Vol.1265 2025年3月29日 | ![]() |
手紙が消える世界がくる? | |
3月22日 友人とランチの約束をしていたのだが、朝早く電話があり「土曜は夜のみの営業」とのこと。しょうがない、夜に行くことにした。お店は花輪ホルモンの店だ。もう20年近く前、「花輪ホルモンって、うまいねえ」と夫婦で私を誘ってくれたのは当時の秋田美術短大学長の石川好さんだった。紹介してくれた石川さんは去年、77歳で逝った。その追悼文を書こうと思って、あのホルモン屋さんを思い出したのだ。石川さんを偲んでノンアルで食べてくるつもりだ。
3月23日 同年代の知り合いの訃報が相次いでいる。その知り合いの死を反芻してみると、ある程度、名を成した人の死と、無名のままの死では、同じ知り合いでもかなり悲しみに温度差がある、ことに気が付いた。無名の友人の死は、無念さや衝撃が大きく、不意打ちを食らったようなダメージすらある。なぜこうも他者の死に差が出るのか。自分でも不思議なのだが、そうなのだからしょうがない。有名な人の死はすぐ忘れるが、無名の友人たちの死はずっと、私の裡で尾を引いている。 3月24日 毎年この時期になるとプロ野球の開幕が待ち遠しい。でも今年はちょっと事情が違ってきた。冬期間メジャーリーグの情報やオープン戦を見せられ、日本のプロ野球が、退屈でつまらないゲームに感じてしまったからだ。まずは何よりもピッチクロック(投球時間)や無駄なけん制球禁止など、早急にメジャーの仕組みを導入すべき時なのだろう。スピーディな試合展開を心掛けなければ、もう野球は見向きもされないスポーツになる日が近い。 3月25日 デンマークの国際郵便サービス「ポストノイド」がこの25年いっぱいで郵便(手紙)配達を終了することになった、というニュースは衝撃だ。400年間も続いた「人間の営み」に終止符が打たれたわけで、デンマーク人ならずとも予想していなかったことで驚いた。デンマークでは21世紀に入って、手紙量は90パーセントも減少したそうで、これはまあ日本も似たようなものだろう。個人的には神戸にもう20年近くペンフレンドがいて、毎週のように手紙のやり取りしている。さらに最近、宅配会社から本などの発送を、すべて郵便局に乗り換えたばかり。手紙がなくなる時代を生きていくとは、不覚にも想像しなかった。まいったなあ。 3月26日 昔は「グルジア」という国名だったが、今はジョージアになった。黒海の東、トルコの右肩あたりにある国だ。知らない国のことを知るには映画が一番、というのが持論なので、ジョージア映画『金の糸』を見た。ソ連邦崩壊後の、引き裂かれた老姉妹の、心のひだと孤独を淡々と描いた秀作だ。金の糸というのは日本の陶器修復技術である「金継ぎ」のこと。日本に対して思い入れの強いジョージア人女流監督の作品なのだ。姉妹が政治家と文学者という設定も興味そそられる。ジョージアといっても日本人が思い起こすのは大相撲の「栃ノ心」がせいぜいだ。映画を見終わって彼の姿を思い浮かべてみると、なるほど確かに彼はジョージア人そのものだ。 3月27日 旧統一教会に解散命令が出た。この新興宗教がいきなり世の中に登場したころ、10代の少年だった。中学3年から高校時代にかけ、彼らは執拗に、かつ堂々と、わたしたちの通う学校の校門前で勧誘活動をつづけていた。同級生のS君がまもなく彼らの餌食になり、ある日突然、S君は「折伏する側」としてわれわれの前に登場した。S君は今どうしているのだろうか。さらに秋田市には、教会最大の広告塔といわれたアイドル歌手・桜田淳子の存在があった。統一教会という新興宗教は、ずっと身近なところにあり続けた反面教師だったのだ。「こんな宗教に引っかかるような大人にならないように、ちゃんと勉強しよう」と子供心にも思ったものだ。その思いは今も変わらない。 3月28日 日本各地で起きている森林火災は、気候温暖化のせいにすれば、それ以上は考えなくて済む問題だ。でも個人的にはまったく承服できない。山登りをするので現実的な問題として理解できるのだが、この10年、シカの食害はすさまじい。絶滅危惧種だった秋田にさえシカは跋扈していて、彼らは森林の下草や低木、若木を、ことごとく食べつくす。そのせいで森の昆虫の数も激減し、森全体の乾燥化が進んだ。今の山林火災には、この森林乾燥化が大きな影響を与えているのではないのだろうか。このシカの食害=森林乾燥説は、生物学者である池田清彦氏が昔からよく唱えていた説だ。「水をたっぷり蓄えた森」が、あんなにも簡単に燃えてしまうのは「山が燃えやすくなっている環境」だからでは、と考える視点も必要ではないだろうか。 (あ)
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