Vol.192 04年5月8日 週刊あんばい一本勝負 No.188


池田拓の物語がNHKアーカイブスで

 5月23日(日)深夜23時10分からNHK総合テレビで『NHKアーカイブス――新日本探訪 息子からの手紙・鳥海山』という番組が放映されます。これは小舎から1996年に刊行されロングセラーになっている『南北アメリカ徒歩縦横断日記』の著者・池田拓の物語です。拓は20代前半の3年をかけ、いっさいの乗り物を拒否して徒歩で北米横断、南米縦断をした若者です。偉業達成後、アメリカの大学で自然保護の勉強をするため資金稼ぎの建築現場で事故にあい亡くなってしまいました。享年26歳、番組は拓のこの短い生涯を追いながら、この若者を冒険へと駆り立てた故郷の鳥海山や家族への熱い想いにスポットを当てています。小舎の本が刊行された後、東京の女子パウロ会という出版社から依頼があり、安倍は、池田拓の物語を子供向けに書き下ろし『ビーグル海峡だ!』という本に編み上梓しています。どちらの本も版を重ね続け、今も旅する若者たちのテキストになっているという話も聴いたことがあります。アーカイブスで放映されるこの5月は、奇しくも拓の13回忌にあたります。解説には本に使われている写真も何枚か登場します。いい番組ですので、ぜひご覧いただければ幸いです。
(あ)
池田拓の2冊の本

秋田で過ごした連休

 今年の連休は珍しく秋田から離れませんでした。連休イコール撮影取材が当たり前になっている私にとって、数えてみたら8年ぶりのことでした。カレンダーどおりの休みになったので本を読んだり、部屋の片付けをしたりしてゆっくり過ごそうと考えていましたが、そう簡単にはゆっくりさせてくれませんでした。連休にこんなに帰省や来客が多いとは思っても見なかったのです。手始めは友だちの帰省から始まりました。連絡がついた者が何人か集まってまず一献。翌日はむかし秋田支局にいた朝日新聞のH記者からの電話でした。東北自動車道を東京から秋田に向かって走っているので、今夜飲もうというものです。さらに東京の大学に行っている娘や姪、札幌にいる兄夫婦も帰ってきました。一日置いて秋田にあるスペイン料理の店グランビアのマスターから、生ハム工房となっているログハウスでワインパーティーをやるので来ませんか、というお誘いでした。東京や秋田の気心知れた10人ほどが集まっての飲み会で、自然に囲まれながらの楽しい会でした。
 まさか連休にこんなに人に会い、会話を交わし、飲食して過ごすとは思いませんでしたので、ちょっと戸惑ってしまいましたが、久し振りに足を運んだ飲み屋街の川反も秋田駅前も、帰省客や観光客でにぎわっていてなんだかうれしくなってしまいました。連休に秋田にいるのも悪くないことを知った1週間でした。
(鐙)

No.188

藤田嗣治「異邦人」の生涯(講談社)
近藤史人

 秋田市の千秋公園下にある平野政吉美術館は藤田嗣治の作品のコレクションで有名である。「秋田の行事」と題された巨大な壁画もあり、なぜかこの美術館では藤田の名を「つぐはる」ではなく「つぐじ」と表記している。そのため地元のテレビ局や新聞社もあたりまえのように「つぐじ」と呼び習わしている。しかし、これは調べればわかるのだが秋田県以外はすべて「つぐはる」と明記されていて、絵のサインや画集のローマ字名、伝記や人名辞典の類も「つぐはる」で統一されている。本書にも書かれていることだが藤田と平野の間には美術館名をめぐっての確執があり、怒った藤田が平野と絶縁したというのが真相のようだ。本書は、なぜ藤田が日本で受け入れられなかったのか、という1点に論点を絞り、藤田と戦争画の関係に大きな紙枚をついやしているのが特徴だろう。著者はNHKのディレクターで、戦争画と藤田の関係を外国取材や本人の日記、未亡人の取材などから、これまでの「戦争画を描いただめな画家」という定説を打ち破っている。ラストの日本人形の胸に縫い付けられたレジオン・ドヌール勲章のシーンはテレビ的というか、まるで芝居や映画の終わり方を見ているようだ。

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