Vol.249 05年6月11日 週刊あんばい一本勝負 No.245


こころやり

 秋田県の中央部、大仙市土川(旧西仙北町)に心像という地区があります。心像とは難読地名のひとつでしょうが「こころやり」と読みます。『西仙北町郷土誌』によると、昔は「心遣」と書いていたそうです。「遣」という字は「思い遣り」とかで使う字ですが、いつの頃からか「遣」が「像」に変わった、としていて、昔は「想像」と書いて「おもいやり」と読んだので、それにならったのではないかと推測しています。江戸時代の紀行家・菅江真澄は著書の中で「心像」と改めたのは、「享保(1716〜36年)の始め頃からであろうか」と記録しているようです。

心像の田んぼで田植え後の補植をする高校生たち
 心像は戸数150戸ほどの周囲を山に囲まれた農村地帯です。先日取材でこの心像に行ってきました。この地区に後に角館に移り白岩焼きを始めた松本運七の「心像市道の窯跡」がありますが、その撮影のためです。窯跡に立てられた記念碑の写真を撮り終わりましたが、車窓から見える田んぼの小さな苗が揃って並んだ景色がとても美しいため、ゆっくり車を走らせていました。その時ふと目に飛び込んできたのが「心像」と書かれた大きな暖簾です。店は酒屋さんだし、どうも日本酒の名前のようです。私は以前からこの地名の優しい語感がとても好きだったので、迷わず店に入ってみました。応対してくださったおかみさんに聞くと、大仙市神宮寺にある「福乃友酒造」のお気に入りの日本酒を、特に頼んでビンに詰めてもらったプライベートボトルだそうです。その会話から、愛する地元の地名と大好きな日本酒と組み合わせたんだ、という気概がひしひしと伝わってきました。四合びんを1本買ってきましたが、日本酒にしてはちょっと濃い目の色がついていて、アルコール度数も18〜19度とちょっと高めです。とろっとした味わいの甘口の酒で、なかなかいけます。飲みながら、「あー、もう1本買ってくればよかった」と後悔しましたが、また 心像の美しい田園風景が見ることが出来る、と内心喜んでもいます。
(鐙)

事務所の社長室を再オープン?

 東京事務所の移転・縮小で、入りきらない事務備品が秋田に戻ってきました。大きな食器棚や本棚、ソファー、大型テレビなどの「返品」で、これまで閑散としていた事務所2階は、いっきょに豪華な雰囲気を取り戻し(仕事にはなんの関係もないのですが)、あの昔の社長室がカムバックしたようです。これは大型プラズマ・テレビの存在が大きいのでしょうが、けっきょくテレビがあっても誰も見るヒマなどなく無用の長物なのですが、投げておく訳にも行かず、まあ部屋のアクセサリーとして当分はがんばってもらうしかないようです。食器もかなりの数が増えてしまいました。東京事務所は生活することを考えていたためこうした家財道具が多かったのですが、頻繁に東京にはいけないことがわかり、これもまた返品の憂き目にあいました。毎日2階でみんなが食事を取っているので、食器はそのときに役立つかもしれません。ソファーも助かります。これまでは1階の応接室のソファーで疲れると横になっていたのですが、来客のたびに飛び起きなければならないので、おちおち寝ていられませんでした。
 これでゆっくり休めます。今回の引越しのおかげでかなり大胆にいろんなものを処分することができました。人間は身の回りが軽くなると想像力が豊かになり、創造力がまします。年とともにドンドン身の回りを軽くしていく、という生き方は理想ですね。
(あ)
なんともまあ変わってしまった2階

No.245

奥様は毒舌(祥伝社)
青月ぱそる

 「農家の長男と結婚したら……すごいよ!」「田舎の人々 ハッキリ言って、大嫌いです」といったコピーがカバーやオビにちりばめられている。都会から田舎に嫁いだ嫁の過激な独り言である。基本的におもしろくない本はここには取り上げないので、この本もそれなりには面白かったのだが、一番期待した「田舎もの」への悪口雑言のレベルには少々がっかり。というか、この本はそもそも「田舎」への毒舌になっていないのである。たまたま嫁いだ旦那とその実家を「田舎もの」と仮想敵国にして悪口三昧で溜飲を下げているだけで、ほとんどどこにでもいる、程度の悪い夫婦のバトルの域を出ていない。「田舎もの」という言葉が単なる罵倒語以上ではないのが辛いところだ。これなら新宿区生まれと葛飾区生まれのケンカでも内容は同じだろう。相手を憎いと思ったときにでる侮蔑的な差別語が「田舎もの」というのであれば、この著者はもうこの手の旦那と一緒になった時点で、自分もかなりの田舎ものであることを自覚しないと本の内容に深みは出てこない。まあ、ウェッブ連載を本にしたものらしいので、そこまで計算された内容を求めるのもナンだが、タイトルのつけ方、カバーデザインもけっこう「田舎臭い」(こういうふうに田舎という言葉は使う)。編集者はたぶん、内容に反して過激なタイトルやコピーに、読者から羊頭狗肉の反発があるのを意識したのだろう、オビの「田舎の人々」という横に7ポぐらいの小さな活字で(注・旦那の実家近辺の人々)と注記を入れている。これもせこい。

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