Vol.207 04年8月21日 週刊あんばい一本勝負 No.203


災害マニュアルが必要になってきた

 20日未明の台風(強風)は久々に自然の怖さを教えてくれた。真夜中の強風は強烈で、昔近所の屋根が強風で吹き飛んだのを目撃した恐怖がよみがえり、今度は自分の家の番では、とまんじりともしないでひと晩を明かしてしまった。夜中の3時半の瞬間最大風速は41メートルというのだから恐ろしい。信号が止まり、コンビニが店を閉め、パソコン・ネットが半日以上不通になり、スーパーや飲食店は休業するところまで出た。ほとんど災害や殺人事件の起きない田舎に暮らしているので、自分の身の上にニュースになるような事件が降りかかってくることなど誰も想定していなかったが年々この国は自然災害にもろくなっている。そろそろ本格的な災害マニュアルが必要になってきたようだ。
 この日はある新聞の県版で連載する打ち合わせの日で二ツ井町から挿絵を描いてくれる照井勉さんや記者を交えて事務所2回で長時間の打ち合わせ、その後飲み会があり、翌朝早くには東京に出発。約2ヶ月ぶりの東京はやっぱり暑く、ぐったり。それでも事務所付近の雑踏や都市の活気に触れると、自分の身体のなかにも生気がよみがえってくる。でもこの熱気に負けまいと無理をすると、てきめんに身体にくる。今回は少しおとなしく事務所周辺でゆっくり心身を休めることにしよう。わたし、夏休み中です。
(あ)

この人が挿絵を描いてくれる照井さん

事務所のある午後のけだるい神楽坂付近

昭和町の『道の駅』で

 お盆期間中に昭和町で開かれている「懐かしの昭和レトロ展」を見てきた。個人のコレクショングッズのようだが、展示会は子どもだましのちゃちなもの、徒労感でがっくり。この手の展示物では秋ノ宮に油谷コレクションという秋田が全国に誇れるコレクターならびに展示場があるので、それを見ている人にはなんともバカにされた気分になるシロモノだった。わずか8畳間ほどの会場に数冊の雑誌やポスターを並べて「昭和回顧」などといわれても羊頭狗肉にもほどがある。わざわざ早起きして高速に乗って駆けつけたのに、と憤懣やるかたなかったが、その展示場の脇で箸を作っている職人がいた。いわゆるデモンストレーション販売というやつで、手の寸法を測ってヒバの木で自分用の箸を1000円で作ってくれる。さっそく職人とムダ話をしながら作ってもらったのだが、これは得した気分。おまけに箸の持ち方が悪いと徹底指導までされてしまった。家に帰って実際に使ってみると、軽くて大きくて使いやすいのは確かなのだが、ヒバの独特の香りが強すぎて食べ物にまでそれがうつってしまう。う〜んこれは少しきつい。
(あ)
レトロ展と箸職人

No.203

禁酒宣言(ちくま文庫)
上林暁著・坪内祐三編

 最近、私小説作家にはまっている。もともと阿部昭の作品や小津安二郎の映画の静謐で寡黙な世界が新鮮で、「俺もこんな世界が理解できるようになったんだ」と自分自身の精神の変容に驚いたのが始まりだった。でもこの小説集のように、ひたすら飲み屋を徘徊して、女将にほれたり振られたりを「書き留める」だけの小説となると、「日本文学史上代表的な私小説」という意味が、私にはまだよくわからない。私自身55歳をこえた年になり、事件が何も起こらない作品にある種の「やすらぎ」を感じ、静かな共感をおぼえるようになった。そういう意味ではある年齢に達しなければ意味不明な作品というのが世の中にある。本書は戦後まもなくの「酒場」を舞台にしていて、その年代は私の生まれた年あたり。これでは何もかも環境(設定)が古すぎて、自己投入する隙間がなかなか見当たらない。主人公たちはもちろん著者自身を投影しているのだろうが「けっこう有名な作家」という設定。敗戦後のドサクサの時代に、小津の作品もそうだが、庶民(読者)は冒険活劇やロマンスだけでなく、これほど静かで小さな宇宙(作品)を書く作家を大切にしていた(らしい)のが不思議といえば不思議。やはり昔の人たちは大人だったのだ。

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