Vol.234 05年2月26日 週刊あんばい一本勝負 No.230


また、たな卸しの季節がやって来た

 小舎のたな卸しは2月と8月の年2回。そのたびに「主婦軍団」が10名近く出動して煩雑な作業をしてくれます。今年もその季節がやって来ました。ちょうどタイミングよく「ラルート」の発送作業や大口注文本の仕分けなどの仕事が重なり、連日の主婦軍団登場で舎内は久しぶりににぎやかです。
 その頼もしい主婦軍団ですが最近ちょっと異変があります。メンバーが何人か若者に入れ替わっているのです。これは主婦軍団のお子さんたち(大学生)です。こんな不況の時代ですのでパートに出ていて来られなくなった主婦も多く、その代わりに息子さんや娘さんが来ている、というわけです。若者が多くなると主婦だけの時と違い、とても静かです。主婦軍団のパワーは「やかましさ」にあった、と気づかされるほど今の若者は無口でおとなしいのです。アルバイト主婦軍団とはいっても、小舎の商品知識や在庫ストックの数値に関しては、みんな大変な知識をもっているプロフィッショナルたちです。この主婦たちがパートを得て外に仕事に出るようになると、無明舎は本当に困ったことになります。いつまでも小舎のたな卸し、よろしくお願いします。
(あ)

厳寒の倉庫で黙々と働く

気持ちと手触りのいい2冊の本

 最近、自分のところで編集出版したものなのだが、大々的に書店に並べて売る本ではないので、あらためてここで紹介させてもらいたい2冊の本があります。1冊は富樫風花さんの句集『風の地図』(定価2000円)。鋭い感性を懐のひろい言葉で包み込んだ俳句300句が詰め込まれている初めての作品集です。
  「冬凪やなんにも決まつてない明日」
  「雪代やトンネルゆるく坂なして」
  「姉妹厨に立ちて枇杷食へり」
  「連行される如く腕組み盆の月」

2冊の本
富樫さんはお姉さんも有名な俳人で、「童子」という俳誌の同人です。趣味の領域はとっくに脱し、句と向き合う姿勢は鬼気迫るものがあります。女性なのに「相撲」にちなんだ句が多いのも「読みどころ」です。
 2冊目は鷹巣町在住のカメラマン・宮野明義さんの写真集『光と影』(定価1890円)。これは宮野さんが20年以上、折に触れて撮り貯めた雪国の四季のモノクロ風景写真100葉を編んだものです。宮野さんは以前にも小舎から『岐路に立つ村』や『大太鼓の里』といった写真集を出していますが、今回の写真集は、テーマを決めて撮った作品ではなく仕事の合い間に撮り貯めた風景スナップの集大成、というところがミソ。カラーやデジタルから一線を画し、モノクロームのアナログ世界にこだわり続けた一徹なカメラマンの静謐感にあふれた作品集です。
 この2冊とも私家版要素の濃い本なので、部数はわずかしかありません。ですが小舎に直接注文してくだされば、責任を持ってお送りします。興味のある方はどうぞ。
(あ)

街道好きのターミナル・道路資料館

 仙台に「道路資料館みちあむ」という施設があります。国土交通省東北地方整備局が運営している道路専門の資料館です。今では日本各地に同様の施設がありますが、建設当初は「日本唯一、道路専門の」という売り文句がついたそうです。私にとってこの資料館の魅力は豊富な道路や河川の本で、日本中から集められた豊富な資料を閲覧できます。ここの強みは市販の本ばかりでなく、国土交通省などの行政サイドで作った本が多いことです。『・・道路工事誌』とか『・・・道路調査報告書』など、一般の人が簡単に手に取ることが出来ない本がたくさんあります。私も『東北の街道』を作るとき、東北各県から集められた100冊以上ある『・・・街道調査報告書』をここで一挙に調べることが出来、ずいぶん重宝しました。私と同じような思いの人も少なくないと考え、無明舎出版でも街道や河川関連の本を制作すると寄贈しています。また、この資料館では「みちのく歴史街道研究会」という街道友の会をつくり、宮城県周辺の街道探訪会を催したり、街道に関わる研究をしている人に講演を依頼し、「道を語る講演会」を開催したりしています。昨日(2月26日)、この講演会が催されたので、私もお話をうかがいに仙台まで行ってきました。
 演題と講師は「街道を活かした地域づくり」(宮城大学助教授・宮原育子氏)と「古代の道と陸奥国」(東北大学院助手・永田英明氏)でした。宮原先生は山形県高畠町の二井宿など三つの宿場からなる「三宿地域連携協議会」の活動を紹介し、街道や峠を使った地域活性化のお話を聞かせてくださいました。また、永田先生は陸奥国(みちのく)における平安時代などの古代の道として、東山道や東海道のお話をし、江戸時代以前の道の様子分かりやすくを教えてくださいました。
 宮原先生に挨拶すると「無明舎出版のHPは良く見ていますよ。鐙さんの週間ニュースも読んでいます」といわれ照れてしまいました。会場には街道に関わっている人がたくさん来ていて、中には久しぶりにお会いした方もいて、しばしの間近況報告会となりました。近々、街道の本を出す予定の方と打ち合わせをしたり、今年立ち上げる計画の「東北街道交流会議」の話をしたり、仙台市内の古書店を回ったりと、有意義な一日を過ごしてきました。
(鐙)

満員の聴講者を前にしてお話をされる宮原先生

No.230

生きていくのに大切な言葉
       吉本隆明74語
(二見書房)

勢古浩爾

 父親が亡くなったという報を東京でうけて秋田に帰るまでの間、この本をずっと読み続けていた。たまたまそばにあったからなのだが、着の身着のままで実家に着き、あわただしく葬儀を終えて、一息ついたとき読み終えたこの本しか手元になく、しかたなくもう一度読み返した。いや「しかたなく」というのは失礼だ、新しい本を入手できない場所にいたために再読した。毎日、肉親の死と向き合っていた日々にもこの本の言葉は、私の心のなかで凛とした力をもって「育っていた」ような気がする。「言葉のアンソロジー」にはあまりに美辞麗句やパターン化された、決まりすぎ言葉の羅列が多く、そのほとんどが心に残らないのが常だが、この本の言葉は違う。それは著者が言うように「自分を安全な場所に置いて、自分だけは傷つきたくないという怯ダがない。見上げる嫉視がない。見下す傲慢がない。追従しない。遁走しない。信用できるのだ」。吉本本人の言葉としては「本気かよ」というのが私は好きだ。「いいことを照れもせずにいう奴は、みんな疑ったほうがいい」というのもなかなかだし、「あなたのもっとも嫌いなタイプの人間は? 正義をたのみにする者、集団をたのみにする輩」というのもいい。しかし本書の本当の魅力は、実は吉本の言葉に源泉があるのではなく、著者の勢古の解説にこそ真髄があるのがミソ。

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