Vol.216 04年10月23日 週刊あんばい一本勝負 No.212


日々あわただしく過ぎていきます

 ここ1ヶ月ほど、舎員ひとりひとりが忙しく立ち働いていて、誰が何の仕事をしているのか、舎主の私にもほとんど把握できません。とにかく秋が来ると同時に、この1年近い休眠ブランクを取り戻すかのように身辺があわただしくなり、それぞれが忙しさの只中に放り込まれています。この時期、私は図書館大会や業界・友人たちの海外視察、読書週間イベントなどが目白押しなのですが今秋はすべて欠席です。それにかわり毎日いろんな人と会い、打ち合わせをし、飲食したりしているのですが、このへんはプライバシーの問題もありネットでは書けないのが辛いところです。まあヒマよりは忙しいほうがダンゼンにいいのですが、身体はかなり言うことをきかなくなりつつあります。
 アタフタ東奔西走している間に、事務所前の石井さんの田んぼはすっかり宅地造成が終わり、今度は建物の施工に入るようです。個人住宅と思っていたらどうもアパート(集合住宅)が建つようです。その基礎工事がいつの間にやら始まり、これは今年いっぱい続くようで、振動と騒音からしばらく開放してくれないようです。うるさい環境にイライラするヒマもないのが救いですが。 。
(あ)

基礎工事始まる

「女中さん」について

 唐突ですが私が小さいころ(昭和20年代後半)、うちには女中さんがいました。秋田の片田舎の間違っても裕福とはいえない給料取りの家に女中さんがいた、という事実は自分のことながらいまもって不思議でしょうがありません。母親に聞くと、雇用していたというよりも「行儀見習で田舎から出てきた娘さんを世話していた」というニュアンスになるのですが、自分たちが食べるのに精一杯なのに他人まで狭い家に置いておけた家庭環境というのが、よく理解できません。
 そんなこんなもあり個人的に「女中さん」のことをもっと知りたいと思っていたのですが、その矢先、ドンぴしゃりで世界思想社から『〈女中〉イメージの家庭文化史』という本が出ました。こんな本が読みたかったのです。本ってやっぱりすばらしい。もともと岩波の全集『近代日本文化論』の1巻に収録されているものを一般用に書き下ろしたもののようですが、全集を目にする機会のない私のようなものには、拝みたくなるような、ありがたい企画です。まだポツポツと拾い読みしているの段階なので内容には触れませんが、全部読んでしまうのが惜しい本に久しぶりにで会った感じです。できれば「集団就職」も同じように読みやすい記録にまとめてもらいたいものですが、これはうちあたりがやってもいい企画、かもね。 。
(あ)

これが女中の本。
3ヶ月で増刷している

No.212

八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし
卵のふわふわ
(講談社)

宇江左真理

 時代小説である。題名から主役は「食べ物」のようなので読もうと思ったのだがアテははずれた(いい意味で)。食べ物は脇役だったのである。6篇の短編からなる連作だが、登場する食べ物は「黄身返し卵」「淡雪豆腐」「水雑炊」「心太」「卵のふわふわ」「ちょろぎ」。これらが物語の渋い脇役として絶妙の味をかもし出している。主役は22,3歳の奉行所詰の武士に嫁いだ「のぶ」。江戸時代にもこんな若い女性がいたの、とこちらの既成概念をひっくり返す言動で物語の進行をつかさどるのだが、なにしろのっけから夫婦不和で、主人よりも舅(イメージで言えばほとんど藤田まことである)にひかれる(人間としてだが)女主人公というのだから時代小説では型破りの設定といえなくもない。池波正太郎や藤沢周平の時代小説を読みなれた人には違和感があるかもしれないが、著者の狙いは逆にそういったところにあったのかもしれない。池波、藤沢では絶対に描けない封建時代の若い女性の心もようが、息苦しくならないほどの筆致で鮮やかに活写されている。こんなふうに食べ物を脇役につかい、かつ江戸の若い女性像を楽々と造型できる著者の力量には舌を巻く。読書の快楽と、勉強までさせてもらったためになる労作。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.212 9月25日号  ●vol.213 10月2日号  ●vol.214 10月9日号  ●vol.215 10月16日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