Vol.138 03年4月26日 週刊あんばい一本勝負 No.135


東京レポート第一弾

 引越しやそれにともなう移転事務手続きはほぼ終え、「仕事」のために本格的な東京生活が始まりました。そのレポート第一弾になります。1日中救急車が走り回ってサイレンのうるささには閉口していますが、まずは無難なスタートをきったと言うところでしょうか。息子と同居しているため、朝夜の食事は私が作ります。買い物、掃除、銀行の振込み、ごみ捨てなど秋田より主婦的な仕事がやたらと多く、主婦業のかたわら取材を受け、仕事のチェック、友人や著者の接客などをこなしています。

事務所から見える町並み
 1日がとにかく飛ぶように過ぎていき、美術館や舞台を見に行ったりする余裕はまったくありません。それでも秋田と同じように、7時前に起き、おさんどん後は音楽を聞きながら机に向かってもくもくと仕事をする、といういつもの生活のリズムがようやくできてきたようです。けっこう自分が主婦業に向いているタイプであることを再認識している日々です。それにしても秋田とまったく同じ仕事や住環境を整えるための下準備がこんなにも大変とは。秋田での暮らしのリズムは何十年もかけて作ったものなのに、それをわずか数週間で再現しようとしているのですから無理からぬことかもしれませんね。電話や来客、訪問者、雑用の多さも秋田の比ではありません。まあ、ぼちぼちとやっていくしかないようです。こちらでも選挙カーの連呼のうるささだけはまったく同じです。
(あ)

クジラ初体験

 生まれて初めてクジラを見てきました。宮城県牡鹿町にある鮎川漁港でのことです。無明舎出版のホームページに連載している『東北「珍味」食いつくし紀行』の取材で牡鹿町を訪れたとき、クジラ肉加工を専門にしている人から耳寄りな話を聞きました。「4月10日からこの港では初めての調査捕鯨があるよ。割り当てはミンククジラ50頭。いま金華山沖には相当数のミンクがいるので捕れるんじゃないかな。来てみたら」とのこと。どうしてもクジラの写真が欲しかったため、出張先の山形から足を延ばして太平洋に突き出した牡鹿半島の突端まで車を走らせました。あいにくの小雨模様でしたが、ちょうど私が鮎川漁港に着いたとき、一頭のミンククジラを積んで捕鯨船が港に戻ってきました。体長は7、8メートル。ミンクとしては平均サイズだそうで、クレーンで大型トレーラに積みかえられて、胃の内容物調査などのため捕鯨会社の解体工場に運ばれて行きました。初めて目の前で見たクジラの存在感はやはり大変なもので、もう死んでいるのに大型の魚とも牛馬などの動物とも違う、独特の威厳のようなものをあたりに放っていました。
 この日はまた、調査を終えたクジラ肉を「クジラの食文化が伝わる地域」として、希望する牡鹿町民に市価の半分ほどで販売する日でもありました。漁協前にずらりと並んだ町民たちが、次つぎとクジラ肉を手にして家路に着く後ろ姿を見ていると、ここの人たちの 身体の何割かはクジラでつくられたのではないだろうか、と思えてしょうがありません。港の周囲はクジラを見物する人、解体する人、今夜の食卓を楽しみにする人などの興奮が渦を巻いているようでした。私も知り合った店で刺身用のミンククジラ肉を入手し、興奮覚めやらぬ気分のまま秋田に向かいました。
(鐙)

クレーンで吊り上げられるミンククジラ

漁協の前に並ぶクジラ肉を求める人びと

「CD−ROM版秋田のことば」の刊行が6月末になりました。

 先日、「CD−ROM版 秋田のことば」の完成予定日を5月とお知らせしましたが、その後、さまざまな事情で6月末に延期になりました。主な理由の一つは動作チェックに時間がかかること。秋田弁を使いこなす人、全く話せない人、パソコンを使い慣れている人、初めて触れる人…。様々な人たちがこのCD‐ROMを使用するのですから、どんな状況でも正しく動いてもらわなければ困ります。そのためには、このCD−ROMのことを全く知らない人にも試してもらって、分かりにくいところや使いづらいところを改訂していかなければなりません。そんな訳ですので、CD−ROMの完成を心待ちにしている方々には申し訳ありませんが、あと少しお待ちください。
(富)

今週の花

 今週の花は4種類。紫のリューココリネはチリ原産の花。細い茎の先に直径5〜6センチの花を数輪つけています。茎に葉っぱがついていないため小さい花なのに存在感があります。ショコラカーネーションは可愛くて控えめなサーモンピンク。よく見るとうっすらと桃色のライスフラワーは、2〜3ミリの花がたくさん集まってできています。名前の由来は見た目通り、お米を集めたように見えるから。中心が赤紫の白いイキシャ。パッと見はリューココリネに似ているので、同種かな?と思いますが、イキシャはアヤメ科でリューココリネはユリ科。「イキシャ」という不思議な名前は、「有名な植物」という意味のギリシャ語に由来するそうです。「なぜ有名なのか?」そこまでは分かりませんでした。次にこの花が来るまでの宿題にします。
(富)

No.135

滑稽な巨人(平凡社)
津野海太郎

 久々に読みながらページ数のすくなるのが惜しい評伝を読んだ。まったく関心の埒外だった人物のなのだが、読み終えるころには、すっかり同時代人に対するシンパシーのようなものを坪内逍遥という人に感じてしまう。それにしても評伝にこういった方法があったのか、と目から鱗が落ちた。人物の失敗談を主に羅列しながら、逆に肯定的にその人物の輪郭をくっきりと描き出す、この手の込んだ手法に著者のしたたかな力量を見る思いだ。坪内逍遥は教科書で「小説神髄」や「当世書生気質」の著者であり、近代文学の巨人として福沢諭吉や森鴎外クラスと肩を並べる人物として、私たちにインプットされている。それなのに、この「滑稽さ」「軽さ」には驚くと同時に、そのエピソードのひとつひとつがスリリングでミステリーを読み解く興奮も味わえる。近代日本を代表する知的世界の大立者の一人が、演技過剰の気質がゆえに100年以上の時を経てもなお同時代人としてのシンパシーを感じさせる皮肉も面白い。この本は何かの賞をとるかもしれませんね。

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