Vol.244 05年5月7日 週刊あんばい一本勝負 No.240


今年のお花見は男二人で

 前日の夜遅く、散歩の足を延ばして千秋公園まで歩き、人気のない公園で花見をしてきました。知らなかったのですが観桜会は終わっていて桜も散り終えつつありましたが、公園の照明はついたままで、暴走族のような若者たちが寂しそうにたむろしていました。
 次の日は新屋の西中学校前の桜並木を見ながら三戸先生と昼を食べました。同じ市内なのに、こちらは今が盛りと咲き誇っていました。三戸先生は無明舎のHPに「ケンジョーシャに訊きたい」を連載している若い数学教師です。桜並木の中を、車椅子の男性教諭と疲れた中高年男性のカップルが談笑しあいながら仲良く歩いている図は、ちょっと理解を超えています。
 桜並木の中ほどにあるS食堂で食事をしたのですが、ここの女主人は三戸先生のファンで、お蔭で至れり尽せりの心のこもった食事を楽しむことができました。三戸先生は今、学級担任になりたい、という要望を学校に出し続けています。学校側にすれば、不慮の事故のとき障害を持っていては対応が難しい、と難色を示したままですが、三戸先生は粘り強く要望を出し続けています。
(あ)

新屋の桜並木

生ハム工場を見学に行く

 官庁街の秋田市山王にあるスペイン料理屋「グランビア」は四半世紀以上続いている老舗のレストラン。オーナーの金子さんと無明舎は、ほとんど創業時からのお付き合いで、お店をよく利用させてもらっている。ここのメニューはみんなおいしいが、なかでも生ハムは絶品。もちろん自家製で、年々客のリクエストが多くなり、ついには協和町(現大仙市)に生ハム工場をつくったと聞き、見学してきました。レストランの副職程度に考えていたのですが、行ってみるとその規模の大きさにおどろきました。業界のことは知りませんが、大手食品会社でもない個人経営のオーナーが、ここまで一生懸命生ハム造りをしているというのは珍しいのではないでしょうか。
 もう15年以上、独学で試行錯誤を繰り返し、ここ数年でようやく満足の行くものが造れるようになった、と金子さんはいいます。注文は東京を中心としたレストランやバーからが多く、すでに自分の店で売る数百倍もの生ハムを他所に卸している。変わったところではイノシシや鹿、沖縄の黒豚などから造る生ハムも試作中だった。この工場は将来有望ですねえ。
(あ)

唐松温泉の近くにある生ハム工場

東北一在庫の多い骨董屋

 秋田県美郷町(旧仙南村)に、巨大な骨董屋があります。「東北一安い骨董屋」が店のキャッチフレーズですが、在庫(?)の多さも圧倒的。大きな2階建ての店舗のほか、倉庫のような建物が数棟並んでいて、中には骨董が天井まで積まれています。私は10年以上前からこの店に通っていて、以前は白岩焼きの大きな片口や皿など買っていましたが、最近はもっぱら酒器に凝っています。明治頃の白磁染付けの徳利が特にお気に入りで、行くたびに安い物を1〜2本買ってきます。時代劇に出てくる侍が、居酒屋でひとり傾けているような首長の徳利です。先日行った時には、漆塗り仕上げの曲げわっぱの「はかま」が5個あったので、全部買ってきました。昭和初期の物らしく1個300円です。こんな「はかま」は見たことがなかったので、つい買い占めてしまったのです。
 2年ほど前まで、家で日本酒を飲む時の徳利や杯は、もっぱら厚手の陶器を使っていましたが、ここのところ薄手の磁気ものに好みがすっかり変わってしまいました。首長の徳利で温めに燗をつけ、薄くて浅い杯で飲む酒は格別です。それも新しいものより、明治頃のものが好きで、そのため美郷町の骨董屋に通う回数も多くなりました。その骨董屋、行くたびに店が大きくなり、在庫がアメーバーのように増え続け、あふれた大量の雑器が何万点も外に並んでいます。初めていった人はあまりの品物の多さにあきれて、うろうろしておしまいとなるようです。先日も、北海道から来た骨董好きの兄貴夫婦を連れて行きましたが、2時間ほど骨董の間をさまよってなにも買わずに帰って行きました。
(鐙)

白岩焼きなどが並ぶ一角

外にあふれ出した雑器の一部。壁にはバス停の看板がずらりと並んでいた

No.240

ビトウィン(集英社)
川上健一

 「翼はいつまでも」は本当に感動した。読みながら涙が止まらなかった小説はそう多くはない。すごい作家がいるもんだなあ、といっぺんでファンになった。その作家のエッセイ集だから、正直なところ発売日が待ちきれなかった。「翼はー」は著者が10年ぶりに書いた小説で、この謎(?)の空白の10年間を綴ったエッセイなのである。この作家は10年前、突然、嫁と生まれた娘の3人で信州の山奥に住み、釣り三昧の極貧生活を送りはじめたのだ。そのへんの舞台裏は詳しく触れられているわけではないのだが、転居にはさして大きな意味があったようではない。ともかく愉快な田舎の仲間たちとのシンプルライフや、愛する家族との貧乏生活が楽しいらしく、著者の口から田舎暮らしのグチも不満もほとんど出てこないのが潔い。本書の前半はほとんどが食糧としての岩魚釣りの話で、釣りに興味がないこちらはゲンナリするが、書き手が一流なので退屈な釣り話にもどうにかお付き合いできた。後半はにわかに「翼はー」の制作夜話ふうの話が多くなる。こちらは、つんのめるように本に顔を埋め、行間に目を凝らし、吸い込まれるように活字に集中できた。(「翼」という長編小説執筆)はかなり気持ちよく筆が進んだようで、「どんどん進む」という表現が何回か見受けられた。

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