Vol.1264 2025年3月22日 | ![]() |
オウム事件から30年か…… | |
3月15日 散歩の途中、よく立ち寄ったファミマの喫茶スペースが、消えていた。その一方で、駅前にある大型テナントビルの6階7階は、ほとんど人のいない田舎の公園状態。コンビニの喫茶スペースは削られるのに、駅前一等地ビルはガラガラ、なんだか好対照の2つの場所に日本の未来が見えてくるようだ。
3月16日 寒い。また冬に戻ってしまった。体の芯に食い込んでくる寒さだ。夜中に毛布を一枚追加して、ようやく寝つくことができた。寒さに敏感になったのは年を取ったからだ。どうのこうの言っても最後の砦は「健康」だ。散歩にかならず「手袋」を携帯するようになった。首と指先が温かければ寒さはかなり低減する。 3月17日 毎週一度、近所のスーパーに買い出しに行く。使う金額が、この1,2年で2倍になった。コロナ禍前、ということは4,5年前、まだデフレのぬるま湯につかっていたころ、大手企業を定年退職し3千万円の退職金をもらった人は、これで老後は安心、とほくそ笑んだはずだ。でも甘かった。わずかこの数年で、その価値は半減してしまった。彼らが一番、このインフレで落ち込んでいるのかもしれない。昭和や平成の時代にコツコツお金をためてきた人も衝撃に違いない。貯金の金額が実質半分に目減りしてしまったのだから。「安泰の世」などというものはない。そのことを心して生きていかなければならない世界に入ったのだ。 3月18日 TVで「ホビーオフ」という単語を連呼していたが、なんのこと? カ「ム」フラージュという言葉も印刷物で出くわして面食らった。カ「モ」フラージュでなくても間違いじゃなかったんだ。鮭は川で獲ると捕獲量で、海で獲ると漁獲量になる、というのも初めて知ったこと。山によくある大山「祇」神社は「つみ」と読む。大「神」神社は「みわ」だ。ややこしい。大山祇神社は山岳の神様なので、山に入るといたるところで見かける分社だ。読めないと恥ずかしい。保身神社というのもあって、これは「うけもち」と読む地域もあるという。でもこちらはまだ調べていないので確証はない。なにせ最近まで地平線と水平線を区別なく同じ意味でつかっていた。もうどうしようもない。 3月19日 メジャー、大谷フィーバーは関心がない。天邪鬼なのだ。だからTV中継は無視、アマゾン・プライムでデンマーク映画「わたしの叔父さん」を見た。27歳の女性が、足の不自由な叔父と酪農を営みながら暮らす日々を描いた映画だ。北欧特有の雄大な自然と彩度の低い映像が、静謐さをたたえて胸にしみ込んでくる。物語は日常の繰り返しだが、獣医になるために学んだ過去や、教会の合唱隊マイクとの淡い恋が、そのなかに紛れ込んで、さざ波を立てる。こういう映画が好きだ。この叔父と姪は役者なのだが、現実でも本当の「叔父と姪」なのだそうだ。大都会コペンハーゲンに旅行に行く「事件」の高揚感も、田舎者にはよくわかる感覚だ。 3月20日 20年ほど前、フリーランスのライターとして仕事をしてくれたHさんが亡くなった。69歳。彼女は盛岡を拠点に、東北各地の食文化や温泉などの原稿を書いていたのだが、もともとは東京出身だ。父親は超有名な音楽家だったが、その父から離れ(たぶんいろんな確執があったのだろう)、東京から移り住んだ東北の地で、一人自由気ままに生きてきた(ように思っていた)。父の死をきっかけに東京に戻ったのだが、共通の友人である編集者から、その孤独な死の報を昨日聞いた。彼は、彼女の父親の音楽全集を刊行した編集者だ。彼女は父親の家で人知れず息をひきとったのだそうだ。今日が葬儀の日だ。喪主はいない。遠く東北の地から、彼女の冥福を祈るしかない。 3月21日 オウム真理教の地下鉄サリン事件から30年。あの3月20日、私の家族は事件の真っただ中の東京・赤坂のホテルに投宿中だった。小学生の息子が春休みでサンパウロの友人宅にホームスティすることになり、その見送りのため東京のホテルに泊まっていた。朝早く、仕事のため秋田に帰る妻をホテルで見送り、数分後、妻から「なにか大きな事件が起きて東京中が大騒ぎだ」という電話が入った。テレビをつけてみると、救急車が走り回る都内の風景が映し出され、そのサイレンの音と、現実に窓から聞こえてくるサイレンの音がハーモニーを奏でている現実に気が付いた。ホテルのすぐ下で起きている事件だったのだ。一挙に恐怖が全身に張り付き、心臓が高鳴った。ホテルを出て、すぐそばにある地下鉄入口まで出かけたのだが、禁止テープが張られ何人かの警官が入口をガードしていた。しかし何かが起きたのは間違いないが真相はわからない。妻は羽田から秋田に帰り、息子は無事ブラジルに発った。興奮を抱えたまま、あわただしく秋田に帰ってきて、初めて事件のことを知ることになった。 (あ)
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