Vol.237 05年3月19日 週刊あんばい一本勝負 No.233


結城登美雄さんが「芸術選奨」受賞!

 私たちの友人である仙台在住の民俗研究者・結城登美雄さんが「地元学」の功績が認められて、今年の芸術選奨を受賞しました。受賞者には宮沢りえさんや大竹しのぶさんなどそうそうたるメンバーが居並びますが、結城さんは新設された「芸術振興部門」での初受賞ということになります。結城さんとの付き合いはもう10年近くになります。20人以上いたデザイン会社を数年かけてたたみ、念願の民俗研究者として東北の村々をコツコツと一人で歩きはじめました結城さんの姿をすぐ近くで見てきたものとしては、今回の受賞は感慨深いものがあります。
 また、結城さんは知る人ぞ知る有名人なのですが、実は本は1冊しか書いていません。それが小舎から1998年に出た『山に暮らす海に生きる』(定価2500円)です。この本は今も売れ続けているロングセラーです。今回の受賞で注文が増えていますが、小舎ではHPでの書き下ろし連載や2作目の執筆依頼もしています。なかなか多忙で実現しないのですが、これからもしつこく執筆依頼を続けていくつもりです。結城さん、本当におめでとうございました。
(あ)

朝日「ひと」欄の受賞記事と、結城さんの本

仕事で30年付き合っている人

 Mさんと秋田で呑むのははじめてではないだろうか。Mさんは70歳を超え、今も仕事をさせてもらっているF印刷の子会社の社長。はじめてこの印刷所と付き合いはじめてから、ずっと小舎の担当責任者だった方である。本社のある山形では何度も接待を受けているのだが、秋田でこちら側が接待するケースは、30年もの付き合いではじめて(小さいくせに傲慢な出版社といわれる由縁です)。
 小舎が資金繰りで一番苦しかった時代や印刷上のトラブルが続いたときも、まじかで冷静に事の処理に当たってくれた人でもある。いつかはちゃんと御礼をしなければ、と思い続けていたのだが、なにせ親会社とはいまもバトル(仕事)の日々が続いているので、なかなかそのチャンスはなかったのだが、今回どうにか実現。こういう人たちに支えられて無明舎はなんとか30年もってきたのです。この30年間のことを、2人だけにわかる「言葉」でボソボソと笑いながら語り明かした、ちょっぴりセンチメンタルな一夜でした。時間が過ぎるのは早いなあ、としみじみ感じました。
(あ)

Mさん

No.233

青い月のバラード(小学館)
加藤登紀子

 大人になっても聴ける歌をうたえる大人の歌手は、この日本にそんなに多くはいない。そういう意味で著者は珍しい存在だと思うのだが、外国にはこういったタイプの歌手がたくさんいる。日本は歌のバックグランドが幼稚すぎるマーケットなのかもしれない。20代以下の子供たちの専売特許なのだ、この国の音楽業界では。加藤登紀子の歌(歌詞)はいい。同時に書く文章もいい。表現者としての有能な資質が文章の中にもきらめいている。天性の詩人といっていいかもしれない。人を感動させる表現者は、その人生観も特異な人が多い。特異でなくても独特のものがある。本書は夫との出会いから永訣までの物語だが、なかに加藤登紀子が函館空港でハイジャックにあった文章がある。拘束された機内で彼女はこんなことを考えていたという。「生きている時間は川の流れのようなもの。目的に向かって流れているようでもあるけれど、実際には生きている限り流れ続ける偶然の中にいるのだ。どこまでたどり着かなければならないという義務はない。「ここで終わりだ」と突然言われても、特に「いやだ」と言うことはない。こんな風に直接には痛くも、怖くもない、想像の中だけで死を想うとき、死というものは甘美でさえある」。世界の変革はマージナルから始まる、という著者の思想がイキイキと脈打っている「追悼文」である。

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