Vol.164 03年10月25日 週刊あんばい一本勝負 No.160


なぜか多い仙台方面の新刊

 今回の東京滞在中(17日〜24日)はずっとゲラや原稿を読んでいました。電話も来客もなかったので集中力が必要な仕事には最高の環境でした。3本目のゲラを読んでるときに突然気がついたのですが、東京に持ってきた5本のゲラや原稿のうち4本は仙台およびその周辺にお住まいの著者なのです。ちなみにもう1本は熊本県の医師でした。ある本を出すとその傾向の本がつづくというのは昔からよくありましたが4本というのはちょっとびっくりです。もう刊行まじかなものばかりなので公表してみます。
*仙台都市生活研究会編『写真帖 仙台の記憶――100万都市の原風景』
* 河北新報社報道局編『滅びゆく松林――東北・松くい虫被害最前線』
* ふじみとむ。著『玉川温泉ガン闘病日記』
* これはゲラでなく原稿ですが仙台在住の民俗研究家・結城登美雄さんがこの10年間余、新聞や雑誌に書かれた膨大な原稿・対談類…
といった案配です。この中でも特にふじみとむ。さん(モー娘。と同じで「。」が付きます)のゲラは、余命3ヶ月といわれる最中で書き綴った壮絶だけれどもユーモラスな、逆に読者に勇気を与える稀有なリアルタイム闘病記録です。ゲラを読みながら泣いたり笑ったり、編集者生活ではじめて味わう不思議な体験をさせてもらった原稿です。ふじみとむ。さんはまだ三十代の若い男性で、12月には出せるよう最優先、全力投球中です。
 そんな具合でへとへとになって秋田に帰ってきたのですが、印刷所や著者から新たな校正ゲラや原稿が7点! ドォ〜ンとわが机上に積まれていました。これらも刊行が決まっているので実名報道すると、*青木健作著『刈穂という酒蔵の一年』 *無明舎出版編『歌枕とうほく紀行』 *藤原優太郎『東北の峠歩き』 *中嶋敬治『写真集 岩手開発鉄道』 *これは新しい原稿で小野一二著『大河兼任の時代』 *『秋田音頭の本』のための参考資料 *『南陀楼綾繁な日々』(仮題)の単行本用プリントアウト……などです。舎員はそれぞれ上記単行本とは関係のない仕事を抱えていますので、ほぼこれ全部、私の仕事なのです。大丈夫でしょうか私。
(あ)

秘密にしておきたい本屋

 先日、取材で秋田県内のとある市に行ってきました。町の中心部で昼食を食べた後、かつて書店営業で何度かお邪魔したことがあった本屋さんに顔を出してみました。しかし店内には新刊本がなく、まるで古本屋さんのような雰囲気です。久し振りにお会いしたおばあちゃんに「どうしたの、もう店を閉めるの」と聞いたらやはり廃業を考えているようです。売れ残った本の中に掘り出し物の本がないか書棚を見ると、「なんだこれは」と言いたくなるほど歴史や街道、旅、民俗の本などが並んでいますし、珍しい全集も目に付きます。しかも棚に貼られた紙には「書籍は全て半額」と書いているではありませんか。ほかには1人も客がいないのに私はなぜか慌ててしまい、大急ぎで棚から欲しい本を抜き出し始めました。両手に抱えるほどの本をカウンターに置くと、おばあちゃんは「えー、こんなに買ってくれるの」と喜んでいます。
 落ち着いてからよく見ると平成になってからの本はほとんどなく、大半が昭和の時代に出された本です。30年以上前の本も結構目に付き、それらは当然定価が低く、さらに半額になるわけですから、こんなうれしいことはめったにありません。おばあちゃんの話しでは、注文されたのにお客が転勤して受け取りに来なかったり、歴史や街道好きの客が多かったりしたためこんな棚揃えになったそうです。私はこの本屋は欲しい本を買い切るまで誰にも教えないぞ、と決めました。ですからここでは本屋の名前を書きません。
(鐙)

今では入手困難な『バス時刻までの海』などもあった。

ISO14001認証取得しました!

 9月17日にステージ2審査を終え、審査会社からの連絡を待つだけとなっていましたが、やっと認証取得することが出来ました。審査会社・ペリージョンソンレジストラー株式会社は、本社がアメリカなので登録証の発行手続きに少し時間がかかるため、今はまだ登録証のサンプルしかありませんが、10月中には正式な登録証が届く予定です。
 1月の末に研修を受け、2月から構築スタートしてから9ヶ月、最初は「こんな小さな会社で本当に取得できるのだろうか」と不安で一杯でしたが、さまざまな壁に突き当たりながらも舎員一丸となって前に進んできた結果、こうして取得することができました。省エネ・省資源活動から始めた環境マネジメントシステムですが、新たな取り組みとして、今後は出版社本来の業務である情報発信、本の制作、販売などに密接に結びついた活動を計画しています。無明舎らしい味のある「環境マネジメントシステム」にできるよう、これからもいろいろなことにチャレンジしていきたいと思います。
(島)

登録証のサンプル

No.160

打ちのめされるような すごい小説(飛鳥新社)
富岡幸一郎

 古典と呼ばれる本を本当に読んでいないのだが、50歳をこえてから古典をちゃんと読んでみたい、という気持ちが強くなった。ヘミングウェイやサマセット・モーム、谷崎や三島といった中高校生時代から名前を知っているの、食わず嫌いで読まなかった作家に、少しずつだがアプロ―チをはじめているのである。今まで手を出さなかった理由のひとつに、本を題名で選ぶ私の悪い癖がある。題名を気に入らないと、まず読まないのだ。なんとなく題名で中身を想像して、やめてしまうのである。これは映画も同じ。この癖で傑作をどれほど見逃してきたことか。そんな私にとって、本書は新鮮で感動的だった。文学にガイドなんて、といわれる向きもあるだろうが実にユニークな試みだと、私は思う。昭和初期から戦前、今日にいたるまでの50篇の長編を選び、その精髄を急所の文章を引用しながら(それもルビ、注釈つきで)、かつどれだけすごいかの文学史的コメントまでサービスしてガイダンスしてくれるのだから、新人入門読者にはありがたい。本書自体がリッパな作品になっている、といっても過言ではない。50篇のうち、私の読んだことのある本が片手に余る、というのがなんともなさけないが。

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