Vol.205 04年8月7日 週刊あんばい一本勝負 No.201


カヌーのメッカを訪ねて

 田沢湖の生保内でトレーニング中のエルク・カヌーレーシングクラブを訪ねてきました。5日から合宿が始まったので、陣中見舞いもかねています。今回のエルクの合宿は「ジュニア選手の強化」が目的なので小中学生が大半でした。小学生の女の子たちが波に乗って楽しんでいましたが、この中から確実に日本チャンピオンやワールドカップ級の選手が生まれると思うと、小さな子への対応(取材)もついつい丁寧になってしまいます。なにせ小学生を手取り足取りコーチしているのが佐々木翼や村山夏美といった日本チャンピオンなのですから、贅沢な環境です。毎年、この川には日本国中のトップ・アスリートが武者修行や合宿に来ます。そして地元秋田からは翼くんや夏美さんにあこがれて若いアスリートが続々誕生しているのです。もう20年も前、作家の山際淳司といっしょに能代工業バスケットを取材したとき、インターハイ前日の練習に全日本クラスの先輩たちが全国から駆けつけ、真剣な面持ち(侮らないし甘やかしもしない)で後輩たちの調整相手をしていたのを思い出しました(翌日、能代は軽く優勝しました)。強いチームというのは先輩から後輩に受け継がれていく技術だけでなくバックアップ態勢が見事なのです。残念ながら今回は誰もアテネにはいけませんでしたが、北京オリンピックには必ずこの中から代表選手が出ると思います。
(あ)
この練習環境がすばらしい

男鹿で見たもの食べたもの

 先週、男鹿通いの日々を書きましたが、きのうもどうしても必要な写真があり、道の駅「てんのう」という、高さが60メートルのタワーがある観光施設に行って写真を撮りに行って来ました。中にある菅江真澄コーナーの写真を撮っていると、しきりに消防車のサイレンが聞こえ始めたので、最上階にある展望室に行って下を見ると、海側の松林の方からもくもくと白い煙が上がっています。出戸浜海水浴場に近い海岸なので、海水浴に来た人の焚き火が周囲に燃え移ったのでしょうか。上から見ていると消防車が10数台、それにパトカーや東北電力の車などが松林の中の細い道を迷いながら現場に走って行きます。そのとき煙の先の海を一艘の大きな客船が通り過ぎました。東北3大夏祭りツァーで竿灯見物にきた豪華客船「飛鳥」です。思いがけない原野火災を見て乗客もさぞや驚いたことでしょう。幸い火事は2時間ほどで消火しました。
 また、3日ほど前、男鹿半島の中央部にある新山神社に行ったときのことです。ちょうど昼になったので、前から気になっていた魚屋兼食堂に入ってみました。「すごえもん屋」というところですが、道路沿いの空き地に魚屋は冷凍車で、食堂はプレハブの建物で商売をやっています。今年の4月に食堂が開店したのですが、かなりおいしいという噂だったので行ってみたのです。普通の定食が700円。焼き魚定食が1000円です。写真は私が食べた焼き魚定食ですが、写真上の左からメバルの塩焼き、イカ飯とニシ貝のような小さな煮貝、自家製エゴ、海藻のクロモと長芋の和え物、ガンギエイを干したカスベの煮付け、海カジカの一種で秋田で「すごえもん」と呼ぶ魚とクロモの味噌汁が付いていました。男鹿の家庭料理をそのまま出したようなもので、味は申し分ありません。魚屋の気のいい御夫婦がやっているのですが、本来の魚の値段もかなり安く、ついお土産まで買ってしまいました。ちょっと量が多くて腹いっぱいになるのが難点ですが、この食堂はかなりおすすめです。
(鐙)

松林の火事と沖を行く「飛鳥」。船は煙の左側に見えますね

これが焼き魚定食です。

大田の「曲がりネギ」を、ついに食べた!

 大曲農業高校大田分校の取材を続けているのだが、実習田で作られている「曲がりネギ」のことが気になってしょうがなかった。このネギはとにかく甘くて地味豊かなものなのだが、栽培に普通の2倍の時間がかかる(一度植えたものを、甘みを出すために抜いてもう一度植えなおす)ため、コストがあわず農家はほとんど作らなくなってしまったものだ。このネギの噂は知っていたのだが、まさか農業高校で栽培されていたとは。それからは取材に行くたびに「曲がりネギ」の存在が気になってしょうがなくなりました。
 今回も教頭先生に「順調に育ってますか?」ときいたら、「ええ、どうぞ2,3本持っていって食べてください」と、太目のところを引っこ抜いてくれました。車の中はネギの匂いで充満。うちに帰って早速「焼きネギ」にして塩を振って酒のツマミにしました。うっめ〜。蛇足をひとつ。農業高校の夏休みは普通高校とかなり違います。夏休みといっても花や農作物には水遣りが必要で、まさしく生き物を扱っているわけですから、毎日当番が学校に来て栽培物の世話をしなければならない。この日も4人の生徒がジャガイモの収穫と土落とし、選別作業をしていました。取材をしてみると農業高校は面白い。
(あ)

これが曲がりネギ

ジャガイモの選定作業

No.201

バッテリー(角川文庫)
あさのあつこ

 教育画劇という出版社から出ている全6巻の野球小説である。6巻目はまだ読んでいないのだが(未刊?)5巻まではアマゾンで買える。評判の高い作品なので角川書店が文庫で刊行をはじめていて、こちらは2巻まで出ている。7年余りかけて今50歳になろうとする女性児童文学作家が渾身の力をこめて投げ込んだ剛速球作品である。ピッチャーの功とキャッチャーの豪という二人の中学生バッテリーの1年間の心と身体の葛藤を、時には劇画チックに、時には純文学もかくやというほど精度の高い描写で、私たちの前に「物」のように現前させる力技は並みの作家にできるものではない。少年の心がかくも複雑で、ナイーブで、未熟で、傲慢で、脆弱なものか、児童文学にありがちな悪と善の境界線を徹底的に消滅させることによって見事に描ききっている。読むものはただひたすら作家の筆力に圧倒され、主人公との年齢差をこえて作品に自己投影し、ないたり笑ったりしながらあっという間にこの長編小説を読了してしまうしかない。たまたま野球についての文章を書くために読み始めたのだが、すっかりとりこになってしまった。これまで読んだ小説の中でも上位に入るできの感動的な作品である。

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