Vol.220 04年11月20日 週刊あんばい一本勝負 No.216


いつのまにやら田んぼ消え……

 一週間の長野・東京の旅を終えて帰ってくると、事務所前に大きな建物が建っていました。ほぼ四半世紀見慣れた景色が、ある日突然変わっていた、というのはけっこう心臓に負担がかかる驚きです。まあおおよそのイメージはシミュレーションしていたのですが、それにしても見慣れた景色が劇的に変貌してしまうというのはショック。まだ右隅にわずかな空間が残っていますが、ここにもいずれは建物が建ち、わが事務所の前から以前のようなのどかで潤いのある田んぼの風景が消えてしまうのは時間の問題でしょう。
 そういえばここに引っ越してきたころ2階の窓からきれいに太平山が見えたのですが、いつのまにか見えなくなっていました。消えていくものを惜しむより、これまでこの穏やかな風景にどれだけ心癒されてきたかを思い出に残し、感謝すべきなのかもしれませんね、これからは。しかし田んぼの風景が消えてしまうと10回に1回はこのニュースで取り上げてきたネタがなくなることも意味します。定点観測(レポート)できる他の何かを探さなくてはいけなくなってしまいました。
(あ)
こんな大きいものが建つんだ

ブラジル移民100周年の記念写真集計画

 東京で作家のF崎康夫さんと会ってきました。F崎さんは海外移民史の研究書やノンフィクションで高名な作家ですが、ブラジルの邦字新聞「ニッケイ新聞」東京支社長でもあります。ブラジル移民は2008年、移民100周年を迎えます。それにあわせて小舎で所有している3000カットの古い写真を使い、記念の写真集を出すという計画が持ち上がり、F崎さんにはその編集をお願いしたいと思っているためです。08年というとまだまだ先のようですが記念誌をつくるとなるとこの時期から準備をはじめないと間に合いません。なんとか実現にこぎつけたいと思っています。ひととおりの打ち合わせが済んだ後、F崎さんから最近の移民事情などをお聞きしました。
 日本への出稼ぎに関してはもうすっかり定着、その出稼ぎ再移住者向けビジネスも盛んだそうで、その子弟たちは日本の大学を出て、社会的な発言も出来るほどの年月がたったというのですから驚きです。それにともなってサンパウロにある邦字新聞も地元の老移民向けの情報発信から、日本の若い人たちへの母国情報や社会的提言といったレヴェルのメディアに変化しつつあるのだそうです。またブラジルが面白くなりそうでゴゾゴソ昔のノートなどを引っ張りだし、企画の練り直しなどしてしまいました。
(あ)

宝物の古い移民写真ネガとF崎さんからいただいた本

箱入り息子

 我が家には1匹の猫がいます。チンチラシルバーという種類で原産国はイギリスのようです。ペルシャ猫の系列なので毛は長く、まん丸の緑色がかった目がかわいいいオス猫で、名前を「シャー」といいます。我が家に住むことになったいきさつですが、4年ほど前のこと、当時無明舎の社員だったSが「お母さんがアイルランドに英語の勉強行くことになり、飼っている猫をどうしようか迷っている」という話が出ました。そこで大の猫好きの私が預かることになったのです。当初1年ほど、という話でしたが、その後お母さんがアイルランドからイギリス、フランスと住まいが移ったため、これ幸いとそのまま我が家に住み着くことになったのです。なかなか奇心が旺盛で、私が何か変わったことをしていると必ずといっていいくらいのぞきに来ますし、女性が好きらしく、娘が風呂に入っていると脱衣場で出てくるのをじっと待っています。朝早く目覚めると私のベッドに朝ごはんの催促に来て、起きるまでうろうろしています。
 この猫、どういうわけか箱が好きで、ダンボールの空箱などを見つけるといつの間にか中に入ってすやすや寝ていますが、中でもお気に入りが写真にあるイチゴの空き箱です。ちょっと狭いところがいいらしく、いつもくるっと丸くなって気持ちよさそうに寝ています。おそらく年は7歳なので、あと7〜8年は我が家のアイドルとして皆を楽しませてくれるでしょう。
(鐙)

好奇心旺盛のほか臆病、気まぐれ、人見知り、男嫌いという性格です

今週の花

 今週の花は、スプレーバラ、ガーベラ、スプレーカーネーション、千日紅、スプレーマム、グラジオラス。グラジオラスは、先日、大曲農業高校太田分校の収穫祭に取材に行ったあんばいがいただいて帰ってきたものです。春から夏に咲く花なので、今頃に咲いているのは珍しいと思いましたが、球根を植える時期を調節することで開花時期もズラすことができるそうです。グラジオラスはアヤメ科ですが、湿地以外でも栽培できるので近所の庭や畑でよく見かけます。そこでは、背が高いので倒れないようにヒモで添え木に結わえられてことが珍しくありません。昔は「ゴージャスな花なのにこんな扱いをうけてかわいそうに・・・・・」と思ったこともありましたが、今ではあたりまえの光景で何とも思わなくなってしまいました。
(富)

No.216

袋小路の休日(講談社文芸文庫)
小林信彦

 カミさんから頼まれて坂口安吾の「桜の森の満開の下」という本を探していたら新刊(!)で講談社文芸文庫から出ていた。文庫本300ページほどで1400円という定価には驚くが、本書も同じようなもの文庫で1300円。でも値段よりも「よく出してくれたなあ」と版元に感謝するのが筋だろう。ネットの「日本の古本屋」でもめったにヒットしない名作を、版元はたぶん2千部前後しか出せないから、こんな値段になるのだ。これが21世紀のウソ偽りない出版事情なのである。坂口安吾どころか小林信彦という同時代作家の「名作」ですら、こうして「文芸文庫」という特殊扱い(小部数)でしか出ない時代なのだからなにをかいわんやである。本書は小生の好きな連作短編集。世に捨てられた老残の元雑誌編集者、激変する東京の街と沸騰する寸前の1960年代の若者やメディアの周辺を舞台に、編集者やフリーライターの日常の断面がおだやかに深く描かれている。7つの短編の中では家族で荒川線の電車に乗る「路面電車」がいいと思うのだが、実在の老残名物編集者を描いた「隅の老人」も捨てがたい。若いころは著者の「オヨヨ」シリーズや「唐獅子」の熱狂的ファンだったが、この年になると「ヒューマンな風俗小説」(阿佐田哲也)に食指が動くのだが、こうした本はほぼ文庫化の後、絶版の運命を辿るしかない。

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