本勝負 No.1248

かかりつけ医がいなくなってしまった

1月18日 薬をもらいに近所のかかりつけ医のもとを訪ねると、「2月いっぱいで廃院になります」と告げられた。ピンチヒッターの見知らぬ先生が対応してくれ、他病院への紹介状を書いてくれたが、あまりに唐突であてはない。かかりつけ医が自分より早く現場から「退場」というのは患者にとっては想定外だ。病院を出ると目の前のお店も閉まっていた。もともとタピオカの店で、流行が去るとソフトクリーム屋さんになっていた。やはり真冬にアイスは無理だったのか。こうして街の風景は少しずつ変わっていく。

1月19日 A4判変型横組みの、写真集が届いた。『英伸三、中国江南を撮る 老街茶館』だ。英さんは農村問題を中心に日本社会の姿を追い続けた社会派の写真家だ。写真集の内容がすごすぎる。1992年から、中国の上海と江南一帯の、明、清時代の面影を残す運河沿いの古鎮を訪ね、近代化政策によって姿を変える町のたたずまいと暮らしぶりを、丁寧に深く愛情をこめて記録したものだ。同封の手紙に「早いもので私は88歳になりましたが、まだ現役で写真の仕事を続けます」と英さんのメッセージが書かれていた。本の最重要課題は「記録」だ。それを象徴するような写真集だ。

1月20日 インバウンドの取材でテレビが訪日外国人にインタビューをしていたら、5人の外国人のうち2人が「イスラエル人」だった。いやいや戦争中でしょ、と突っ込みたくなったが、実はイスラエルの人々は大の日本人好き、という事実はあまり知られていない。世界の文明国で「ユダヤ人差別」をしない唯一の国が日本、と小さなころから彼らは教えられているからだ。イスラエルには徴兵制度がある。男3年、女は2年で18歳からだ。この兵役が終わると、多くの若者は競うように海外に「青春の旅」に出る。この徴兵制度がすごい。3年の兵役を終えても45歳までは毎年、1か月間だけ元の所属していた連隊に戻り、訓練を義務づけられている。さすが周りをすべて「敵」に囲まれている国だ。60年代に世界中の若者を魅了した(私もその一人)集団農場キブツは、いまはエイズの温床になり、存続がやっとの状態だそうだ。

1月21日 ヘアードライヤーより小さい「卓上掃除機」を買った。机回りの小さなゴミが気になっても、わざわざ下の階の大きな掃除機を持ち込みのは面倒だ。パソコンのUSBで使える3000円ほどの、文房具だが、これが便利で重宝している。去年の最高の買い物のひとつといっていいかもしれない。目につくゴミ類は片っ端から吸い込んでくれるので、敵を木っ端みじんにやっつけるような爽快感がある。久しぶりに値段以上の買い物をした。卓上掃除機、いいよ。

1月22日 ここ数年、見る夢のパターンは決まっている。「旅に出て、家に戻れなくなる」というものだ。早く家に戻りたいのだが電話が通じない。いや通信手段が思いつかず右往左往する。電話ができないのはケータイを持っていないからだ。脱出の方法をいろいろ考えるのだが、最終的には連絡手段を思いつかないまま、深く落ち込んでしまう……というパターンだ。夢の中では「やっぱりスマホを買おう」などと反省もするのだが、目が覚めると、ま、このままで十分。ガラケーですら月一、二回しか使わないのにスマホを持っても持て余すのは目に見えている。

1月23日 中学生のころ干拓中の八郎潟を自分の目で見た記憶がある。湯沢市生まれなので、八郎潟を見るには秋田市を超えて県北部に足を踏み入れる必要がある。県北部に行ったことがないのに、なぜ八郎潟干拓の風景が記憶にはっきり刻まれているのか、不思議だった。つい最近、理由が分かって腑に落ちた。中学2年の時、修学旅行があり北海道だった。昭和38年(1963)のことだ。北海道に行くには青森まで列車で移動する必要がある。干拓風景を見たのはこの時だった。八郎潟駅を通過する前、教師が生徒全員に、「左の窓から八郎潟が干拓されている現場が見える」という指示があったのだ。汽車の窓から体を乗り出して、遠くに見える干拓風景を眺めた。この中学2年の年、「鉄腕アトム」のテレビ放映があり、横綱大鵬が6場所連続優勝、ケネディ大統領が暗殺された。

1月24日 自分でもよく理由がわからないのだが、「バブル」に関係した本にはすぐに飛びついてしまう悪癖がある。1990年前後、日本にはバブルという不思議な狂乱の時代があった。札束が乱れ飛び、日本人の心をいっとき狂わせてしまった、わずか数年のお祭り騒ぎだ。秋田に住む私には縁のないお祭りだったが、それが逆に、バブルに興味惹かれる原因なのかもしれない。ヒキタクニオ著『バブル・バブル・バブル』(文春文庫)は、イラストレーター、マルチメディア・クリエーターとして、この時代の最前線を生きた人物の自伝的青春小説だ。アート表現者の世界にも、バブルは麻薬のような影響を与えていたのを初めこの本で知ることができた。
(あ)

No.1248

ほったらかし快老術
(朝日新書)
折茂肇
 サブタイトルは「90歳現役医師が実践する」とあるが、いまや巨大マーケットになった高齢者向け健康ノウハウ本である。「医学博士」の肩書を持つ鎌田實、和田秀樹、長尾和宏といった面々の本が、毎月のように版を重ね、新聞やメディアの広告欄をにぎわせている。「病気の9割は歩くだけで治る!」などという書名の本が「医学博士」が書いたというだけで売れてしまう。当方も今年はれて75歳になった。高齢者というのは何となく、65歳ぐらいと思っていたのだが、本書によれば100年前、ドイツ帝国のビスマルクが「年金を払う年齢」として決めた数字なのだそうだ。宰相にすれば「この年になれば死んでいるだろう」と踏んで決めた年齢である。国連の推計データなのだそうだが、「2007年に日本で生まれた子どもの半数は107歳以上生きることが予想される」というのもあった。75歳を過ぎたら、病気があるかないかよりも、人間らしい生活ができるかどうか、のほうが重要だ、と著者は言う。機能が衰えたとしても、自立した生活者として必要な「歩く、食べる、聞く、見る、話す」などが侵されないように予防するのが大切なのだそうだ。75歳から最も大切なのは「骨」で、骨の老化が全身の老化のバロメーターと考えて間違いはない、と著者は言う。そうか骨か。これなら少し自信はある。

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