Vol.212 04年9月25日 週刊あんばい一本勝負 No.208


宅地造成もようやく沈静化

 どうにか工事も終盤にはいったようで、ご覧の通りほぼ工事は終わりに近づいています。仕事中は集中しているのであまり気にならないのですが、土日は本当に苦痛でした。朝から腹に響く振動で目がさめ、一日中精神の安定をかき乱す騒音が家と事務所を渦巻いていました。それも後すこしで終わりです。といっても今度は住宅建築がはじまるのでしょうから、油断は出来ないのですが。

ほとんど完成まじかの現場
 2階から宅地造成を1ヶ月近く見ていて面白い事実に気がつきました。最初のほうこそ何十人もの人たちが働いていたのですが、それは本の1週間ほどのことで、後はずっとブルの運転手と中年男性の2人だけの現場になってしまったことです。田んぼ2枚をつぶしたスペースですから600坪の宅地を造成する現場なのにです。最初の道路敷設や排水などの大きな工事が終了すると、現場からは人がスーッと消え、実質的には2人の人間で工事はフィニッシュまでいってしまったのです。大きなビルの建設でもあまりに早い工期に驚くことが多いのですが、こうした建設現場の技術革新といいうのも日進月歩なのかもしれませんね。
(あ)

スポーツ雑誌「バーサス」に期待する

 個人的にずっとレヴェルの高い文章や写真が満載したスポーツノンフィクション雑誌が読みたいと思っていたのだが、今月、意外にも光文社から月刊「バーサス」が出た。定期購読している雑誌といえば「サライ」と「アエラ」ぐらいで、それも毎年やめようか迷っている程度で雑誌にはほとんど愛着がない人間だが、この雑誌だけは定期購読するつもりだ。こんな雑誌を待っていたのだ。

これが創刊号の表紙
 ワクワクしながら中身を見るとスポーツノンフィクションの重要な書き手をほぼ満遍なく揃えている(小林信也の名前がないのが気になるが)。沢木耕太郎も二宮清純も小松成美も金子達仁も阿部珠樹も力の入った文章を書いているし、織田淳太郎の「競歩の天才少女・板倉美紀、「瀕死」からの回帰」はなかなか読ませる。こうしたルポが読みたかった。ライターもテーマも少々総花的な観は否めないが、創刊号だから目をつむろう。文章で読む野球というのはもっともつまらないジャンルのひとつだが、二宮の「すべては野茂から始まった」ぐらいのレヴェルになると本物の野球よりもスリリングで読み応えがある。写真も日本人が撮ったとは思えないほどいいものがたくさんある。この雑誌が切り開くスポーツの未来は注目に値する(ような気がする)。
(あ)

社員研修旅行、今年は東京でした

 9月20日 例年、海外で社員の研修旅行をするのが恒例になっていましたが、今年は目先を変えて東京にしました。留守番役のあんばいを一人置いて、9月20日我々3人は秋田新幹線「こまち」で残暑がまだ厳しい東京に行ってきました。東京で社員研修といってもまとまって何か研修を受ける、という旅行ではなく、一人一人が行きたい所、したいことに個人の判断で向おう、というものです。普段本の流通でお世話になっている地方小出版流通センターか、その直営店の神田神保町にある「書誌アクセス」には挨拶に行こうとだけ決めました。
 東京駅についた段階でばらばらになり早速個人別の研修開始です。私は1週間前に開店したばかりの「丸善丸の内本店」に足を向けました。日本を代表する老舗書店が鳴り物入りで開店させたもので、1,750坪のフロアに120万冊の本が並ぶ大型書店です。私が入ったときは午前10時の開店直後でしたのでそんなに混んではいませんでしたが、30分もするとどんどん人が入り始め、ゆっくり本が探せない状況になってきました。とにかく棚と棚の間が狭いうえ、手が届かない高さまで書棚があるため、通路に移動式の踏み台が置かれて邪魔になっています。でも、本はかなり揃っていて10冊ほどの収穫がありました。しかし、レジがまた混んでいてかなり待たされる、という状況でけっこう疲労感が残りました。慣れていない書店で本を探すのはけっこうしんどいものだ、ということを再認識しました。それから神田神保町に予約しているホテルに荷物を置きに行き、久し振りの古書店めぐりです。しかし回ってみても欲しい本があまり目に飛び込んできません。理由は「・・・に関する資料」という明確な目的がないためです。いつも神保町では「北前船」とか「街道」などという資料ジャンルがはっきりした本探しがクセになっていますので、勘が働かないようです。
 それでも3時間ほど古書店回りをしてから阿佐ヶ谷に向いました。2ヶ月ほど前、東京の大学行っている娘が、川崎にある秋田県の女子寮から阿佐ヶ谷のアパートに引っ越したため、その部屋を見るためです。行ったら早速棚をつけて欲しいとか、壊れた家具を直して欲しいとか始まり、その作業に何時間か費やしてしまいました。その後、近くの焼き鳥屋に2人で入り、なかなかおいしい焼き鳥と日本酒を楽しんできました。ごく普通の焼き鳥屋でごく普通の日本酒を飲むというのも悪くないものです。

