Vol.247 05年5月28日 週刊あんばい一本勝負 No.243


タクシーも本屋も消え、焼肉の煙だけが…

 事務所の100メートルほど先にあったAタクシーが消えてしまった。「無明舎」といっただけで市内のどこからでも届けてくれたなじみのタクシーだったが赤字補填のため売却されたのだそうだ。タクシー運転手の窮状(賃金の安さ)は乗る度に聞いていだが、本社の経営が容易ではないとのこと。ゆうに野球場ができそうな敷地で、舎を尋ねてくる人の目印にもなっていた営業所だったのだが、売値はわずか2,3億らしい。

消えたタクシー会社の跡地
 同じように近くにあって雑誌類を届けてもらっていた本屋さんもすでになく、配達だけはかろうじて続けてもらっていたのだが、その配達も滞りがちで、ついには週刊誌が2か月分まとめて届くようになってしまった。この町内という一隅から見ているだけで、日本という国が今どんな状況にあるのかがよくわかる。最後に沈没する東京の華やかなイメージに多くの人が幻惑され、ゆっくりと身体を蝕みつうある病魔に気がつかないでいるのは怖い。地方は炭鉱のカナリアなのだ。
 最近、無明舎のまん前のアパートに引っ越してきた学生は、車道にはみ出して公道に七輪を置いて焼肉宴会をしていた。あいた口がふさがらない。何かのパフォーマンスかオフザケか、嫌がらせと思ったのだが、どうやら本気で煙モウモウの焼肉パーティを楽しんでいるのだ。車も人の往来も気にならないらしく、迷惑や人目なぞはなから問題外なのだ。この「無自覚」もかなり恐ろしい。
(あ)

美女峠とソースカツ丼

 先週の週間ニュースは「峠歩きとかりんとう」でしたが、今週も似たような話です。先週末、福島県会津地方に行ってきました。目的は「旧銀山街道と美女峠歩き」と、知り合いが会津若松で居酒屋をやっていますが、店を新しくしたというのでそのお祝いを兼ねての訪問です。秋田からはフリーライターのFさんとNさん、東京からは友達のHさんが同行しました。 知り合いのSさんがやっている居酒屋は「籠太」といい、会津の郷土料理を始め、さまざまな旨い肴と日本酒を揃えている店です。私に言わせれば、会津はおろか福島県を代表する居酒屋の一軒といえます。その店が同じく隣に経営していた「ふくまん」という郷土料理店を改造し、合わせて一軒の店にしたのです。名前は以前どおり「籠太」で、やはり会津の郷土料理を中心にすえています。料理は全てお任せにし、日本酒好きの私とHさんは次々と杯を傾けて、最高にご機嫌な夜となりました。

新装なった「籠太」の入口。会津に行ったら是非足を運んでください
 翌日は西会津の三島町から旧銀山街道を歩き、美女峠を越えて昭和村に下りる、約8キロの旧道歩きです。街道の名前は軽井沢銀山から若松まで銀を運んだために付いたもので、今回歩いた道はその延長にあります。三島町に住む郷土史とチョウの研究家Tさんが案内を引き受けて下さいました。Tさんとは「ふくしまけん街道連絡会」で知り合い、案内をお願いしたのですが、この企画が新聞に載ったこともあり参加者が55人にもなるという盛況振りでした。新緑のブナに囲まれた道を4時間ほどかけて歩きましたが、ゴールに着くとほとんどの人の手には山菜で膨らんだ袋がぶら下がっていました。さまざま味わった会津のおいしさの仕上げはソースカツ丼です。昔から(たぶん戦後)会津はソースカツ丼地帯として知られています。それぞれの店で工夫した独自のソースでカツを軽く煮込んだもので、我々は道の駅で働く女性から「あそこはおいしいです。私も昔から食べています」と教えられた西会津町の若草食堂に迷わず突入。ニコニコした女将さんと同じように、ほのぼのとした味わいのカツ丼に大いに満足です。たくさんのおいしいお土産を車に積んで、会津を後にしました。
(鐙)

峠では美女たちが記念撮影

若草食堂ではオリジナルのたれがかかっていて、一見「味噌カツ」風

No.243

アマゾン河の食物誌(集英社新書)
醍醐麻沙夫

 新聞連載のため秋田の食文化のことを調べていたら、思いもかけず九州の焼酎とアマゾンの主食マンジョカ芋と秋田の食文化が1本の線でつながる出来事に遭遇した。あわててマンジョカ芋の事を調べ始めたが、これがなかなかうまい資料が見つからない。うちにはブラジル関係の資料がかなり多くあるのだが、そうした身近な食や日常生活について書かれた本は意外と少ないのだ。本書の著者は、小舎から『「銀座」と南十字星』という短編小説集を出している。だから顔なじみなのだが、釣魚紀行の名作「オーパ!」のアマゾン取材の開高健の案内役として一般的には有名のようで、作家として紹介される機会はそう多くない。最近の彼の小説は日本を題材にとった推理物が多く、ブラジル物は久しぶりである。さすがにホームグランドだけあって、体験に根ざした記述の「濃さ」と「正確さ」は他者の追随を許さない。学者物と違って脱線がおもしろいし、素人ではないからおもしろく読ませる「つぼ」を心得ている。ポルトガル語が堪能なので現地の資料を読みこなせるし、経験や体験の豊富さが文章の懐を深くしている。マンジョカ芋についても、たっぷりといろんな知識を貯えることができた。この3月に出たばかりの本だが、これは版を重ねてロングセラーになって欲しい本だ。

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