Vol.210 04年9月11日 週刊あんばい一本勝負 No.206


2階に舎長室復活!

 10年前、事務所の2階はほとんど使われることもなく倉庫化していたのですが、もったいないのでシャレで舎長室を作りました。でも結局は1階で仕事をすることが多く、孤立していては何かと作業に支障とロスがあることを実感しました。そこで2年前に東京事務所を作る際、2階の舎長室の机や棚、備品類をそっくり東京に移動させてしまいました。それからはフリーランスの人たちの作業場になっていたのですが、これもやはり何かと1階が便利のようで居着いてくれず、活用出来ないままになっていました。私自身も2階に上がることはほとんどありませんでしたが、そうなるといつのまにやら1階のデスク周りが資料や文具、編集備品で山になり、新しい物の収納が不可能になってしまいました。
 毎日のように資料類は増えるばかり、自分用の取材資料もたまり始め、身の置き所がなくなり、イライラが募っていました。そこでこの土日を利用して「第2作業所」を2階に作ることにしました。アスクルで買った本箱2個、安い机をいれただけで、ご覧の通り見事に舎長室に変身しました。当分は1階(個人用)と2階(会社用)を使い分けていくつもりです。仕事場を2つ持っていると2箇所に同じ備品を置かなければならないのが問題ですが、これは仕事の内容で使い分けていくしかないようです。
(あ)

これが新生舎長室

花輪の町で

 今年に入って3度目の鹿角行きです。この秋田とは異質の南部文化の香る街にけっこうはまっています。いながらにして岩手県を観光旅行している気分になるからでしょうか。今回は個人的な取材で日帰りしてきたのですが、昼は有名な切田屋の南部手打ちそば「わりご」を食べました。創業が明治22年というから秋田県では最も古い蕎麦屋さんで、自慢をしたいのですがここの蕎麦はあくまで「南部」のもので秋田とは関係が薄いというのが残念です。シャレた喫茶店にはいったら「けいらん」を食べさせてくれるというので驚きました。この地方独特の食文化で、もともとは中国の点心なのでしょうが、あんころ餅を澄まし汁の中に入れて食べる独特の行事食です。これは間違いなくこのお店だけでしか食べられないものです。仕事が終わって帰る間際、鹿角を代表する現代の郷土料理「ホルモン鍋」を「花千鳥」という店で食べてきました。ジンギスカン鍋でモツとキャベツを「焼く」という、これも鹿角だけの珍しい郷土料理です。このルーツに関してはいろいろ調べているところですが、とにかく鹿角は独特の文化が息づいている注目の地域です。
(あ)
ソバ・けいらん・ホルモン鍋

CDが教えてくれる世界

 「あ、エヴォラの国のCDだ」と、1枚のかなり目を引くイラストのCDジャケットを手にしたのが始まりでした。2年前、アイルランドの首都ダブリンで1軒の小さなCDショップに何気なく入ったときのことです。アイルランドのほかヨーロッパやアフリカの音楽を中心にした品揃えで、流行とは関係なくちょっとマニアックなCDが並んでいる店でした。私が手にした「カボ ヴェルデ」というタイトルは、大好きな歌手セザリア・エヴォラが住む国の名前です。ここはアフリカのセネガル沖に浮かぶ大西洋の孤島で、かつてはポルトガル領でした。アフリカからアメリカ大陸に送られる人たちを運んだ奴隷船の中継地点となった島のため、西ヨーロッパとアフリカと中南米音楽をミックスしたような独特の雰囲気の音楽が生まれています。そのCDは「カボ ヴェルデ」の音楽を集めたコンピレーション・アルバムで、発売元はニューヨークの「プチュマヨ」というレーベルでした。ひとつのテーマに沿って、いろいろなミュージシャンの音楽を集めるコンピレーション・アルバムは、選曲のセンスが良いととても魅力的なものが生まれます。このときは「カボ ヴェルデ」とポルトガル語圏のアフリカ音楽を集めた「アフロ ポーチュギース オデッセイ」を買いました。
 それから機会を見てはこの「プチュマヨ」シリーズの輸入版を、アマゾンなどを通じて買い集めていましたが、日本版も出ていることが分かり、仙台に行ったとき新星堂で買うことが出来るようになりました。コーヒー豆の輸出国の音楽を集めた「コーヒーランド」や、アフリカをルーツにするキューバ音楽がアフリカのコンゴに再上陸した「コンゴ トゥキューバ」、キューバなどの音楽を元にニューヨークで生まれたサルサが世界各国で演奏されている「サルサ アラウンド ザ ワールド」など大いに楽しめました。世界にはいろんな音楽があることをこの「プチュマヨ」が教えてくれ、私にとって音楽の世界が急激に広がるきっかけになりました。今はアフリカとカリブ海周辺の音楽を集中して聞いていますが、この先どのような未知の音楽世界が開けるのか、その出会いが楽しみでしょうがありませ ん。
(鐙)

右が「フレンチ カリビアン」左が「コーヒーランド」。「プチュマヨ」のC Dはほとんどがこのようなイラストです

今週の花

 今週の花は、くじゃく草、スカシユリ、りんどう、デンファレ。くじゃく草は菊科の植物で、学名は「Aster hybridus(雑種の菊)」。「アスター」はシオンやエゾギクなどの通称で、可憐な花が夜空に瞬く星のようなので、ラテン語の「aster(星)」が由来。花の時期は秋。長い茎が細かく枝わかれして、たくさんの花を咲かせる様子から、日本では孔雀の尾羽根に見立てて「孔雀草」と名付けたようです。「紫苑(シオン)」ととてもよく似ているので、かなり気をつけて観察しないと混同してしまいそうです。
(富)

No.206

ワンディインニューヨーク(ちくま文庫)
W・サローヤン

 サローヤンの小説は一度も読んだことがない。それでもこの本を読もうと思ったのは訳者が今江祥智であることと、自伝的作品という2点にひかれてのことだ。自伝的というのもクセモノで、知らない作家の自伝など読んでもしょうがないのだが、本書は自伝的(私小説的あるいは日常的)要素を見事に作品にしてしまったところ、物語くさくないことが魅力である。物語はこうだ。かつての流行作家がニューヨークにふらりとやって来て、その数日間の日常に起きたことをほぼアトランダムに記述していくのだが、売れなくなった作家とはいえエージェントはやってくるし街を歩けばファンに声をかけられる。ホテルの対応も有名人に対するそれなのに、なぜか作家としての往年の精彩は欠き、そのことを知りながら淡々とニューヨークの街や元家族、子供たちや野球観戦を楽しんでいる。このへんの飄々としたスタンスがかっこいい。タイトルもいいし、日常の断片(メジャーリーグの大ファンだったり、編集者との確執、別れた妻との微妙なやりとり、子供たちとのうれしそうなふれあい)が結果としてはフィクショナルな作品として絶妙にレイアウトされ作品になっている。これならサローヤンの作品を読んでなくても名前を知らなくても十分楽しめる。

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