 9月21日 部屋でゆっくりと本を読んだあと、泊まっているホテルの朝食はとらずに近くにある「山の上ホテル」に朝食を食べに行きました。料理がおいしいことでも知られるこのホテルの朝食は絶品です。朝食後は腹ごなしをかけて神保町散歩です。書店、古書店、スポーツ店と次々と入り、何を買うでもなくブラブラ歩きを楽しみました。午前中でアルバイトが終わったという娘から連絡が入り、神田で昼食を一緒に食べて映画を見に行くことにしました。永田町にある国際交流基金フォーラムで「ヒスパニック・ビート」というスペイン語圏の映画フェステバルが開かれている、というのでそこに行ってみましたが、残念ながらその日は夜の上映しかないといいます。でも近くにある六本木ヒルズの映画館でヴェム・ヴェンダース監督の「ソウル・オブ・マン」を上映していたのでそれを見ることにしました。
 六本木ヒルズは初めて行きましたが、あまりの広さと複雑さで映画館入口までたどり着くのにけっこう疲れてしまいました。映画一本を見るだけでこんな苦労をしなければならないのか、と思いながら席に付きましたが、映画はそんなグチをたちまちのうちに吹き飛ばしてくれました。マーチン・スコセッシが制作・総指揮を引き受けた7本の連作ブルース映画「ザ・ブルース」のうちの第1弾で、ブルース黎明期を再現したフィルム、40年前の実写ライブフィルム、そしてルーリードを初めとした現在のブルースマンのフィルムが折り重なって、躍動感あふれるブルースの世界を見せてくれました。その日の夜は朝日新聞のH記者と根岸にある居酒屋「鍵屋」で飲むことになっていたので、娘と別れ地下鉄と山手線を乗り継いで鶯谷駅に向いました。
 この「鍵屋」は江戸時代後期の安政年間から酒屋をやっていた店で、酒を飲ませるようになってからも100年以上経つという東京有数の歴史を持つ居酒屋です。現在の店は戦後、道路拡張で移転してからのものだそうですが、大正時代の築という建物はどう見ても下町の仕舞屋(しもたや)。しかし小さな門を入りガラガラとガラス戸を開けると、100年以上昔に戻ったような居酒屋の雰囲気が目に飛び込んできます。たたみイワシや冷奴、味噌おでんなどをつつきながら、親父さんが銅壺(どうこ)でつけて出してくれる絶妙な温度の燗酒にはため息が出ました。「鍵屋」は9時半で閉店なので、谷中に住むH記者の案内で歩いて移動してもう1軒の居酒屋に行きました。ここもなかなかの雰囲気の店でしたが、残念ながら名前は失念しました。谷中の狭い小路を入った下町の民家を改造したお店でした。

