Vol.169 03年11月29日 週刊あんばい一本勝負 No.165


都会の空気清浄器

 2日続けて南青山にあるセントラルフィットネスクラブに通い、秋田でいつもやっているようにエアロビでたっぷり汗を流してきた。東京に来てもいつも余所者意識が抜けず、この都会を不審と皮肉な目でみるクセがなかなか抜けなかった。それがエアロビで汗を流してから都市の景色が違って見えるようになった。これはどうしてだろうか。トピックスに「どすこいエアロビ&東京日記」を書いているのは、非日常の自分の世界を記録するためだが、いつかはこの2つが合体する(東京で日常的にエアロビができる)日が来るのを夢見ていた。そのためには1年近い月日が必要だったわけだが、エアロビは秋田の暮らしの中で「宗教」や身体の「空気清浄器」のような役目を果たす重要なものである。東京でもそれができたことで、この都会で生活している実感というか覚悟のようなものが芽生えてきたのかもしれない。エアロビ(空気清浄器)さまさまといったところである。これからは身近に感じられるようになった都会をもっと気楽に楽しみたいのだが、そう何もかも人生はうまくいくはずもない。秋田で稼いで東京で遊ぶ、というスタンスは通用しないのは自明のことなので、経済的に自立して東京と秋田の比重を同じところまで持っていくのがさしあたっての目標である。言わずもがなのことだが道は遠く険しい。
(あ)
これが南青山にあるセントラルフィットネスクラブ入口と横にあるガラスのプラダビル

このところ魚づいています

  最近、毎週のように魚に関する仕事をしています。まず手始めに秋田県田沢湖町にある小先達川に造った魚道に行ってきました。イワナやヤマメを放流してそれが1週間かけてどの程度魚道を遡るのか、という調査を取材してもらえないかという依頼があったためです。翌週は秋田市のお隣、河辺町の五郎谷地沼で行なったブラックバス退治の取材です。これは無明舎の著者でもある、お魚博士の杉山秀樹さんからの依頼でした。近いうちブラックバスの違法放流をテーマにした本をつくる企画があるための予備取材です。計画は縦横とも100メートルほどのため池を干してあらゆる魚を捕獲し、その中からブラックバスだけを駆除しようというものでしたが、捕獲できた魚は意外に少なく1000匹もいないようでした。ブラックバスのほかコイやフナ、小型のなまずのようなギバチなどが捕れましたが、大半はブラックバスが占めていました。これはブラックバスが他の魚を大量に捕食したため、ため池を占有化し始めていることを現しているようです。そして今日(28日)は秋田県の北部にある森吉町の小又川で行なった魚の引越し取材でした。この川で行なわれている森吉山ダムの工事で川の流れを変えたため、魚を安全な場所に移動しようというものです。ほとんど水がなくなった川底に、20人ほどの人たちが網を持って入り、イワナやヤマメ、カジカなどの魚を捕獲して、その魚の生息に適した所に放流するものでした。
 これらは以前だったらまず行なわれなかったであろう作業です。魚道は造ったら造りっぱなし、またブラックバスはもともと日本にいませんでしたし、生態系を守るため池を干し、他の魚を駆逐するなど考えられませんでした。そして川の流れを変えたからといって、そこに住む魚を引越しさせるという発想もなかったと思います。大きな工事や釣りブームの中では小さな動きでしょうが、こういうことの積み重ねが人と自然との付き合い方を変えて行く、重要なきっかけになるはずです。
(鐙)

自然石を配置した大型の魚道での調査風景

泥の中に腰までつかり網を引く漁協の組合員

秋田空港だまし絵階段

 毎月1回以上は飛行機に乗るので秋田空港は身近な存在だが、行く度に奇妙な気持ちにさせられるのは階段である。受付カウンターや到着ロビーのある1階から出発ロビーのある2階へと上る階段の上り口に3段分に絵が描いてある。広告である。この商魂はほめてもいいが視覚的にいうと、これが上り口を塞いでいる立ち入り禁止の工事看板にしか見えないのである。よくよく観察すると、横にエスカレーターがあり、ほとんどの人が階段を使わずエスカレーターを使っている。かなり手前から階段は看板でふさがっていると多くの人が思っているのである。
 空港にとってはどちらを使おうと損得はないのかもしれないが、2階から堂々と人間が降りてくるのをみて、「あれっ、あれは看板ではなく階段に描かれた絵なんだ」と気が付く。あるいはエスカレーターに乗ってから、その事実を知り横目で笑っている利用客が多いのである。この現実を空港はしっているのだろうか。ま、とやかくいう問題ではないけど。でも、ここに来るたびにひっかかるんだよなあ
(あ)

これがその騙し絵階段

驚きの一里塚

 今回は、取材中に湯沢市で見つけた一里塚を紹介します。場所は湯沢市愛宕町の旧国道13号沿いです。一里塚は江戸日本橋から約4kmごとに街道の両側に植えた木のことで、旅人の目印になりました。この木は羽州街道沿いにある樹齢約400年のケヤキ。巨木というだけならそんなにビックリしませんが、何より驚いたのは塚全体に張った根です。何がきっかけでこんなふうに成長してしまったのでしょうか。地元では「つきのきさん」と呼ばれ親しまれているそうです。私が見たのは秋の終り頃。葉っぱもすべて落ちてしまって、寂しそうでした。緑の葉っぱが生い茂って生き生きしているところを見るため、来年の春以降にもう一度訪れてみたい一里塚です。
(富)

No.165

妹とバスに乗って(早川書房)
レイチェル・サイモン

 成功だけを夢見て仕事に没頭する、小さな頃から優等生だった姉(39歳・著者)と、軽い知的障害を持ち、生活保護を受け、一人暮らしをしながら毎日大好きなバスにばっかり乗っている妹(38歳)が、ひょんなことから1年間、一緒にバスに乗ることになった。このシチュエーションにまずはびっくり。そしてこれがフィクションではなくノンフィクションであることにまたびっくり。中身は掛け値なしにおもしろいから、ハリウッドの映画制作のためにかかれた小説といわれると鵜呑みにしてしまいそうだ。沢木耕太郎の『無名』がかぎりなく私小説に近いセルフドキュメントだったのも驚かされたが、主人公と著者の距離感は、両著とも同じ質感と関係の濃密さをもって読者に迫ってくる。どうやら時代はあまりに受け手の情報量が豊かになり、なまじっかのノンフィクションでは、情報を一瞬にネットが集めてしまえる読者と太刀打ちできなくなっているのかもしれない。だから自分しか肉薄できない身近な素材が新鮮なテーマになりうるのだ。ノンフィクションが一昔前にくらべて面白くなくなり、商業的なニーズも少ない理由は、あんがいこのへんにありそうだ。

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