Vol.213 04年10月2日 週刊あんばい一本勝負 No.209


北前船を見に行く

 今週初め、仕事の打ち合わせや図書館での資料調査のため青森県に行き、それに合わせ、建造中の北前船の現場を訪ねてきました。この船はみちのく銀行が運営している青森市の「みちのく北方漁船博物館」が、岩手県大船渡市などの船大工集団「気仙船匠会」に依頼して建造しているもので、木造復元船としては日本最大となる千石船です。この船大工集団は過去に地元で「気仙丸」(四百石)、佐渡で「白山丸」(五百石)、大阪で「浪華丸」(千石)と作り上げてきた実績があり、もうこんな大きな船の建造依頼はないかもしれない、と今回の復元作業に精を出していました。船大工さんは気仙から6人、地元や北海道から7人の計13人です。青森県の鯵ヶ沢から参加している船大工さんもいて、自分が建造を依頼された船を置いてこの復元に参加していました。今後このような木造船の仕事に関わることは出来ないだろうと、自ら名乗り出てのことだそうです。現場では太さが50センチ、長さが30メートルもある松の木を蒸気で蒸して曲げたり、手斧(ちょうな)で材木を削ったりと昔からの技術を駆使した作業が進められていました。棟梁の新沼留之進さんは「今まで3艘作ったがこの船が一番すごい船になるだろう」と、真っ黒に日焼けした顔をほころばせてうれしそうに話してくれました。長さが30メートル、帆の高さが28メートルの船が完成するのは来年の夏。私も進水したら乗せてもらえることになり、今から楽しみでしょうがありません。
(鐙)

建造中の千石船。名前はまだ決まっていないそうです

手前にある青い箱が木材を蒸気で蒸す箱。長さが30メートル以上あります

ブラジル県人会の人が見えました

 突然、サンパウロから二人のお客さんが見えました。秋田県人会の新しい会長になった石川準二さんと元パウリスタ新聞社長吉田尚則氏です。パウリスタ新聞はサンパウロの伝統ある邦字新聞社ですが日本語を読む日系人の減少で、いまは合併し「ニッケイ新聞社」にかわりました。創業者が秋田人だったこともあり、秋田とは昔から浅からぬ縁のある新聞社だったのですが実は吉田さんも秋田県出身。二人の来日の目的は来年、秋田県人会が45周年を迎えるので知事の来聖を依頼するためです。

こちらがブラジルのお2人
 そのことと無明舎は直接何の関係もないのですが、日本のブラジル移民は再来年に「移民100周年」を迎えます。このときは小生も来伯を予定しているのですが、小舎がその昔、苦労して集めた(サンパウロに私とカメラマンの宮野氏が1ヶ月間泊り込んで複写した)3000カットほどの貴重な写真資料を使って『目で見るブラジル日本移民100年史』を造ろう、という話が持ち上がっているのです。これは編集期間として2年はゆうにかかる大仕事で、そろそろ準備に入らなければとても間に合いません。そのブラジル側の責任者になる可能性大なのが吉田さんなのです。これも秋田が結んだ縁ですが、やるのは全国区の大仕事です。実現するか企画倒れに終わるかは今のところ半々といったところでしょうか。
(あ)

秋の宮温泉郷で

 最近、頻繁に秋の宮温泉郷に行っています。山里深く入っていくと大自然にすっぽりと包みこまれ、孤立感と贅沢気分の両方を味わえる、数少ないマイ・フェバリット・エリアです。たびたび行くようになったのは父親が湯沢市内の病院での治療を終え、介護医療の充実したここ秋の宮の「雄湯医師会病院」に入院したためです。実家からかなり離れているので不便は不便なのですが、寝たきりの父親にとっては、豊かな自然と手厚い介護、ゆったりとした広い病室とシンプルな設備と、申し分のない環境です。ときどき母親を連れてくるのですが、介護する側にもそこに行く楽しみがなければ、こういうことは長続きしません。病院のすぐ横には知る人ぞ知る「秋乃宮博物館」があります。この博物館も秋田県内では最も好きで何度も足を運んでいる場所なのです。そこで今回は母親と博物館見学としゃれ込みました。昭和30年代のガキたちの遊び道具や高度経済成長前後の生活雑貨を所狭しと並べているのですが、何度観てもあきません。母親も興味しんしんで2時間じっくりと見入っていました。昔のスキーコーナーでは「女学校のとき、私だけカンダハーのスキーを持っていて自慢だった」などとうっとりと言い出す始末です。入場料は500円ですが、これは高くありません。ぜひ一度お出かけください。楽しめますよ。
(あ)
秋乃宮博物館