根津にある居酒屋「鍵屋」

谷中の小路で寝そべっていた猫
 9月22日 この日も朝食は泊まったホテルで食べず、九段下まで歩いて行き「ホテル・グランドパレス」の和朝食を食べました。しばらく靖国神社周辺を散歩しながら神田に戻り、岩波ホールで上映中の黒木和雄監督の「父と暮せば」を見に入りました。宮沢りえと原田芳雄が親子を演じる映画で、舞台は昭和23年の広島。原爆で死んだ父が一人暮らしの娘のことが気がかりで、幽霊となって現れるという井上ひさし原作の映画化です。2人の人間の尊厳を失わない生き方に好感が持たれました。
 午後に友だちと会ったあとは特に約束がなかったので、阿佐ヶ谷の娘のアパートに遊びに行きました。面白い店が多い中央線沿線の中でも、特に高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪は個性ある店が建ち並ぶ所なので、娘の自転車を借りて中央線沿線散歩に出かけました。高円寺はロッカーの町、阿佐ヶ谷は下町風、荻窪は自然食品店から高級ではない気さくな店が揃った町、という印象が残りました。とにかくどこに行っても人が多くて活気があり、浅草や神田などの下町とも、麻布や青山などのハイソサエティーな町とも違う、独特のエネルギーにあふれた一帯です。私は若い頃中野に住んでいましたので、中央線というとどこか懐かしさが感じられ気持ちが緩んできます。
 娘と阿佐ヶ谷駅近くの中華料理店でビールや紹興酒を飲んでから、高田馬場に向いました。今夜はこの町にある「オーレ」というスペインバルで、友だちが集まっての飲み会です。昔秋田にいた朝日や毎日新聞の記者や、神保町の「書肆アクセス」の店長さん、夏休みに一緒に三陸海岸にキャンプに行った早稲田大学の「野草食い研究会」のOBたち、たまたま東京に来ていた秋田のスペイン料理店「グランビア」のオーナーやその娘さんたちとさまざまです。ワインとシェリー酒を手にして夜が更けるのも忘れて、大いに話が盛り上がりました。
 9月24日 今日で社員研修旅行も終わりです。東京に来てから一緒に来た会社のメンバーとはそれぞれ一度しか会っていません。こんな旅行も悪くないもんですね。チェックアウトの11時までホテルにいてから、邪魔なバッグを宅配便で秋田に送り、そばでも食べようかと神田の「まつや」まで歩いてゆきました。祝日なので休みかな、と思いながら散歩を兼ねて行ってみたのですがやはり休みです。周囲は会社が多いので休日は休む店が多く、わがままを言って店を選ぶことは出来ません。御茶ノ水駅近くの食堂で簡単に昼食を済ませ、池袋のジュンク堂に行ってみました。ジュンク堂は神戸に本店がある書店チェーンで全国に22店舗あります。仙台にも2店舗あり私が最も多く行く書店です。池袋店は確か2年前のオープンだったと思いますが、1,000坪を優に越えるフロアには図書館のように本が並んでいます。平積みが非常に少ないのがジュンク堂のスタイルですが、私は仙台店で馴れているのでむしろ馴染みを感じます。
 ここで何冊かの本を買い求め、新大久保にあるICI石井スポーツに行ってみました。新大久保店は登山とカヌーの専門店で3階まであるフロアには商品が山のようにあります。ここで何かシーカヤックに使えるグッズがないかとうろうろしましたが、結局カヌー用のシューズとシーカヤックの本を1冊を買っただけでした。夕暮れ迫る東京を後にしようと東京駅に向かい秋田新幹線に乗り込み、最後に買ったシーカヤックの本を秋田まで読み続けました。書店、古書店、スポーツ店、映画館、娘のアパート、散歩、酒飲みと直接仕事とは関係ないことが多かったけれど、久々に自由な時間を満喫できた充実した東京での研修旅行でした。
(鐙)

No.208

ぼくは痴漢じゃない!(新潮文庫)
鈴木健夫

 新進気鋭の経済学者U氏が手鏡で女子高生のスカートの中をのぞいた容疑で裁判中だが、本人は無罪を主張しているようだ。本書を読めば「冤罪」の可能性も十分疑いたくなるのだが、車の中で見つかったというエロ黒雑誌やAVテープの存在が問題を難しくしている。なによりもテレビに出すぎで「優秀な人気者の学者」を演じていた分、落される崖は深くて暗いのはやむをえないのかもしれない。本書は電車で若い女に痴漢として訴えられた著者がその冤罪を晴らしていくルポである。上場企業の冷たさや警察・検察のおざなりさが浮き彫りにされ、いい弁護士にめぐり合うことが以下に大切かが力説されている。本書の3分の1は弁護士による「痴漢で訴えられないための解説」になっていて、実用的な用途も兼ね備えている。が、本書の白眉は「あとがき」である。著者は逮捕され、裁判闘争の後、著者は会社を首になり企画会社、工務店、板金屋、鉄筋圧接、タイル屋、PR会社と職を点々とすることになる。そして現在は、仲の悪かった父親のすすめで北海道のキリスト教の教えを生活実践を通して学ぶ塾に入り、そこで結局は神の存在に目覚め、その存在を伝えるための仕事に従事しているのだという。「あの事件がなければ神に出会うこともなかったでしょう」といわれても、なんだかあっけなく現実の舞台からさっさと降りられて、こちらとしては拍子抜けしてしまう。

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