東京研修旅行

 3泊4日の研修旅行で行った美術館は3ヶ所。
 1ヶ所目は「Bunkamura ザ・ミュージアム」のニューヨーク・グッゲンハイム美術館展。ピカソやクレー、ウォーホールなどのモダン・アート作品が79点。個人的には抽象的な作品は苦手でモダン・アートにはあまり親しみがないのですが、初めにルノワールやゴッホ、セザンヌなどの著名な画家の作品、途中に私でも知っているカンディンスキーの作品など、最後にはアンディ・ウォーホールの「セルフ・ポートレート」を持ってきているので、印象にのこる並びでした。モンドリアンの「青い菊」「コンポジション8」の青やピンクの色合い、マックス・エルンストの「偽教皇」「森」に引き込まれました。グッゲンハイム美術館の所蔵作品の質の高さと、そんな作品を間近でゆっくり眺められたことが幸せでした。
 2ヶ所目は「東京都写真美術館」のウィリアム・クライン「PARIS+KLEIN」写真展。ウィリアム・クラインはニューヨーク生まれで76歳になった今も現役の写真家。ブレたりボケたりアレたりするスタイルが特徴なんだそうです。ニューヨーク、モスクワ、東京などの都市シリーズの最新作がパリ。動作や呼吸まで聞こえてきそうな自然な表情の写真と、蝋人形館やオペラ座前での不自然な写真などの差が、違う世界に入りこんでしまったような不思議な気分にさせられました。
 最後は「江戸東京博物館」のエルミタージュ美術館展。美術展は3部構成で、まずは「大国への道」。ピョートル1世とエカテリーナ2世によって18世紀のロシアが大国になってゆく歴史です。伯爵や少将たち(エカテリーナ2世の彼氏?)の肖像画には興味ありませんが、サンクトペテルブルクの風景画の前でしばらく立ち止まりました。晴れ渡った真っ青な空よりも、少し曇った空がサンクトペテルブルクの雰囲気にピッタリ。
 次は「エカテリーナ2世と宮廷の輝き」。ウェッジウッドの陶器セットは、優雅な雰囲気なのにカエルの紋章が入っているので、ゴージャスというより可愛らしいコレクション。宝石類も豪華で、中でも「宝石の花束」には目を奪われました。花びらや葉っぱがダイヤモンド、サファイヤ、ガーネットなどで作られ、エメラルドの葉っぱには昆虫(これも宝石)が配置されていて、宝石に興味のない人でもきっと見とれてしまうはずです。このコーナーには「エカテリーナ2世の黄金の馬車」も展示されていましたが、個人的には馬車よりこの花束の衝撃が強く残っています。
 最後は、「エルミタージュ絵画ギャラリー」。エカテリーナ2世がヨーロッパ中から買い集めたコレクションの一部が展示されていました。宗教画も多く展示されていたのでゆっくり眺めていたかったのですが、見学者で混雑していて立ち止まると周りの迷惑になりそうだたので慌ただしく出てきてしまいました。出口にはサンクトペテルブルクのツアー案内や池田理代子のマンガ『女帝エカテリーナ』が販売されていました。ツアーは無理だけどマンガなら・・・ということで、秋田に戻ってすぐ本屋に探しに行きました。
 行きたい美術展はもっとたくさんあったのですが、休館日や歩き疲れなどの理由でこれ以上見学できなかったことが残念です。
(富)

No.209

アダルト・ピアノ(PHP新書)
井上章一

 「おじさん、ジャズにいどむ」という副題にあるように、40歳になってからピアノを習いはじめたオッサンのピアノ奮戦記である。のっけから「もてたい!ホステスさんのアイドルになりたい!」と身もふたもない告白からスタートしているが、なかなかどうして読者心理を読んだうまい書き出しである。ピアノではないが小生もエアロビクス・ダンス15年選手なので、著者の熱中、孤独、妄想、努力がわがことのように理解できる。恐る恐るはじめて熱狂的の真っ只中に突入するまではだれもがそう時間はかからない。実はそこから「持続」という高い高い、長い長い山が待っていて本当の戦いがはじまるのだが、その前の熱狂段階を一山こえたあたりで、すごすごと辞めて行く人がほとんどなのである。高い山をいくつか超えていると、次第に初期の「もてたい!」などという邪心はどこかへ行ってしまい、プレイすること自体が楽しくて自己完結するようになる。が、決してある程度以上は上達しない。上達しないから、うまくなりたい努力する。努力してもどうにもならないのが「中年からの趣味」という現実のカベに直面しても、上達しない自分に酔えるようになる。これは中高年の厚顔な強み。そのへんの偏屈的体験がもっと本書にあれば面白さ倍増だったのだが。

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